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一.勃興
前哨戦 ― 前編 ―
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土手に寝転がって真っ青な空を眺めていると、風にそよぐ稲穂が時折、視界の下の方でチラチラと揺れた。
一面に広がる収穫を待つばかりの稲穂が青い空に反射して、空を少しだけ黄金色に変えて見せる。
牛太は持ってきた干し肉を一枚取り、横で同じように寝転がっている新之助に向けて手を伸ばした。新之助はそれを無言で受け取り、口へ運んだ。もう一枚取り出して牛太もそれを噛みしめた。虎臥が獲ってきた鹿だ。
「――なにか思いついたか?」
と、空を眺めたまま新之助が言った。「なにか」とは、うまいこと給主から下知状を賜る策のことだろうが、そんな簡単に思いつくはずもない。
伊勢房に会うために太良荘まで足を運んだのは無駄ではなかった。知っておいて損のないことを多く知ることができた。ただそれをどう使うかには至らず、二人でただ空を眺めていた。
「ひとまず西津へ戻るか?」
(このままここでこうしていても仕方がない)
と牛太は思い立って、新之助の問いには答えず、西津へ戻ることを提案してみた。今ここに虎臥がいたら、この提案は虎臥の口から出ただろう。行き詰ったなら、とりあえず動いてみようと。
寝っ転がったままの新之助からは返事がない。ただ目だけをこちらに向けて、いつもと様子がちがう牛太を「どしたん?」という顔で見ている。
「商人と言いながら手ぶらでは格好がつかないだろ? どうやって給主に目通るかは道すがら考えるとして、ケン次郎殿のところへ戻って唐物探しをしてはどうだろう?」
牛太は自分の口から出た言葉が己の考えなのか分からなかった。ただ新之助の視線に返す言葉が欲しかっただけで、本当にただの思いつきだった。しかし幸いなことに、その言葉のひとつが新之助の心を捉えた。
「唐物か――。ありだな」
と言って新之助が体を起こした。
「そうだ。唐物だ。新之助も言っておったではないか」
新之助の反応をみて、牛太の記憶も瞬時に蘇った。西津で鶴姫らと再会したときだ。新之助が鶴姫の気を引こうと協力を申し出たとき、お上は唐物に熱心だと。給主への口添えの好機になると。
思いがけず自分の口から出た言葉に、牛太はひとり歓喜した。
「唐物の珍しい品が手に入ったのでぜひお目にかけたいといやぁ、通行手形としては不足ねぇ」
と、新之助は言う。
「それほどお上は唐物に熱心なのか?」
と牛太が問うと、
「そりゃあもう、大層なもんだ」
という。
鎌倉時代の後期、武家の唐物趣味への昂揚がどれほど大層なものだったのか。承久の乱(1221年)以降、幕府の権力が増大するにつれて、鎌倉は政治だけでなく、経済の中心地としても発展する。
鎌倉は海と山に囲まれた物理的に拡張できない土地だったが、そもそも広い土地を必要としない都市だった。集散地であるこの都市には、各地からの年貢や必要となる日用品などは、すべて海路と陸路で流入する。そののち、海路と陸路でふたたび各地へと送り出されていく。そうした物のなかに唐物もあった。
鎌倉の南東、現在でも干潮時には石積みの跡を見ることができる和賀江島。鎌倉時代のはじめに、大船を入港させるために築かれたこの港湾施設には、日宋貿易の商船も頻繁に着いたようで、鎌倉武士たちの手紙には、唐から船が戻ったことを喜んだり、唐物市が立つ噂や、町中に唐物が溢れていることを愉しんだりしている様子が残されている。酒席や茶会で唐物が披露されるようになると、唐物はもはやただ鑑賞するだけのものではなく、鎌倉武士の社交の場に必要不可欠なものになっていった。
