上 下
46 / 99
覚醒編

16話 ヒーラーの役割

しおりを挟む
どんなに言っても、ルイスは引かなかった。

最近、ジェイムスの体調がすぐれなかったので、
あえて避けていた。
その理由はルイスに負担をかけない為でもあっ
た。

だが。
どうしても怠くなってくる身体はどうにもなら
なかった。

そんな時、慌てて飛び出して来たルイスにばっ
たり会ったのだった。

ぶつかった拍子に抱き止めたが、その瞬間すう
っと気怠さが消えて行くのを感じた。

「ルイスっ!今……何をしたんだ!」

咄嗟に捕まえるとしっかり腕を掴むと逃がさな
いと、言わんばかりに問い詰めた。

「今日は、冒険者の依頼を受けに行くんでしょ?
 僕も連れていってよ」

「それは……」

「それなら安全でしょ?」

回復術師を雇おうと思うと、結構ぼったくられる。

それは一人でダンジョンに行った時に、パーティ
ーを組んだ仲間に結構取られたからだ。

稼ぎの半分は回復術師に持って行かれた。

その理由は、毒などの状態異常にかかって全員が
ピンチになってもすぐに建て直せる事と、そんな
危機を乗り切れたのは誰のおかげかと言われると、
どうにも反論できないからだった。

確かに、ルイスがいればその問題は解決したよう
なものだった。

「だが……ダンジョンは薬草取りと違って危ない
 んだぞ?」

「でも、そこへジェイムス兄さんも行くんでしょ?」

「……それは」

何を言っても無駄そうだった。
それに、ルイスがいなかったら、今頃また倒れて
いるところだった。

そう考えると問い詰めるどころか、感謝しても足
りないくらいだ。
ジェイムスはなかば諦めるように、ため息を漏ら
すと心を決めたのだった。

「分かった。だが、ルイスお前も登録してこい。
 それが条件だ」

「うん。分かった」

ルイスもただ、授業を聞いているだけではなかっ
た。
授業で学んだ事を実際に作っていたのだ。

魔物に聞く催眠効果のある薬剤や、火に燃える石。
そして、空気に触れて数秒で爆発する薬品など。

結構実用的なものまで作っていた。

急いでカバンに詰めるとジェイムスの待ってい
る校門まで急いだ。

「お待たせ~」

「おぉ…って何を持って来たんだ?遊びじゃな
 いんだぞ?」

「分かってるって…、ほら、行こう兄さん」

ギルドにいくと、まずは登録を済ませた。
あとは依頼を受けると、近場のダンジョンへと入
るだけだった。

「今日はここの一階層だけな……」

「うん。楽しみだな~」

「そんなに楽しいもんじゃないぞ?」

「でも、兄さんと一緒にいけるんだもん、いつも
 僕の事避けてたでしょ?寂しいじゃん」

「それはだな……」

「体調悪いなら、それはちゃんと言ってよ。倒れ
 てからじゃこっちも心配になるじゃん」

「それでもだ。俺は……もう王の座に着く気はな
 いからな…」

「兄さん……」

なんだが、決意は固いとでも言うような言葉だっ
た。
そこへ、兄さんの知り合いっぽい女性が声をかけ
てきたのだった。

「ジェイムスさーん。久しぶりじゃない?今日は
 一緒に行ってあげてもいいわよ?そこの坊やと
 二人じゃ頼りないでしょ?」

色っぽく露出度の高い服を着ていて、肌をわざと
見せつけるようにしてくる。

「あの、すいませんが、僕が兄さんと一緒に行く
 ので結構です」

「何よ?この子、知らないの?ダンジョンでは
 ヒーラーが大事なの。いると居ないとでは大
 きく生存が変わるのよぉ~」

自分を連れて行った方がいいとでも言っている
ようだった。

この世界のヒーラーは回復しかできない。
戦わず、ただヒールして稼ぎの半分を持て行く。
かなりのぼったくりなのだ。

「結構だ。行くぞルイス」

「はい」

前に雇ったことのあるジェイムスはその時に嫌と
いうほど思い知らされた。
だが、今はルイスがいる。

普通のヒーラーなどとは比べようもないくらいに
回復量が多いのだ。

うしろでまだ何か騒いでいる彼女を置いてダンジ
ョンへと向かったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

弟の可愛さに気づくまで

Sara
BL
弟に夜這いされて戸惑いながらも何だかんだ受け入れていくお兄ちゃん❤︎が描きたくて…

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!

Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。 pixivの方でも、作品投稿始めました! 名前やアイコンは変わりません 主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!

処理中です...