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驚きの展開
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「えっと、貴方は……?」
「うむ。リスト国を守護するグリティスである」
「……虎は神聖な生き物と言われているけれど、決して神の姿が虎のわけじゃないのよ?」
さっきまではとてもカッコいい神像が鎮座していたのだ。この虎が言っていることはにわかに信じがたい。……虎が話しているという事象そのものが信じがたいが。
「ふむ、信じないか。人は同族の姿が好きなのだな」
「え、好きとかじゃないけれど」
むしろ獣のもふもふ大好きです。出来れば埋もれて寝たいくらい、獣のもふもふには魅力が詰まっている。あ、飼い猫のソフィに会いたくなってきた。
そんなことを考えていると、虎の輪郭がぼやけてきた。目の錯覚を疑い、目を閉じて擦っていると男性的で低く美しい声が聞こえてくる。
「これでよいか」
神像と瓜二つの男性が微笑みを浮かべて立っていた。とてもカッコいいけれど、パールは虎の方が好みかもしれない。何せ魅惑のもふもふを持っているので。あれ撫でたらどんなに気持ちいいんだろう。包まれて眠りたい。
これが現実逃避である自覚はちゃんとある。
「……グリティス神様?」
「いかにも」
鷹揚に頷く姿を見て気が遠くなった。
「チェンジで!」
「なに?」
驚くグリティスを見て、正直に声に出してしまったことを後悔する。さっきまで思うがままに不満を吐き出していたせいか、口が軽くなってしまっているようだ。
「……申し訳ありません。失礼致しました」
「ふむ?虎の姿の方が好きなのか。私はあちらの方が本体で人の姿は人が考えたものを使っているのだ。お前が帰ろうとするので引き留めようと慌てて降りてきたら本体の姿で来てしまった。……それを気に入ってくれたか」
フニャリと顔が緩む。神秘的なイケメンなのに何故か庇護欲をそそられる表情だ。パールもこれくらい可愛げがあれば婚約者に捨てられることもなかっただろうか。
「だが、虎の姿では話しにくいのでな。今日はこちらの姿で話そう」
「はあ……?」
一体なにを話すのだろうかと首を傾げると、グリティスがひょいと台からおりてパールに近づいてくる。その理想を詰めこんだ塑像のような顔に近くで見つめられると落ち着かない。
「そなた名は何と言う」
「あ、レアトリア伯爵令嬢パールと申します」
「ふむ?」
慌てて貴族令嬢としての礼をとって名乗ると、グリティスは難しそうに首を傾げた。
「長い名だな」
「……家名がレアトリアなので、私個人の名はパールです」
「そうか。短くて良い名だな。あまり長いと虎の姿では呼びにくい」
満足そうに頷く姿を見てホッとする。
「パールは婚約者に婚約を破棄されたのだったな」
「……はい、そうです」
危惧していたが、グリティスはしっかりとパールの愚痴を聞き届けていたらしい。
「婚約者は浮気していた」
「……ええ」
改めて言われると胸にくるものがある。ギュッと手を握り合わせた。
その手をグリティスがチラリと見つつ話を続けた。
「婚約者はパールのありもしない過失を責め立てた」
「……はい」
「そのせいでパールは嫁ぎ先が見つからなくなった」
「……うう、……そんなに現実を突きつけないでくださいよぉ~」
冷静に言われると更に悲しくなってきて、ずっと堪えていた涙が溢れだしてきた。
「す、すまん。泣かせるつもりでは……」
「うぅ……」
1度溢れてしまった涙は簡単には止まらない。両手で顔を押さえ、もう限界まで泣いて仕舞おうと決めた。
「そ、それほど、婚約者が好きだったのか?」
「違いますぅ……」
グリティスがおたおたと狼狽えているのは分かっていたが、パールが堪えていた涙を決壊させたのはグリティスだ。ここは責任をもって付き合ってもらおう。
「好きでなかったのに、そんなに泣くのか」
「婚約者は、好きでは、なかったけど、これで、一生、結婚、出来ないのかと、思うと、悲しくてぇ……うぅ」
途切れ途切れに泣きながら言う。クレイを好きだったなんて誤解死んでも嫌だ。
「そうか。結婚したいのか」
泣いて縮こまっていたパールの体が温かくしっかりしたもので包まれた。フワリと甘く優しい香りが鼻先を擽る。グリティスの声がパールの傍近く頭の上から聞こえてきた。
「では、我と結婚しよう」