平和であることは文化の形成を大いに助けるが、もうひとつ、狭さも重要な要素である。限られた空間のなかに多くのものを押し込めると、それまで接点のなかったものどうしが衝突する。その衝突が膨大なエネルギーを生む。京都を中心とした”公家文化”に対し、成立から100年ほどの幕府が”武家文化”を生むことができたのは、鎌倉の地形も大いに関係しただろう。
「そうか、ならば安心だな」
ケン次郎と別れてからまだそれほど経っていない。荷揚げがどれほど進んだかは分からないが、揚がったものから見ていくしかないだろう。
「となればあとは何を選ぶか、だが。とりあえず茶はあった方がいいな」
と、新之助は言う。
「茶か……。酒じゃあいかんのか?」
西津の市庭なら酒は間違いなくあるが、茶となると手に入るかわからない。
「相手の好みがわからねぇ。酒好きならいいが、茶の方が無難だ。一応は仏門の人だ、茶を嫌う坊さんはいねぇ」
西津荘給主、工藤右衛門入道杲暁。この”入道”は名前ではなく、仏門に入ったことを意味する。親鸞聖人が酒を嗜んでいたのは有名な話だが、基本的には仏教は酒を飲むことを禁止していた。ただしこの時代、出家せず在家のまま仏門にはいる人もあり、仏教で禁止されている肉食や不飲酒がどれほど守られていたかは不明だ。自由で開かれた鎌倉時代を想像しているわたしとしては、堅く守っていた人もあれば、そうではない人も大勢いたと思いたい。
新之助は牛太の顔をみて、牛太の思っていることを察したようで、
「とは言ったものの、か」
と言って言葉を切ると、
「どっか近場の寺に入って用立ててもらうしかねぇか」
と言った。
市庭で売茶を探すよりは手堅いと牛太も思った。
「それがいいかもな。近いところで大きな寺となると、棡山あたりか?」
棡山明通寺は、北川を挟んで、今ふたりがいる太良荘の対岸に位置する松永保の谷の奥にある。山号を棡山。坂上田村麻呂によって創建されたと伝わる、若狭随一の古刹だ。
「そりゃいい。明通寺ほどの寺ならあるだろう。ここからも近い」
と新之助は、牛太の言葉に賛同したが、言った牛太はふと別の考えが頭に浮かんだ。
「明通寺もよいだろうが、小浜に行ってみるというのはどうだろうか?」
牛太の提案に新之助は「小浜?」と、訊き返した。
明通寺よりも確実に茶が手に入るところが小浜にあるのかという意味を含んでのことだろうが、牛太にはこの閃きに確信があった。
「新之助から仕入れた栂尾茶。小浜の石見房と申す者に売ったのだが、茶を大層好む。石見房であれば、まちがいなく茶を持っている。そのうえ茶好きが高じて、具足の蒐集もしているから、西津へ戻らずともなにかよい唐物もあるはずだ」
理由を伝えれば茶を用立ててもらうことも、唐物を借り受けることもかなうだろうと牛太は思った。小浜津は、給主の館がある税所今富名にある。わざわざ西津の船まで戻らずとも、必要なものがすべて現地調達できるのは、時がない二人にとって幸いなことだった。
「さらにもうひとつ。打って付けな理由がある」
牛太はここへきて、もうひとつ思い出した。
「栂尾茶の出所を問われて、石見房に経緯を話した」
――どうやって茶を手に入れたのか。
「荷抜きの話もか?」
と、新之助が問う。
「あらいざらいさ」
その話の大半は、新之助のはなしだ。
「聞き終えたあとなんと申したと思う? 新之助のことを、使い走りにしておくには惜しいと申しておったぞ!」
そうだ。この一件があることで、新之助を連れて行くことにも筋が通る。
「ほほぉう。その御仁、なかなか話の分かる男じゃねぇか」
と、調子にのりやすい新之助は、早くも上機嫌だ。
「新之助がまとまった量を仕入れできるなら、商いとして茶を扱うことも考えていると。そう申しておった」
牛太は話しているうちに次々と当時のことが脳裏に蘇ってきて、その悉くが妙案である気がして、高揚を抑えきれなかった。
