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第五十二話 兄との再会
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朝起きると水浴びをして宿の側を散歩していた。
空気が澄んでいて気持ちがいい朝だった。
他の宿の付近を通ると裏の井戸で水浴びをしている青年に会った。
「おはよう。空気が澄んでて気持ちがいいな?」
「あんた誰だ?」
ぶっきらぼうに応える青年に微かに見覚えがあった。
誰かに似ているという程度なのだが、誰かが思い出せない。
「あれ、前に会った事あったかな?」
「お前の勘違いじゃねーの?」
「厳しいな~う~ん、確かに会った事ありそうなんだけどな~、俺は
天野大成。君の名前は?」
「…知らね」
「知らないって事はないだろ?」
「しつこい…」
その青年は自分の名前を名乗ろうとはしなかった。
仕方なく、約束の時間もあるのでそのまま立ち去ろうとして足を止めた。
「春っ!何やってるんだ?ご飯食べに行こう?」
「お前な~勝手にその呼び方やめろよ?」
「…!」
天野は振り向くと見慣れた顔がそこにあった。
「椎名…くん?」
「えっ…春っ、早く行こう!こいつらには関わっちゃダメだ。」
「何言ってんだ?」
「いいから、行こう」
椎名は慌てるように青年の腕を掴むと帰ろうとする。
「椎名くん!待って…。」
「春が死んだ時、悲しみもしない奴等に交わす言葉はない」
「春って、春樹の事なのか?彼は春樹なのか?」
「違う、でも…俺には春だ。絶対に今度は死なせない」
青年は椎名と天野の会話に疑問符を投げかけながらも椎名の言葉に従った。
「お願いだ、話だけでも…」
天野は青年の腕を掴もうと伸ばすとバシィーーーンと叩き落とされた。
「春に触るなっ…」
「春樹なのか?なら君に話が…」
天野は確信が持ちたくて青年と話がしたいと思ってしまった。
椎名にはそれすら許せないのだろう。
「あのさ~その春樹って誰なの?」
青年の口から言われた言葉に天野は淡い期待すら消えた気がした。
やっぱりあの時死んだのだと。
「気にしなくていいよ。名前ないと不便だろ?春でいいじゃん?」
「お前ずっとその呼び方で呼んでるよな?」
「別にいいだろ?俺の事も椎名って呼んでくれよ?」
「やだっ…面倒じゃん?」
面白がるように青年は笑った。
天野には、まるで春樹が重なったような気さえする。
顔は別人で性別も違うのに、直感がどうしてもそう思えてしまうのだ。
天野は諦めるように宿屋へと戻った。
冒険者ギルドには朝早くから一つの遺体が運び込まれていた。
夜に襲撃してきた少年のものだった。
天野達は孤児院跡地の廃屋へ寄ると数人の子供達と一緒に冒険者ギルド
へと来ていた。
まずは登録する為である。
運び込まれた遺体は奥の解体場へと片づけられた。
ギルド職員が血を片づけていると天野と聖女が顔を出したのだ。
「この子達の登録いいか?」
「はーい、今から受け付けしますね~」
「何かあったのか?」
天野の質問に職員は笑って答えた。
「襲撃者が反撃されたと言う事で、遺体を引き取ったんです。」
「へ~どっかの刺客ですか?」
「それを調べるのが私達の仕事よ」
そうすると職員のポケットから血に染まったチェーンが床に落ちた。
ライトは拾うと渡そうとして手を止めた。
「レオ…兄ちゃん…」
「えっ…それって君のお兄さんのなのか?」
「うん、間違いないよ。これレオ兄ちゃんがしてたやつだもん。」
「すいません、その遺体って見ることはできますか?」
「えーっと、少し上に聞いてみないと…それと身元がしっかりしてい
ない人には…」
職員が答えに詰まると聖女が名乗りを挙げた。
「聖女であるわたくしが言っても見せていただけないのかしら?」
聖女は国を跨いでも尊敬される方だった。
聖女の証を見せると職員も納得したように地下の遺体安置場に連れ
て行ってくれた。
「ここか…?」
ライトは走っていくと遺体にかけてある布を取った。
そこにあったのはまだ幼く小学生くらいだろう年齢に見えた。
「レオ…兄ちゃん…どうしてだよ…なんで置いてくんだよ…」
「兄ちゃんだったか?」
「そのようですわね。でも、こんな無惨に殺すなんて…無力化すれば
簡単に捉えられそうですのに…?」
確かにそうだ。
こんな幼い子供など殺すまでしなくてもいいだろうに…。
獣人と言うだけあって、レベルも15で俊敏性が天野にひけを取らなか
った。
(あーー。これは確かに速さだけなら負けるかもしれないな…これを
殺せるってすごく強いんじゃ…まさか…)
思いあたる人間は一人しかいない。
朝あった椎名以外にこんな事できる人間がいるだろうか?
