恨み辛みを吐き出していたら、神様に求婚されました

ゆるり

文字の大きさ
上 下
4 / 17

驚きの展開

しおりを挟む
「えっと、貴方は……?」
「うむ。リスト国を守護するグリティスである」
「……虎は神聖な生き物と言われているけれど、決して神の姿が虎のわけじゃないのよ?」

 さっきまではとてもカッコいい神像が鎮座していたのだ。この虎が言っていることはにわかに信じがたい。……虎が話しているという事象そのものが信じがたいが。

「ふむ、信じないか。人は同族の姿が好きなのだな」
「え、好きとかじゃないけれど」

 むしろ獣のもふもふ大好きです。出来れば埋もれて寝たいくらい、獣のもふもふには魅力が詰まっている。あ、飼い猫のソフィに会いたくなってきた。

 そんなことを考えていると、虎の輪郭がぼやけてきた。目の錯覚を疑い、目を閉じて擦っていると男性的で低く美しい声が聞こえてくる。

「これでよいか」

 神像と瓜二つの男性が微笑みを浮かべて立っていた。とてもカッコいいけれど、パールは虎の方が好みかもしれない。何せ魅惑のもふもふを持っているので。あれ撫でたらどんなに気持ちいいんだろう。包まれて眠りたい。
 これが現実逃避である自覚はちゃんとある。

「……グリティス神様?」
「いかにも」

 鷹揚に頷く姿を見て気が遠くなった。

「チェンジで!」
「なに?」

 驚くグリティスを見て、正直に声に出してしまったことを後悔する。さっきまで思うがままに不満を吐き出していたせいか、口が軽くなってしまっているようだ。

「……申し訳ありません。失礼致しました」
「ふむ?虎の姿の方が好きなのか。私はあちらの方が本体で人の姿は人が考えたものを使っているのだ。お前が帰ろうとするので引き留めようと慌てて降りてきたら本体の姿で来てしまった。……それを気に入ってくれたか」

 フニャリと顔が緩む。神秘的なイケメンなのに何故か庇護欲をそそられる表情だ。パールもこれくらい可愛げがあれば婚約者に捨てられることもなかっただろうか。

「だが、虎の姿では話しにくいのでな。今日はこちらの姿で話そう」
「はあ……?」

 一体なにを話すのだろうかと首を傾げると、グリティスがひょいと台からおりてパールに近づいてくる。その理想を詰めこんだ塑像のような顔に近くで見つめられると落ち着かない。

「そなた名は何と言う」
「あ、レアトリア伯爵令嬢パールと申します」
「ふむ?」

 慌てて貴族令嬢としての礼をとって名乗ると、グリティスは難しそうに首を傾げた。

「長い名だな」
「……家名がレアトリアなので、私個人の名はパールです」
「そうか。短くて良い名だな。あまり長いと虎の姿では呼びにくい」

 満足そうに頷く姿を見てホッとする。

「パールは婚約者に婚約を破棄されたのだったな」
「……はい、そうです」

 危惧していたが、グリティスはしっかりとパールの愚痴を聞き届けていたらしい。

「婚約者は浮気していた」
「……ええ」

 改めて言われると胸にくるものがある。ギュッと手を握り合わせた。
 その手をグリティスがチラリと見つつ話を続けた。

「婚約者はパールのありもしない過失を責め立てた」
「……はい」
「そのせいでパールは嫁ぎ先が見つからなくなった」
「……うう、……そんなに現実を突きつけないでくださいよぉ~」

 冷静に言われると更に悲しくなってきて、ずっと堪えていた涙が溢れだしてきた。

「す、すまん。泣かせるつもりでは……」
「うぅ……」

 1度溢れてしまった涙は簡単には止まらない。両手で顔を押さえ、もう限界まで泣いて仕舞おうと決めた。

「そ、それほど、婚約者が好きだったのか?」
「違いますぅ……」

 グリティスがおたおたと狼狽えているのは分かっていたが、パールが堪えていた涙を決壊させたのはグリティスだ。ここは責任をもって付き合ってもらおう。

「好きでなかったのに、そんなに泣くのか」
「婚約者は、好きでは、なかったけど、これで、一生、結婚、出来ないのかと、思うと、悲しくてぇ……うぅ」

 途切れ途切れに泣きながら言う。クレイを好きだったなんて誤解死んでも嫌だ。

「そうか。結婚したいのか」

 泣いて縮こまっていたパールの体が温かくしっかりしたもので包まれた。フワリと甘く優しい香りが鼻先を擽る。グリティスの声がパールの傍近く頭の上から聞こえてきた。

「では、我と結婚しよう」
「はっ?」

 もう一生止まらないのではないかと思っていた涙がピタリと止まった。




しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

【完結】え、お嬢様が婚約破棄されたって本当ですか?

瑞紀
恋愛
「フェリシア・ボールドウィン。お前は王太子である俺の妃には相応しくない。よって婚約破棄する!」 婚約を公表する手はずの夜会で、突然婚約破棄された公爵令嬢、フェリシア。父公爵に勘当まで受け、絶体絶命の大ピンチ……のはずが、彼女はなぜか平然としている。 部屋まで押しかけてくる王太子(元婚約者)とその恋人。なぜか始まる和気あいあいとした会話。さらに、親子の縁を切ったはずの公爵夫妻まで現れて……。 フェリシアの執事(的存在)、デイヴィットの視点でお送りする、ラブコメディー。 ざまぁなしのハッピーエンド! ※8/6 16:10で完結しました。 ※HOTランキング(女性向け)52位,お気に入り登録 220↑,24hポイント4万↑ ありがとうございます。 ※お気に入り登録、感想も本当に嬉しいです。ありがとうございます。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

ご先祖様、わたくし遺言を遂行いたします!

miyumeri
恋愛
長きに亘り侯爵家に言い伝えられたご先祖様の遺言。 国のため、わたくしのため、この遺言必ずや遂行いたします! 前作「ヒロイン様、こちらをお読みいただけますか?」の悪役令嬢視点です。 膨大過ぎる設定を全く生かせなかった後悔を、こちらで昇華させてください。 前作をお読みいただかないと、理解しずらい文章多々ございますので お手数ではございますが、前作をお読みいただいた上こちらをご覧いただけたらと思います。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/354569495/259490102 自分の好みで一話完結型長文です。 全くの勉強不足ですが、お読みいただけたら幸いです。

愛されるのは私じゃないはずなのですが

空月
恋愛
「おかしいわ、愛されるのは、私じゃないはずなのだけど……」 天から与えられた『特性:物語』によって、自分の生きる世界の、『もっとも物語的な道筋』を知るリリー・ロザモンテは、自分が婚約者のゼノ・フェアトラークに愛されないだろうことを知っていた。そして、愛を知らないゼノが、ある少女と出会って愛を知ることも。 その『ゼノが愛を知る物語』を辿らせるために動いてきたリリーだったが、ある日ゼノから告げられる。「君を愛している」と。

私を婚約破棄に追い込んだ令嬢は、あなた以外の男性とお付き合いしてるのはご存知ですか。

十条沙良
恋愛
あなたはご存知ですか?カミラは他の男性ともお付き合いしてる事を。

処理中です...