「いいじゃねぇか。決まりだ。多烏の件が落着したあとのためにも、俺はそいつに会っておかなきゃならねぇってわけだ。栂尾茶ならまた手に入ったときに持っていくと言っておけばいい。そいつを餌にしてひとまずは手土産の茶と、目を引く一品を借り受けるところまで話を持っていけりゃあ上出来だ」
と、方針も決まり、ふたりは小浜へと急いだ。
※※※
「よく来たよく来た。それで、用向きは?」
石見房の館に着くと、いつもの調子で迎え入れてくれた。
「はい。以前、栂尾茶を持って参りましたのを覚えているでしょうか?」
「もちろん覚えとる。とっくの昔に飲んでしまった。また手に入ったのか?」
「いえ、そうではありませんが――」
「なんじゃあ、期待させおって」
「申し訳ありません」
いつもの調子で迎えられたと思ったが、少し気分が良くなっているようだ。無駄話は早々に切り上げて本題に入りたい。
「あの時、茶を入手した経緯を話したかと思いますが――」
と切り出すと、石見房は膝を打って、
「あー、あれだ。荷抜きだ。六波羅の奉行人から」と言った。
覚えていたようだ。
「その話です」
「おーおー、分かったぞ。たしか何某という昔馴染みが京にあって、そやつが荷抜きをしておると。その後ろに控えている者がその何某か? そうだろ?」
ここまで牛太の後ろで一言も発せず控えていた新之助に向かって、石見房が問う。いつもと調子が違ったのは、新之助が何者であるか見定めるためかもしれない。
「御明察。その何某の新之助と申します」
出番を待っていたと言わんばかりに、新之助が牛太の隣に躙り出て、名乗った。
「ほっほっほっ。この程度で明察もなにもない。次郎はあれ以来茶を仕入れてこん。茶の話をしだしたかと思ったら、持ってはおらぬと申す。ならば何の話か? 後ろに見ない顔を連れておる。されど従者には見えぬ。これはあのとき話に出た昔馴染みに違いない。ワシでなくとも想像がつきそうなものだ」
石見房は得意げに思考を披露した。
「ただの従者に見えるか否か。見る目の無い者には区別がつかないものです」
韜晦ぶりでは新之助も負けてはいない。
石見房の慧眼を褒めつつ、己がただ者ではないことについては否定しない。
「眼を見れば大概、その者がどういった類の者かが分かる。心のうちに強い野心を持つ者は、眼からそれが透けて見える。そなたの眼は従者のそれではない」
「感服致しました」
互いの力量を推し量るようなやり取りが新之助と石見房の間で交わされ、決着したのかは分からないが、お互いに納得しているようには見えた。
「よいよい。さて次郎、そして新之助。茶を持たずに揃ってワシのところへ来たということは、商いの話と思ってよいか?」
新之助が何者であるか見定めると、そう言って、石見房は本題に入ることを促した。
「はい。もちろんそのつもりですが、その前に、石見房様にお頼みしたいことがあって参りました」
と牛太が切り出すと、
「なんだ? 銭が足らんか?」
と、石見房が訊き返した。
そういえば、茶の仕入れについて銭が必要なら、遠慮せずに申せと言っていたなと思い出した。が、今回はその話ではない。
「故あって、西津荘給主への目通りを企てております。何を持参するのが適当か、我らのような身分では想像に難く、ひとまず茶であれば間違いはないだろうと思い至りました。ただ生憎、茶が手元にありません。市庭で簡単に手に入る品でもありません。火急の用であるため、新之助に京へ向かってもらう暇もありません。進退窮まったところで石見房様のことが頭に浮かびました。もし手元に茶があるようでしたら、何卒、工面して頂けないでしょうか」
と牛太が茶を用立てて貰えるよう頼むと、
「なんだそんなことか。手土産程度の茶であれば造作ない」
と、ふたつ返事で承知してくれた。
無いとは思っていなかったが、これでひとつ安心が得られた。
「感謝致します」
と言って牛太が頭を下げたところへ、「まあ待て」と石見房は言った。
「昨日今日の付き合いではない。茶を持たせてやることで次郎が窮地を脱するのであれば、それを拒む理由はない。ただ――」