レベルはそこそこだが、生きてれば目で追うのも大変なほど速いに違
いない。
「ライト、兄ちゃんって何か依頼を請け負ったりとかしてないか?」
「いつも仕事で依頼を受けてるよ。何をしてるか分からないけど、い
つも鉄の臭いをつけて帰ってくるもん。今度のはいっぱい稼げるっ
て言ってた…もう、この街を出て他で暮らそうって。」
天野も聖女もなんとなくだが嫌な予感しかしない。
「ありがとうございます。彼の遺体は家族に返してもいいですか?」
「いえ、こちらでも少し調べたいので、それが終わったら返却しますね」
「分かりました。何かあれば俺らも手伝います」
その日は依頼どころじゃ無くなってしまったので冒険者ガードのみ作って
帰ってきたのだった。
空気が澄んでいて気持ちがいい朝だった。
他の宿の付近を通ると裏の井戸で水浴びをしている青年に会った。
「おはよう。空気が澄んでて気持ちがいいな?」
「あんた誰だ?」
ぶっきらぼうに応える青年に微かに見覚えがあった。
誰かに似ているという程度なのだが、誰かが思い出せない。
「あれ、前に会った事あったかな?」
「お前の勘違いじゃねーの?」
「厳しいな~う~ん、確かに会った事ありそうなんだけどな~、俺は
天野大成。君の名前は?」
「…知らね」
「知らないって事はないだろ?」
「しつこい…」
その青年は自分の名前を名乗ろうとはしなかった。
仕方なく、約束の時間もあるのでそのまま立ち去ろうとして足を止めた。
「春っ!何やってるんだ?ご飯食べに行こう?」
「お前な~勝手にその呼び方やめろよ?」
「…!」
天野は振り向くと見慣れた顔がそこにあった。
「椎名…くん?」
「えっ…春っ、早く行こう!こいつらには関わっちゃダメだ。」
「何言ってんだ?」
「いいから、行こう」
椎名は慌てるように青年の腕を掴むと帰ろうとする。
「椎名くん!待って…。」
「春が死んだ時、悲しみもしない奴等に交わす言葉はない」
「春って、春樹の事なのか?彼は春樹なのか?」
「違う、でも…俺には春だ。絶対に今度は死なせない」
青年は椎名と天野の会話に疑問符を投げかけながらも椎名の言葉に従った。
「お願いだ、話だけでも…」
天野は青年の腕を掴もうと伸ばすとバシィーーーンと叩き落とされた。
「春に触るなっ…」
「春樹なのか?なら君に話が…」
天野は確信が持ちたくて青年と話がしたいと思ってしまった。
椎名にはそれすら許せないのだろう。
「あのさ~その春樹って誰なの?」
青年の口から言われた言葉に天野は淡い期待すら消えた気がした。
やっぱりあの時死んだのだと。
「気にしなくていいよ。名前ないと不便だろ?春でいいじゃん?」
「お前ずっとその呼び方で呼んでるよな?」
「別にいいだろ?俺の事も椎名って呼んでくれよ?」
「やだっ…面倒じゃん?」
面白がるように青年は笑った。
天野には、まるで春樹が重なったような気さえする。
顔は別人で性別も違うのに、直感がどうしてもそう思えてしまうのだ。
天野は諦めるように宿屋へと戻った。
冒険者ギルドには朝早くから一つの遺体が運び込まれていた。
夜に襲撃してきた少年のものだった。
天野達は孤児院跡地の廃屋へ寄ると数人の子供達と一緒に冒険者ギルド
へと来ていた。
まずは登録する為である。
運び込まれた遺体は奥の解体場へと片づけられた。
ギルド職員が血を片づけていると天野と聖女が顔を出したのだ。
「この子達の登録いいか?」
「はーい、今から受け付けしますね~」
「何かあったのか?」
天野の質問に職員は笑って答えた。
「襲撃者が反撃されたと言う事で、遺体を引き取ったんです。」
「へ~どっかの刺客ですか?」
「それを調べるのが私達の仕事よ」
そうすると職員のポケットから血に染まったチェーンが床に落ちた。
ライトは拾うと渡そうとして手を止めた。
「レオ…兄ちゃん…」
「えっ…それって君のお兄さんのなのか?」
「うん、間違いないよ。これレオ兄ちゃんがしてたやつだもん。」
「すいません、その遺体って見ることはできますか?」
「えーっと、少し上に聞いてみないと…それと身元がしっかりしてい
ない人には…」
職員が答えに詰まると聖女が名乗りを挙げた。
「聖女であるわたくしが言っても見せていただけないのかしら?」
聖女は国を跨いでも尊敬される方だった。
聖女の証を見せると職員も納得したように地下の遺体安置場に連れ
て行ってくれた。
「ここか…?」
ライトは走っていくと遺体にかけてある布を取った。
そこにあったのはまだ幼く小学生くらいだろう年齢に見えた。
「レオ…兄ちゃん…どうしてだよ…なんで置いてくんだよ…」
「兄ちゃんだったか?」
「そのようですわね。でも、こんな無惨に殺すなんて…無力化すれば
簡単に捉えられそうですのに…?」
確かにそうだ。
こんな幼い子供など殺すまでしなくてもいいだろうに…。
獣人と言うだけあって、レベルも15で俊敏性が天野にひけを取らなか
った。
(あーー。これは確かに速さだけなら負けるかもしれないな…これを
殺せるってすごく強いんじゃ…まさか…)
思いあたる人間は一人しかいない。
朝あった椎名以外にこんな事できる人間がいるだろうか?
レベルはそこそこだが、生きてれば目で追うのも大変なほど速いに違
いない。
「ライト、兄ちゃんって何か依頼を請け負ったりとかしてないか?」
「いつも仕事で依頼を受けてるよ。何をしてるか分からないけど、い
つも鉄の臭いをつけて帰ってくるもん。今度のはいっぱい稼げるっ
て言ってた…もう、この街を出て他で暮らそうって。」
天野も聖女もなんとなくだが嫌な予感しかしない。
「ありがとうございます。彼の遺体は家族に返してもいいですか?」
「いえ、こちらでも少し調べたいので、それが終わったら返却しますね」
「分かりました。何かあれば俺らも手伝います」
その日は依頼どころじゃ無くなってしまったので冒険者ガードのみ作って
帰ってきたのだった。
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