恨み辛みを吐き出していたら、神様に求婚されました

ゆるり

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「酷いと思いませんか、神様、あの人言い捨ててさっさと去っていったんですよ。私が婚約破棄の言葉に頭が真っ白になって固まっている間に!」

 美しいステンドグラスを背景に悠然と立つ神像の前に跪き、パールは手を組んで話す。パールの口から出ているのは、神官のような聖句ではない。愚痴と元婚約者に向けた恨み辛みだ。

「そもそも!私アリシアなんて人、あの場で初めて見たのよ?!どうして赤の他人を虐める必要があるのよ」

 ここは王都郊外にある小さな神殿だ。あまり人が来ないこの神殿を気に入ったパールは、昔から度々訪れては清掃をし、神にこの国の平安を祈った。一応王太子の婚約者だったので。

「もしかして、あの人、私が惚れているとでも思っていたのかしら。それで嫉妬からアリシアを虐めたと?……はっ、残念でした!私はあんたなんて口煩い男としか思っていなかったわよ!」

 一応言うが、いつも神に愚痴っていたわけではない。今日はたまたま鬱憤が溜まっていただけだ。人がいないからいくらでも愚痴を言える。家で吐き出したら家族を悲しませてしまうと自重していたのだ。

「形見のブローチを壊されたとか、そんな大事なもんなら学園に持ってくるんじゃないわよ!もしくは大事に抱えてなさいよ。ブローチが壊されたって、目の前でじゃないんでしょ?それは誰かに盗まれたということ?それとも置き忘れたの?どちらにしても管理が甘いのよ!私のせいにするな!そして、学園内でのアクセサリーの着用は違反って脳みそに刻みなさいよっ!」

 祈るように組んでいた手を床に打ち付ける。感情のやり場がみつからない。手は柔らかい絨毯に当たって、一切痛まなかった。それが無性にイライラする。

「教科書破かれたとか、それこそ置き忘れ?それとも置き勉?!置き勉は違反です!私は朝教科書が破かれて廊下に散らばっているのを見て、箒で片付けただけよ!それがアリシアの物だったなんて、知るわけないでしょ!むしろ、早起きの爽快感をぶち壊す物を粛々と片付けた私を褒めなさいよ!なんで廊下にゴミが散らばっているのよ!勉強嫌いの奴の反抗かと思って、ちょっぴり賛同しちゃったじゃない!教科書捨てたらお母様に鬼のように怒られるから、私我慢してたのよ!」

 感情に任せて喋っているので、自分が何を言いたいのか途中で分からなくなってくる。とりあえず、感情を吐き出せる言葉なら何でもいいのだ。

「水かけたとか子どもか?!子どもがやってるの?胸元にかかったって、正面からかけられたんだよね?それがどうして私のせいになるのよ。嘘か。私を陥れようとしたのね。絶対そうじゃない!なら、胸元にかけたのも、狙ってなんでしょ!色仕掛け?絶対そうでしょ?!貴女胸がボインボインだったものね。自分のセックスアピールはちゃんと主張すべきだものね……って言うと思ったか、尻軽女めっ。童貞君が即落ちだったのが目に浮かぶわよ。言っとくけど、あいつ潔癖症で閨教育途中までしかしてないから、絶対下手よ?……まあ、私もあまり知らないけれど……」

 人のことを言えないのを思い出して、言葉が尻窄みになつた。



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