「ただ?」
「昨日今日の付き合いではないが故に、給主への目通りの理由も聞けぬというのは、些か寂しく感じるのぉ」
何か条件が付くのかと思ったが、そんなことならこちらも造作ない。知れたことでどうこうなるわけでもない。
「隠し立てするつもりはありませんでした。ただ少々込み入った話になっておりまして――」
西津荘の多烏浦と汲部浦の争いを仲裁すべく給主へ嘆願に参った。ということを端的に話して聞かせると、
「ほっ、如何にも込み入った話だ」
と喜んで聞いている。間違いなく興味本位の道楽で聞いている顔で、この表情に韜晦はない。
「こいつは多烏に嫁さんを置いてきちまったんで気が気じゃないんですよ」
新之助がさきほどよりは少しくだけた調子で、多烏に置いてきた虎臥のことを補足した。本題ではないから伝えなかっただけで、これも別に隠す理由も無い。しかしすでに道楽気分で話を聞いている石見房は、こちらの話の方に興味が移ったようだ。
「ほう、嫁? 次郎のか? いつ娶ったのだ?」
「春に――」
そうだ。ここへ栂尾茶を持ってきた翌朝のことだ。
「ほっほっほっ。それはめでたい。多烏とは随分遠くから娶ったものだ。争いの最中に置いて出てきたのでは気が気ではないだろう」
「いえ、多烏の者ではありません」
と、牛太が石見房の勘違いを指摘すると、
「多烏の守備に置いてきたんでさ。弓の扱いに長けてる。腕っぷしも、並みの男なら束になって掛かってもかなわねぇ。何より自分で残ると言って残ったもんだから、こいつも残して出てくるよりほかなかった」
と、ここでまた新之助が補足をいれた。
すると石見房の興味は、ますます虎臥の方へと向いていく。
「ほぉ、勇ましいおなごじゃ。そのおなご、名は何と申す?」
「お虎と言いましてね。ここらじゃ『瓜生の虎』と言った方が名が通るかもしれねぇ」
「そっ、それはまことかっ!」
新之助の口からでた名を聞いて、ここまで完全に世間話として聞いていた石見房が、腰を浮かせて聞き返してくる。
「ええ、まあ。本人は自分で名乗ったことはないと申しておりますが――」
と、石見房の反応に戸惑いつつ牛太が答えると、
「そんなことはどうでもいい。次郎の嫁が『瓜生の虎』だと申すのかっ!」
「はぁ、まぁ」
(な、なんだこの反応は? トラのやつ何かしでかしたのだろうか?)
よりにもよって相手が石見房とは面倒なことになるな、などと牛太が考えていると、なにを思ったのか、新之助がさらに一歩、石見房に躙り寄って聞いた。
「お虎がどうかしましたか?」
「どうもこうも、お虎ちゃんはワシの贔屓じゃ!」
訊くと、小浜の市庭に虎臥が来ている噂を耳にすると、その度に、虎臥を見るために市へ出向いているという。
石見房曰く、おなごは大きくて力強いのがよいという。たしかにその理屈でいれば、虎臥ほどのおなごは若狭にはいないだろう。
牛太にとっては商いを始めた頃からの付き合いで、常々奇行のある爺さんだとは思っていたが、まさか虎臥の尻を追いかけていたとは思いも寄らなかった。
「そんならここは名を上げる好機じゃねぇですか」
囃し立てるように新之助が合の手を入れる。
「なんと?」
と、その言葉に石見房が反応する。
新之助はその反応をみて話を続けた。
「ちっと考えりゃあ分かる話じゃねぇですか。お虎はいま、戦の真っ只中で奮戦してる。次郎が給主のもとへ嘆願に向かおうとするのはそれを助けるため。ここで次郎を助けることそれ即ち、多烏で孤軍奮闘するお虎を助けるに等しいっ!」
そうして新之助が言い切ると、「おおおおおっ!?」と、石見房がひとり歓声をあげた。
「すべてが恙なく落着した折には、その感謝を直接会って伝えたいと考えるでしょう」
一歩また一歩と躙り寄った新之助は、もはや石見房の隣にあって、耳元で囁くようにして話し掛けている。
「とうぜん次郎もそれを勧め、お虎を伴って石見房殿の前に参上する。そうだな? 次郎」
