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30話 奴隷のナシス
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冒険者登録を済ませて、やっと初めての依頼を受
けたのだった。
物語の通りなら、ここで一緒に来ているのはルイ
スではなくセシリアだった。
だが、今はジェイムスの横にはルイスがいる。
「本当に僕でいいのかな……」
「どうした?不安か?俺のそばから離れるなよ?」
「う……うん」
セシリア自身、ジェイムスに興味がない為、ここ
でのイベントが起きなかったのだろう。
今、セシリアは一体何をしているのだろう……。
「あっ、これだ!」
「お、もう見つけたか…俺も負けていられないな」
ジェイムスの手伝いをするのは嫌いではない。
結構採取クエストは面白いと言ってもいい。
だが、ここでは大事なイベントが待っている。
早く採取を終えておかないと、すぐにイベントが
始まってしまう。
そう思うとルイスはテキパキと薬草を引っこ抜い
ていく。
根を使うので、丁寧に切らないように抜く。
あとは濡れた布で根を覆い乾燥を防ぐ。
決められた数を取り終わると、腰を上げた。
「ジェイムス兄さんは………あっ、兄さんっ!」
「ん?どうした~」
「数取り終わったよ~」
「ルイスは優秀な助手だな……さぁ、帰るか」
「待って、あそこ誰かいるよ?」
わざとらしく、目を凝らしてガサガサと動いた場
所を指した。
「動物だろ?」
「ちゃん見てよ、怪我してない?」
「なに?」
ジェイムスが近づいて行くと、そこには鞭で何度
も打たれてボロボロになったエルフの青年がいた
のだった。
「これは……」
「兄さん、助けてあげて…お願い」
「だが……これはどこかの奴隷だぞ?」
「でも……僕と一緒で痛そうだよ?鞭で打たれる
のはすっごく痛いんだ……だから……」
じっと見つめられると、ジェイムスは手を挙げる
とルイスの言う事を聞くと言ってくれた。
「わかった、わかったよ。助ければいいんだろ?」
痩せ細ったエルフの青年を抱え上げるとギルドに
行く前に馬車へと寄った。
業者に頼むと屋敷まで運んでもらう。
後でどこの奴隷商人から逃げ出したのかを調べな
いといけなかった。
ギルドの依頼はルイスの持ってきた分で完了した。
すぐに屋敷に帰ると、夜の誕生日パーティーまで
に湯浴みをして正装に着替える。
王族の屋敷の離れ。
前にルイスが生活していた部屋にさっきの彼を寝
かせると見張をつけさせた。
そして、今夜の主役であるジェイムス王子が、会
場に顔を出すと盛大な喝采が起こった。
横には弟のルイスも控えていると、ここに集まっ
た貴族達の顔ぶれは、そうそうたるものだった。
次期皇太子。
そう噂されているからだった。
だが、問題が一つあった。
それは皇后の席だった。
今は空席になっているのだ。
いつもだったら、王の横には黄金の髪を靡かせて
宝石を至る所に散りばめ、一躍目立つ存在のイザ
ベラの存在があるのだが、それが今はない。
噂では投獄されたという。
それでは、次期皇太子はどちらになるのか?
病でふせっている側室の息子で第二王子であるル
イスにも注目が集まっていた。
この国では珍しい、黒目、黒髪がなんとも目を引
く美しい出立ちだ。
細い身体のラインは、まるで女性のようだと比喩
される程だった。
「あいつら言いたい放題言いやがって……誰がル
イスを婿になどやるかよっ、俺のものに手を出
すなら容赦はしないっつーの!」
「ジェイムス兄さん……」
「ルイス……お前だってそうだろう?俺は王妃な
んていらない、ルイスが王妃の座に入ればいい。」
「兄さん、それでは世継ぎが……」
「そんな事どうだっていい。それに魔法で男でも
妊娠できるようにすればいいじゃないか!」
無茶苦茶な……。
だが、ジェイムスらしい発想だった。
会場が盛り上がる中、ダンスが始まる。
さっきまで元気そうだった、ジェイムスの様子が
おかしい。
何か辛そうに見えた。
「兄さん、どうしたの?少し休む?」
「あぁ、ちょっと立ちくらみがして……あれ……」
そう言うと、ふらっとルイスへともたれかかった
のだった。
ぷるぷるとしながらも、必死に身体を支えると、
兵士に頼んでジェイムス兄さんを休憩室まで運ん
でもらった。
脈が早い……、どうしてか、汗が止まらなかった。
するとどうだろう。
鼻血が出てくる。
どうして……
次に苦しそうにしている兄の様子に、どうにも普
通じゃない気がしたのだった。
「すぐに医者を呼んでください」
近くに控えていた兵士に言うと、すぐにかけてい
った。
「兄さん、ジェイムス兄さん、しっかりして……」
「ルイス……お前はなんともないか?」
「僕はなんともないよ、兄さん……僕の心配より
自分の事をもっと大事にしてよ」
何もできない自分が情けなくなってくる。
薬草学を専攻しているのに、母にかけられた呪い
も解けないし、兄の病気もわからない。
どうしたらいいかわからず、途方に暮れていると、
全身から血が滲んできていた。
「これは……まさか……」
「よかったな?これで、次期王太子はルイス、お
前だけだ」
