第二王子に転生したら、当て馬キャラだった。

秋元智也

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聖剣と聖女と聖木と

27話 聖女の存在

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大きな荷物を持って現れたジェイムスにルイスは
飛びついて迎え入れた。

「おかえり、ジェイムス兄さん」

「あぁ、これでこの国から出て冒険者としてやっ
 ていける。ルイス本当にいいのか?」

「うん、僕もついて行くって決めてたから」

「そうか……、今日は祭りだ。楽しもうか?」

「うんっ!」

広場では宴が催されていた。
誰でも無料で飲み食い出来るとあって、混み合っ
ていた。

荷物は宿屋に置いて来ているので、身軽だった。

武器もない。

丸腰のまま祭りを楽しんだ。

それが、一瞬にして血の海になるとは思ってもい
なかっただろう。

王城で会ったスランは女装をやめて民衆に紛れて
ジェイムスの後を追って来ていた。

そこで、意外な人物を見つける事になる。
珍しい、黒髪の青年。
それは、さっき見たエリス王妃にそっくりな髪の
色の青年だった。

嬉しそうにジェイムスに飛びつくと、腕の中で微
笑む。
ジェイムスが廃嫡された理由はまさか……。

そう感じずにはいられなかった。

そして、もう一つ。
怪しげな人物を見つけた。

ジェイムス達を追うように付けている人物の存在
だった。

「どういう事だ?」

離れた場所から彼らを見守っていると、いきなり
数人の覆面の男達が広場でいきなり暴れ出したの
だった。



ジェイムスは周りの悲鳴に腰の剣を取ろうとして、
後悔した。
さっきの宿屋に置いて来たのだ。

「ルイス、急いで離れるぞ」

「でも、怪我してる人は?」

「そんな事はいい、まずはお前を安全な場所に置
 いたら戻ってくるから。早く行くぞ」

「そうはいかないかな~、久しぶりだな?ルイス
 殿下?」

「ケ……ケント……どうして」

「そうだ、この前さぁ~聖女って女を拐ったんだ
 けどさ~殺しちゃったんだよね~」

ケントの発言に後ろで聞いていたスランにとって
は衝撃的な内容だった。

「どうしてそれを?」

「だって、偽物でしょ?いや、今の聖女も偽物だ
 ったりして?だったら本物はどこにいるのか…
 ねぇ~ルイス。本当は知ってるんじゃないか?
 俺が聖女を拐うって知ってて、何もしなかった
 でしょ?それって偽物だって知ってたんだろ?」

「……」

「そんな事、俺らには関係ないだろ?」

「黙れ!命を脅かされ続けて、王座を奪うと誓っ
 たのを忘れたのか?全員皆殺しだと……そう言
 っていたのはお前だろう?ルイス」

狂気に満ちた目で見られると、足がすくんでしま
う。

覆面をした男達が周りを取り囲むようにして距離
を詰めてくる。

そしてどこからか矢が飛んでくるとジェイムスの
足を射抜く。

「くっ……」

「兄さんっ!大丈夫っすぐに……」

「ルイスっ!!」

大声に、ビクッと震えた。
そしてジェイムスはルイスを抱きしめると、耳元
で囁く。

「今は力を使うなっ!お前が聖女だってバレるの
 は避けたい、分かったな?大丈夫だから、絶対
 に俺が護ってみせるから…」

今にも泣きそうなルイスを宥めながら落ち着かせ
る。

「お前の狙いはなんだ?」

「ムカつく野郎だな~、お前だよ?俺もルイスも、
 兄に全てを奪われてひっそり生きて来たんだ。
 だから復讐するんだ。ルイス、お前の復讐も俺
 がしてやるよ」

「やめてっ、僕はそんな事望んでないっ!」

何を言っても届かない。
ジェイムスが走り出すのと、ケントが武器を構える
のが見えた。

このままじゃ、大事な人を失ってしまう。

咄嗟にありったけの力を込めた。

その場にいた人間達の目の前に神々しい光の柱が
現れたのだった。

広場全域を取り囲むような光柱。
その中で、ルイスのそばにいた覆面の男が咄嗟に
ルイスを掴むと手に持った剣で刺し貫いていたの
だった。

「ルイスっ!」

「やめろっ!そいつに手を出すなっ!」

ジェイムスの声とケントの声が重なる。

倒れゆくルイス身体は地面へと転がると先ほど刺
された傷が癒えていった。

そして、その光の中にいた民衆の怪我も治って行
く。
ジェイムスの傷も綺麗に治って行った。

「これはまさかっ……」

ジェイムスはすぐさまルイスに駆け寄った。

怪我は治っているが目を覚さない。
ただ眠っているのか、それとも……。

光が治ると騒がしくなって来た。
兵士達が駆けつける足音にジェイムスはすぐに
ルイスを抱きかかえると、走り出す。

それを邪魔しようと立ちはだかるケントに後ろ
から切りつけてきた存在がいた。

「早く走れ!」

いきなり割って入ったのはスランだった。

あれは確実に聖女の力だった。
紛れもない聖女の祈りの範囲魔法だ。

怪我も傷もたちどころに治る空間。
あんなものを普通の人間がやれるはずはない。

なら、聖女は誰か?
真っ先に思い浮かべるのは、光の中心にいた黒髪
の青年だった。

ジェイムスを逃すと、一緒について行く。

ケントから逃げ切ると、宿屋に戻ってきたのだっ
た。
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