「も、もちろんで御座います」
新之助から唐突に話を振られ、牛太は考えも無くそれを肯定した。
「石見房殿に寄り添い、手を取るお虎の姿がありありと見える」
新之助は石見房の手を取り、目を閉じて空を仰いだ。
同じように、石見房も目を閉じて恍惚の表情を浮かべている。
石見房の手を取り、寄り添う虎臥の姿を思い浮かべているのだろうか。
「か、仮に助けぬとなればどうなるだろうか?」
目を開け、我に返った石見房が新之助に問う。
新之助は手をそっと石見房の膝の上に戻すと、首を振って大袈裟にため息をついた。
「想像したくもありませんが、お虎に恨まれることはまず間違いありますまい。なんなら助けたとしても、事がうまく運ばなかったときはやはり不評を買うことになるでしょう」
「そんな……」
一転、暗い表情で語る新之助。狼狽する石見房。
まるで滑稽な芝居を見ているようだ。
「石見房殿はすでに事のあらまし聞いてしまった。もはや知る前には戻れません。斯くなる上は次郎を助け、お虎に感謝される結果に導くよりほかないのです」
全身の力が抜けたようにへたり込む石見房を新之助が傍らで支えた。
「だ、誰か……。筆と硯を……」
「誰かっ! 筆と硯だっ! 筆と硯を持って参れっ!」
消え入りそうな声の石見房に代わり、新之助が奥に向かって筆と硯を催促する。
石見房の前に小机が用意されると、横では新之助が手際よくシャカシャカと墨を磨り始めた。
「どうされるおつもりでしょう?」
一体何を書くつもりなのか。力なく筆を手にして待っている石見房の顔には、正気が感じられない。牛太の問いに石見房は、
「西津荘給主とは、若狭国守護代工藤右衛門入道杲暁のことであろう」
と、抑揚は無く、消え入りそうな声で答えた。
「左様に御座います」
「ならば税所今富名におる。屋敷もここから近い」
「お会いになったことがあるのですか?」
「時折な」
墨を磨り終えた新之助が、
「そいつぁ話が早ぇ」
と、筆を持つ石見房の手を硯へと誘導する。
「有難う御座います。一筆書いて頂けるだけで守護代様の信用を得られます」
と牛太が礼を述べると、
「勘違いするな。これは杲暁に宛てた茶寄合の文だ」
と、石見房は言った。
(茶寄合?)
「茶寄合を催し、ワシが杲暁と直に話す。そなたらはワシが呼ぶまで控えておれ」
気が動転して当初の話を失念してしまったのかと思ったが、そうではなかった。
面識のある石見房が直接会って話を通してくれるのであれば、もはや下知状を賜ったも同じ。憔悴しきった石見房の顔を見ると申し訳なく思うが、今は手段を選んでいる場合ではない。
「何から何まで、有難う御座います」
重ねて牛太が礼を述べると、
「ワシぁ失敗できんのだっ!」
と、力強い、魂が込められた叫びが返ってきた。
手段を選んでいられない状況は、石見房も同じようだ。
一面に広がる収穫を待つばかりの稲穂が青い空に反射して、空を少しだけ黄金色に変えて見せる。
牛太は持ってきた干し肉を一枚取り、横で同じように寝転がっている新之助に向けて手を伸ばした。新之助はそれを無言で受け取り、口へ運んだ。もう一枚取り出して牛太もそれを噛みしめた。虎臥が獲ってきた鹿だ。
「――なにか思いついたか?」
と、空を眺めたまま新之助が言った。「なにか」とは、うまいこと給主から下知状を賜る策のことだろうが、そんな簡単に思いつくはずもない。
伊勢房に会うために太良荘まで足を運んだのは無駄ではなかった。知っておいて損のないことを多く知ることができた。ただそれをどう使うかには至らず、二人でただ空を眺めていた。
「ひとまず西津へ戻るか?」
(このままここでこうしていても仕方がない)
と牛太は思い立って、新之助の問いには答えず、西津へ戻ることを提案してみた。今ここに虎臥がいたら、この提案は虎臥の口から出ただろう。行き詰ったなら、とりあえず動いてみようと。
