弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ？〜

賢者の実験

第一話 人体実験

その頃、アルスラ帝国では一人の男が奴隷を買い
漁っていた。

「さっさと歩け！お前ら奴隷が人様の為になるん
　だ、ありがたく思うんだな」

乱暴に兵士達に連れられ地下にある実験室へと連
れてこられていた。

手足には頑丈な鎖がはめられ逃げられない様にし
てある。

「やぁ、今日は何人かな？」
「はい、安くたたかれていたのを集めてきました。
　こちらに繋げばよろしいですか？」

兵士達に一目置かれる人物。
それはどこの国にも属さないと言われる賢者の存
在だった。

「あぁ、そこで構わない。今日もご苦労様」
「いえ、賢者様がいたからこそ戦場で生き残れた
　のです。これくらいはなんでもお申し付けくだ
　さい」
「ありがとう。頼りにしているよ」
「はっ！」

敬礼すると、帰っていく。
鎖に繋がれた奴隷を眺めると、口元が自然と歪む。

「さぁ～実験の時間だ。君たちには選択肢を与え
　よう。このまま奴隷として実験に付き合うか、
　それとも積極的に僕の実験に参加してくれたら
　…一週間後に奴隷から解放してやろう」
「それは本当か？」

口々に聞き返すのを流すと、試験管を目の前に置
いた。

「さぁ、どうする？君達はこの色の違う薬品を飲
　み干して貰うけど、自分から選んで自主的に飲
　むのか、それとも…別の危険なものの実験に付
　き合うのか！好きな方を選ぶがいい」

そんな事を言われて、危険な方がいいと選ぶ者は
滅多にいない。
結局は、全員が机に置かれた試験管を手に取った。

「そうか、自主的に手伝ってくれるか！それはあ
　りがたいよ。では。一斉に飲んでくれ！さぁ～」

弘前康介はローブを深く被ると、顔を見せずだた
促す。

色によって効能が違う。
それは、どれもが危険を意味する。

だが、そんな事はどうでもいい。
自分の欲しいモノを手に入れる為に、どれだけ
の時間をかけてきたことか！

最初は師匠を甦らせる魔法の研究。
それがダメなら薬で腐食を遅らせる方法。

死んだ身体を永久に保存する方法。
これには成功していた。

そして、神崎奏を甦らせる方法。

これが今回の課題だった。

「神崎くん……また君に会えるよ」

召喚魔法は確かに発動していた。
魔法陣の中にもちゃんといたはずだった。

だが、実際この世界には居ないのだ。

と言う事は、どこかで手違いがあって空間の
狭間に落ちて亡くなった可能性のが高い。

空間の狭間には時間の流れがない。
停滞した場所なのだ。

精神も今もそこを漂っているはずだ。

「身体さえ作れれば、あとは精神を呼び戻せ
　れれば…成功なんだ。これができれば師匠
　も……きっと」

弘前を護ってくれたたった一人の友人。
異世界へ来て、イジメていた奴らに復讐すると
誓った夜。あの時に、神崎も連れていくつもり
だった。

どんなに罵られてもいい。
また、仲良くなりたい。

ここでは賢者の自分に適う者などいない。

戦争でさえも、不利だと思われたアルスラ帝国
を圧倒的勝利で勝たせた。

これはチート的な魔法が関わっている。
賢者の魔法は全属性の魔法効果無効と最大火力
の圧倒的な水の水量で平野ごと押し流したのだ
った。

鎧をきた兵士など水の中では無力も同然だった。

王子は顔だけがいいお飾りの様な人物だった。
命乞いもせず、ただ黙って捕虜になった。

あまりにつまらないので、奴隷に落とし辱める
つもりだった。

弘前は夢の中でこの異世界で色々な体験をした。
賢者に拾われて弟子となって。

これ以上ないくらいの冒険と知識を手に入れた。
師匠が亡くなってからは、後を継いで賢者になっ
た時に、この世界の原理を知った。

それからはひたすらに、死んだ者を生き返らせる
術を探したのだった。