ハッと振り返ると、メイド姿ではあったが、あき
らかにケント・イスラットの声だった。
けたのだった。
物語の通りなら、ここで一緒に来ているのはルイ
スではなくセシリアだった。
だが、今はジェイムスの横にはルイスがいる。
「本当に僕でいいのかな……」
「どうした?不安か?俺のそばから離れるなよ?」
「う……うん」
セシリア自身、ジェイムスに興味がない為、ここ
でのイベントが起きなかったのだろう。
今、セシリアは一体何をしているのだろう……。
「あっ、これだ!」
「お、もう見つけたか…俺も負けていられないな」
ジェイムスの手伝いをするのは嫌いではない。
結構採取クエストは面白いと言ってもいい。
だが、ここでは大事なイベントが待っている。
早く採取を終えておかないと、すぐにイベントが
始まってしまう。
そう思うとルイスはテキパキと薬草を引っこ抜い
ていく。
根を使うので、丁寧に切らないように抜く。
あとは濡れた布で根を覆い乾燥を防ぐ。
決められた数を取り終わると、腰を上げた。
「ジェイムス兄さんは………あっ、兄さんっ!」
「ん?どうした~」
「数取り終わったよ~」
「ルイスは優秀な助手だな……さぁ、帰るか」
「待って、あそこ誰かいるよ?」
わざとらしく、目を凝らしてガサガサと動いた場
所を指した。
「動物だろ?」
「ちゃん見てよ、怪我してない?」
「なに?」
ジェイムスが近づいて行くと、そこには鞭で何度
も打たれてボロボロになったエルフの青年がいた
のだった。
「これは……」
「兄さん、助けてあげて…お願い」
「だが……これはどこかの奴隷だぞ?」
「でも……僕と一緒で痛そうだよ?鞭で打たれる
のはすっごく痛いんだ……だから……」
じっと見つめられると、ジェイムスは手を挙げる
とルイスの言う事を聞くと言ってくれた。
「わかった、わかったよ。助ければいいんだろ?」
痩せ細ったエルフの青年を抱え上げるとギルドに
行く前に馬車へと寄った。
業者に頼むと屋敷まで運んでもらう。
後でどこの奴隷商人から逃げ出したのかを調べな
いといけなかった。
ギルドの依頼はルイスの持ってきた分で完了した。
すぐに屋敷に帰ると、夜の誕生日パーティーまで
に湯浴みをして正装に着替える。
王族の屋敷の離れ。
前にルイスが生活していた部屋にさっきの彼を寝
かせると見張をつけさせた。
そして、今夜の主役であるジェイムス王子が、会
場に顔を出すと盛大な喝采が起こった。
横には弟のルイスも控えていると、ここに集まっ
た貴族達の顔ぶれは、そうそうたるものだった。
次期皇太子。
そう噂されているからだった。
だが、問題が一つあった。
それは皇后の席だった。
今は空席になっているのだ。
いつもだったら、王の横には黄金の髪を靡かせて
宝石を至る所に散りばめ、一躍目立つ存在のイザ
ベラの存在があるのだが、それが今はない。
噂では投獄されたという。
それでは、次期皇太子はどちらになるのか?
病でふせっている側室の息子で第二王子であるル
イスにも注目が集まっていた。
この国では珍しい、黒目、黒髪がなんとも目を引
く美しい出立ちだ。
細い身体のラインは、まるで女性のようだと比喩
される程だった。
「あいつら言いたい放題言いやがって……誰がル
イスを婿になどやるかよっ、俺のものに手を出
すなら容赦はしないっつーの!」
「ジェイムス兄さん……」
「ルイス……お前だってそうだろう?俺は王妃な
んていらない、ルイスが王妃の座に入ればいい。」
「兄さん、それでは世継ぎが……」
「そんな事どうだっていい。それに魔法で男でも
妊娠できるようにすればいいじゃないか!」
無茶苦茶な……。
だが、ジェイムスらしい発想だった。
会場が盛り上がる中、ダンスが始まる。
さっきまで元気そうだった、ジェイムスの様子が
おかしい。
何か辛そうに見えた。
「兄さん、どうしたの?少し休む?」
「あぁ、ちょっと立ちくらみがして……あれ……」
そう言うと、ふらっとルイスへともたれかかった
のだった。
ぷるぷるとしながらも、必死に身体を支えると、
兵士に頼んでジェイムス兄さんを休憩室まで運ん
でもらった。
脈が早い……、どうしてか、汗が止まらなかった。
するとどうだろう。
鼻血が出てくる。
どうして……
次に苦しそうにしている兄の様子に、どうにも普
通じゃない気がしたのだった。
「すぐに医者を呼んでください」
近くに控えていた兵士に言うと、すぐにかけてい
った。
「兄さん、ジェイムス兄さん、しっかりして……」
「ルイス……お前はなんともないか?」
「僕はなんともないよ、兄さん……僕の心配より
自分の事をもっと大事にしてよ」
何もできない自分が情けなくなってくる。
薬草学を専攻しているのに、母にかけられた呪い
も解けないし、兄の病気もわからない。
どうしたらいいかわからず、途方に暮れていると、
全身から血が滲んできていた。
「これは……まさか……」
「よかったな?これで、次期王太子はルイス、お
前だけだ」
ハッと振り返ると、メイド姿ではあったが、あき
らかにケント・イスラットの声だった。
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