寝っ転がったままの新之助からは返事がない。ただ目だけをこちらに向けて、いつもと様子がちがう牛太を「どしたん?」という顔で見ている。
「商人と言いながら手ぶらでは格好がつかないだろ? どうやって給主に目通るかは道すがら考えるとして、ケン次郎殿のところへ戻って唐物探しをしてはどうだろう?」
牛太は自分の口から出た言葉が己の考えなのか分からなかった。ただ新之助の視線に返す言葉が欲しかっただけで、本当にただの思いつきだった。しかし幸いなことに、その言葉のひとつが新之助の心を捉えた。
「唐物か――。ありだな」
と言って新之助が体を起こした。
「そうだ。唐物だ。新之助も言っておったではないか」
新之助の反応をみて、牛太の記憶も瞬時に蘇った。西津で鶴姫らと再会したときだ。新之助が鶴姫の気を引こうと協力を申し出たとき、お上は唐物に熱心だと。給主への口添えの好機になると。
思いがけず自分の口から出た言葉に、牛太はひとり歓喜した。
「唐物の珍しい品が手に入ったのでぜひお目にかけたいといやぁ、通行手形としては不足ねぇ」
と、新之助は言う。
「それほどお上は唐物に熱心なのか?」
と牛太が問うと、
「そりゃあもう、大層なもんだ」
という。
鎌倉時代の後期、武家の唐物趣味への昂揚がどれほど大層なものだったのか。承久の乱(1221年)以降、幕府の権力が増大するにつれて、鎌倉は政治だけでなく、経済の中心地としても発展する。
鎌倉は海と山に囲まれた物理的に拡張できない土地だったが、そもそも広い土地を必要としない都市だった。集散地であるこの都市には、各地からの年貢や必要となる日用品などは、すべて海路と陸路で流入する。そののち、海路と陸路でふたたび各地へと送り出されていく。そうした物のなかに唐物もあった。
鎌倉の南東、現在でも干潮時には石積みの跡を見ることができる和賀江島。鎌倉時代のはじめに、大船を入港させるために築かれたこの港湾施設には、日宋貿易の商船も頻繁に着いたようで、鎌倉武士たちの手紙には、唐から船が戻ったことを喜んだり、唐物市が立つ噂や、町中に唐物が溢れていることを愉しんだりしている様子が残されている。酒席や茶会で唐物が披露されるようになると、唐物はもはやただ鑑賞するだけのものではなく、鎌倉武士の社交の場に必要不可欠なものになっていった。
平和であることは文化の形成を大いに助けるが、もうひとつ、狭さも重要な要素である。限られた空間のなかに多くのものを押し込めると、それまで接点のなかったものどうしが衝突する。その衝突が膨大なエネルギーを生む。京都を中心とした”公家文化”に対し、成立から100年ほどの幕府が”武家文化”を生むことができたのは、鎌倉の地形も大いに関係しただろう。
「そうか、ならば安心だな」
ケン次郎と別れてからまだそれほど経っていない。荷揚げがどれほど進んだかは分からないが、揚がったものから見ていくしかないだろう。
「となればあとは何を選ぶか、だが。とりあえず茶はあった方がいいな」
と、新之助は言う。
「茶か……。酒じゃあいかんのか?」
西津の市庭なら酒は間違いなくあるが、茶となると手に入るかわからない。
「相手の好みがわからねぇ。酒好きならいいが、茶の方が無難だ。一応は仏門の人だ、茶を嫌う坊さんはいねぇ」
西津荘給主、工藤右衛門入道杲暁。この”入道”は名前ではなく、仏門に入ったことを意味する。親鸞聖人が酒を嗜んでいたのは有名な話だが、基本的には仏教は酒を飲むことを禁止していた。ただしこの時代、出家せず在家のまま仏門にはいる人もあり、仏教で禁止されている肉食や不飲酒がどれほど守られていたかは不明だ。自由で開かれた鎌倉時代を想像しているわたしとしては、堅く守っていた人もあれば、そうではない人も大勢いたと思いたい。
新之助は牛太の顔をみて、牛太の思っていることを察したようで、
「とは言ったものの、か」
と言って言葉を切ると、