「はっ?」
もう一生止まらないのではないかと思っていた涙がピタリと止まった。
「うむ。リスト国を守護するグリティスである」
「……虎は神聖な生き物と言われているけれど、決して神の姿が虎のわけじゃないのよ?」
さっきまではとてもカッコいい神像が鎮座していたのだ。この虎が言っていることはにわかに信じがたい。……虎が話しているという事象そのものが信じがたいが。
「ふむ、信じないか。人は同族の姿が好きなのだな」
「え、好きとかじゃないけれど」
むしろ獣のもふもふ大好きです。出来れば埋もれて寝たいくらい、獣のもふもふには魅力が詰まっている。あ、飼い猫のソフィに会いたくなってきた。
そんなことを考えていると、虎の輪郭がぼやけてきた。目の錯覚を疑い、目を閉じて擦っていると男性的で低く美しい声が聞こえてくる。
「これでよいか」
神像と瓜二つの男性が微笑みを浮かべて立っていた。とてもカッコいいけれど、パールは虎の方が好みかもしれない。何せ魅惑のもふもふを持っているので。あれ撫でたらどんなに気持ちいいんだろう。包まれて眠りたい。
これが現実逃避である自覚はちゃんとある。
「……グリティス神様?」
「いかにも」
鷹揚に頷く姿を見て気が遠くなった。
「チェンジで!」
「なに?」
驚くグリティスを見て、正直に声に出してしまったことを後悔する。さっきまで思うがままに不満を吐き出していたせいか、口が軽くなってしまっているようだ。
「……申し訳ありません。失礼致しました」
「ふむ?虎の姿の方が好きなのか。私はあちらの方が本体で人の姿は人が考えたものを使っているのだ。お前が帰ろうとするので引き留めようと慌てて降りてきたら本体の姿で来てしまった。……それを気に入ってくれたか」
フニャリと顔が緩む。神秘的なイケメンなのに何故か庇護欲をそそられる表情だ。パールもこれくらい可愛げがあれば婚約者に捨てられることもなかっただろうか。
「だが、虎の姿では話しにくいのでな。今日はこちらの姿で話そう」
「はあ……?」
一体なにを話すのだろうかと首を傾げると、グリティスがひょいと台からおりてパールに近づいてくる。その理想を詰めこんだ塑像のような顔に近くで見つめられると落ち着かない。
「そなた名は何と言う」
「あ、レアトリア伯爵令嬢パールと申します」
「ふむ?」
慌てて貴族令嬢としての礼をとって名乗ると、グリティスは難しそうに首を傾げた。
「長い名だな」
「……家名がレアトリアなので、私個人の名はパールです」
「そうか。短くて良い名だな。あまり長いと虎の姿では呼びにくい」
満足そうに頷く姿を見てホッとする。
「パールは婚約者に婚約を破棄されたのだったな」
「……はい、そうです」
危惧していたが、グリティスはしっかりとパールの愚痴を聞き届けていたらしい。
「婚約者は浮気していた」
「……ええ」
改めて言われると胸にくるものがある。ギュッと手を握り合わせた。
その手をグリティスがチラリと見つつ話を続けた。
「婚約者はパールのありもしない過失を責め立てた」
「……はい」
「そのせいでパールは嫁ぎ先が見つからなくなった」
「……うう、……そんなに現実を突きつけないでくださいよぉ~」
冷静に言われると更に悲しくなってきて、ずっと堪えていた涙が溢れだしてきた。
「す、すまん。泣かせるつもりでは……」
「うぅ……」
1度溢れてしまった涙は簡単には止まらない。両手で顔を押さえ、もう限界まで泣いて仕舞おうと決めた。
「そ、それほど、婚約者が好きだったのか?」
「違いますぅ……」
グリティスがおたおたと狼狽えているのは分かっていたが、パールが堪えていた涙を決壊させたのはグリティスだ。ここは責任をもって付き合ってもらおう。
「好きでなかったのに、そんなに泣くのか」
「婚約者は、好きでは、なかったけど、これで、一生、結婚、出来ないのかと、思うと、悲しくてぇ……うぅ」
途切れ途切れに泣きながら言う。クレイを好きだったなんて誤解死んでも嫌だ。
「そうか。結婚したいのか」
泣いて縮こまっていたパールの体が温かくしっかりしたもので包まれた。フワリと甘く優しい香りが鼻先を擽る。グリティスの声がパールの傍近く頭の上から聞こえてきた。
「では、我と結婚しよう」
「はっ?」
もう一生止まらないのではないかと思っていた涙がピタリと止まった。
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