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♯2 営業不振
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俺が就職して早くも一年が経とうとしていた。
今では作業にも慣れ、検品から製造の部門へと移った。
普通の日常が普通に流れていった。
その普通の日常がこのまま何年先までも続いてゆくと思っていた。
しかし不意にその日常は終わりを告げる。
この日、社長はなかなか作業場に姿を現さなかった。作業のノウハウはみな理解しているので特に支障はなかった。
昼過ぎに社長はようやく現れた。
心なしか顔が青い。
「みんな、少し手を止めて聞いてくれるか」
社長が重そうな口を開いた。
その雰囲気から誰しもがなにかよからぬことが起こったことを察した。
「どないかしたんですか?顔色が優れませんで」
古株の城島さんが不安げに尋ねる。
社長は大きく息を吸い重い口を開いた。
「マスター建設との契約が打ち切られることになった」
マスター建設はうちの会社の得意先だ。いや、生命線と言っても過言ではない。そのマスター建設との契約が切られるとなると、相当にまずいことになる。ヘタをすれば倒産だ。
しばらくの沈黙ののち、岩本さんが口を開く。
「そんなあほなこと...」
信じられないといった様子だ。
俺も信じられなかった。だがこの状況で社長が嘘をつくわけがない。
「申し訳ない。最善は尽くしたんだが駄目だった」
社長が涙ながらに謝った。
「おそらくこのままだとウチは倒産だ」
社長が続ける。みなの顔が強張っている。
中小企業にとって得意先を失うことは相当に大きなダメージだ。
「だが、みんなが頑張ってくれれば立て直せるかもしれない。どうか協力してくれないか」
すぐに答える者はいなかった。
「少し考えさせてください」
しばらくあとに岩本さんが口を開いた。
俺も同じ心境だった。立て直す、ということは新たな大口取引先を見つけるということだ。
見つかるまでは給料が出るかもわからない。
「わかった。みんな考えておいてくれ。ここは山場なんだ。どうか再建を手伝ってくれ」
社長は懇願するように一人ひとりをを見回した。
結局、この日はみなすぐに自宅に帰された。
結論は明日までに出しておいてほしいとのことだった。
(俺はどうするべきなんだろう)
布団の上で俺は考えていた。
社長には今まで育ててもらったという恩義がある。
それにせっかく築いた人間関係を失いたくなかった。
(よし。もう少し頑張ってみルカ)
そう心に決め、そのまま眠った。
今では作業にも慣れ、検品から製造の部門へと移った。
普通の日常が普通に流れていった。
その普通の日常がこのまま何年先までも続いてゆくと思っていた。
しかし不意にその日常は終わりを告げる。
この日、社長はなかなか作業場に姿を現さなかった。作業のノウハウはみな理解しているので特に支障はなかった。
昼過ぎに社長はようやく現れた。
心なしか顔が青い。
「みんな、少し手を止めて聞いてくれるか」
社長が重そうな口を開いた。
その雰囲気から誰しもがなにかよからぬことが起こったことを察した。
「どないかしたんですか?顔色が優れませんで」
古株の城島さんが不安げに尋ねる。
社長は大きく息を吸い重い口を開いた。
「マスター建設との契約が打ち切られることになった」
マスター建設はうちの会社の得意先だ。いや、生命線と言っても過言ではない。そのマスター建設との契約が切られるとなると、相当にまずいことになる。ヘタをすれば倒産だ。
しばらくの沈黙ののち、岩本さんが口を開く。
「そんなあほなこと...」
信じられないといった様子だ。
俺も信じられなかった。だがこの状況で社長が嘘をつくわけがない。
「申し訳ない。最善は尽くしたんだが駄目だった」
社長が涙ながらに謝った。
「おそらくこのままだとウチは倒産だ」
社長が続ける。みなの顔が強張っている。
中小企業にとって得意先を失うことは相当に大きなダメージだ。
「だが、みんなが頑張ってくれれば立て直せるかもしれない。どうか協力してくれないか」
すぐに答える者はいなかった。
「少し考えさせてください」
しばらくあとに岩本さんが口を開いた。
俺も同じ心境だった。立て直す、ということは新たな大口取引先を見つけるということだ。
見つかるまでは給料が出るかもわからない。
「わかった。みんな考えておいてくれ。ここは山場なんだ。どうか再建を手伝ってくれ」
社長は懇願するように一人ひとりをを見回した。
結局、この日はみなすぐに自宅に帰された。
結論は明日までに出しておいてほしいとのことだった。
(俺はどうするべきなんだろう)
布団の上で俺は考えていた。
社長には今まで育ててもらったという恩義がある。
それにせっかく築いた人間関係を失いたくなかった。
(よし。もう少し頑張ってみルカ)
そう心に決め、そのまま眠った。
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