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賢者の実験

第二十二話 無限の命

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ふと、ある時に気づいた事があった。
食事は全部弘前が持って来てくれて、何も不自由
はなかった。

困る事と言えば、性別の違いに最初は戸惑った事
だった。

「お兄ちゃん、おしっこってどうやってするの?」
「お兄ちゃんじゃない、康介と呼びなさい。それと
 ……ここを持って…そのまま出せばいいよ」
「でも……不安定だよ?それに拭くものは?」
「それは…こうやって振って落とせばそれでいいよ」

女子と男子の身体の違いに戸惑う事は多々あった。

それもそのはず、神崎の身体は男子高校生のもので、
中身として入っているのは幼い少女なのだ。

「いつ、お母さんに会えるの?」
「そうだな~、いい子にしてたら元の体に戻してや
 るから暫くはその身体で慣れてくれ」
「いつまで?お母さんとお父さんに会いたいよう…」
「…その身体のお兄ちゃんは病気でね、暫くは誰か
 が身体の中に居なくちゃいけないんだよ。だから、
 おとなしくお兄ちゃのように振る舞ってくれたら、
 すぐにお母さんの元に戻してあげられるよ」
「本当!約束?」
「うん、約束。無理矢理連れて来て悪かったね。で
 も、君にしかできない事だったんだ。いいかい?」
「うん、頑張るね」

まだ幼いせいか、単純だった。

馴染んでから記憶を消せばいい。
そして、ゆっくり覚えさせればいいのだ。

そうして、弘前は自分に忠実な魂を手に入れたの
だった。

「今日は、このダンジョンに入ってみようか!魔法
 はだいぶんと上達していたし、本当に覚えがいい
 よ。神崎くんは、もっと、もっと強くなれる。僕
 は一緒にいられて嬉しいよ」
「えへへっ……うん、もっと強くなるよ!もう魔法
 も慣れたし、あとは近接戦が苦手だな~」
「それなら、これを持てばいいよ。」
「これは…?」

渡されたメイスを手に持つと、ブンブンと振り回し
た。

先端が鈍器のようになっていて、魔法の杖がわりで
もある。

魔法も使えて、殴ることもできる。
今の神崎奏にはうってつけだった。

「康介、ありがとう。」
「さぁ、行こうか」
「うん、俺、頑張るよ!」

まだ、どこか幼さが残るが、一応普通に会話がで
きていた。

最近では夜に少しぐずっている様子だった。
ホームシックなのだろうか。

ダンジョンの中に入ると、さっきまで後ろをつけ
て来た連中がこぞって入り口を塞いできた。

「おっと、魔法使い同士じゃ、厳しいだろう?俺
 たちが案内してやるよ?」

厳つい男がニヤつきながら言う。
周りを取り囲むように、数人が展開する。

「康介っ…」
「大丈夫だ。神崎くんは弱くはないだろう?」
「………うん。」
「暴れて来なさい」
「分かった!」

弘前が言うと、神崎奏が一気に足元を蹴って飛び出
した。

「何をごちゃごちゃと……荷物を全部出せばいいん
 だよっ!」

男が言い終わる前に、炎が上がって周りを取り囲ん
だ。

「ファイアーウォール」

その中から一気に飛び出して来た神崎によって頭か
ら武器が振り下ろされた。

人間相手に殴るのは初めてだった。

だから、いつも全力でと教わった通りにしている。
そして、今回も……。

ぐちゃっ……

「えっ……」

頭蓋骨を陥没させると、首まで一気に叩き折った
のだった。

「うっ……な。なんで……」

その隙に、一気に弘前が殲滅した。
水の刃が周りにいた男達の四肢を切り裂き動きを
封じたのだった。

「早くその男に触れなさい」
「康介……でも……」
「早くしなさい」

この世界の人間は死んでから少しするとカードに
なってしまう。
そうなっては遅いのだ。

神崎奏の身体は他人の命を吸収できる。
それは死の直前までだった。

神崎奏が男に触れると、胸にある宝石が光って温か
くなった。

「これは……」
「さぁ、他の奴らも死なないうちにやるぞ」
「……うん。分かった」

そうして返り討ちにして身体事全部余す所なく吸収
したのだった。

「この石って……」
「それは神崎くんの命だよ。それがないと生きられ
 ないんだ。そして、それがあればどんな傷を負っ
 てもすぐに治せるんだよ?」
「傷を?治せる?」
「そうだよ。今、命のストックをしたから、こうや
 って命の量を増やしていけば不死身にだってなれ
 るんだ」
「不死身って……死なないって事?」
「そうだよ。だから、これからは悪い人の命も全部
 ストックするんだ、いいね?」
「うん…分かった」

素直に頷くと、ダンジョンの奥へと入って行ったの
だった。
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