「どっか近場の寺に入って用立ててもらうしかねぇか」
と言った。
市庭で売茶を探すよりは手堅いと牛太も思った。
「それがいいかもな。近いところで大きな寺となると、棡山あたりか?」
棡山明通寺は、北川を挟んで、今ふたりがいる太良荘の対岸に位置する松永保の谷の奥にある。山号を棡山。坂上田村麻呂によって創建されたと伝わる、若狭随一の古刹だ。
「そりゃいい。明通寺ほどの寺ならあるだろう。ここからも近い」
と新之助は、牛太の言葉に賛同したが、言った牛太はふと別の考えが頭に浮かんだ。
「明通寺もよいだろうが、小浜に行ってみるというのはどうだろうか?」
牛太の提案に新之助は「小浜?」と、訊き返した。
明通寺よりも確実に茶が手に入るところが小浜にあるのかという意味を含んでのことだろうが、牛太にはこの閃きに確信があった。
「新之助から仕入れた栂尾茶。小浜の石見房と申す者に売ったのだが、茶を大層好む。石見房であれば、まちがいなく茶を持っている。そのうえ茶好きが高じて、具足の蒐集もしているから、西津へ戻らずともなにかよい唐物もあるはずだ」
理由を伝えれば茶を用立ててもらうことも、唐物を借り受けることもかなうだろうと牛太は思った。小浜津は、給主の館がある税所今富名にある。わざわざ西津の船まで戻らずとも、必要なものがすべて現地調達できるのは、時がない二人にとって幸いなことだった。
「さらにもうひとつ。打って付けな理由がある」
牛太はここへきて、もうひとつ思い出した。
「栂尾茶の出所を問われて、石見房に経緯を話した」
――どうやって茶を手に入れたのか。
「荷抜きの話もか?」
と、新之助が問う。
「あらいざらいさ」
その話の大半は、新之助のはなしだ。
「聞き終えたあとなんと申したと思う? 新之助のことを、使い走りにしておくには惜しいと申しておったぞ!」
そうだ。この一件があることで、新之助を連れて行くことにも筋が通る。
「ほほぉう。その御仁、なかなか話の分かる男じゃねぇか」
と、調子にのりやすい新之助は、早くも上機嫌だ。
「新之助がまとまった量を仕入れできるなら、商いとして茶を扱うことも考えていると。そう申しておった」
牛太は話しているうちに次々と当時のことが脳裏に蘇ってきて、その悉くが妙案である気がして、高揚を抑えきれなかった。
「いいじゃねぇか。決まりだ。多烏の件が落着したあとのためにも、俺はそいつに会っておかなきゃならねぇってわけだ。栂尾茶ならまた手に入ったときに持っていくと言っておけばいい。そいつを餌にしてひとまずは手土産の茶と、目を引く一品を借り受けるところまで話を持っていけりゃあ上出来だ」
と、方針も決まり、ふたりは小浜へと急いだ。
※※※
「よく来たよく来た。それで、用向きは?」
石見房の館に着くと、いつもの調子で迎え入れてくれた。
「はい。以前、栂尾茶を持って参りましたのを覚えているでしょうか?」
「もちろん覚えとる。とっくの昔に飲んでしまった。また手に入ったのか?」
「いえ、そうではありませんが――」
「なんじゃあ、期待させおって」
「申し訳ありません」
いつもの調子で迎えられたと思ったが、少し気分が良くなっているようだ。無駄話は早々に切り上げて本題に入りたい。
「あの時、茶を入手した経緯を話したかと思いますが――」
と切り出すと、石見房は膝を打って、
「あー、あれだ。荷抜きだ。六波羅の奉行人から」と言った。
覚えていたようだ。
「その話です」
「おーおー、分かったぞ。たしか何某という昔馴染みが京にあって、そやつが荷抜きをしておると。その後ろに控えている者がその何某か? そうだろ?」
ここまで牛太の後ろで一言も発せず控えていた新之助に向かって、石見房が問う。いつもと調子が違ったのは、新之助が何者であるか見定めるためかもしれない。
「御明察。その何某の新之助と申します」
出番を待っていたと言わんばかりに、新之助が牛太の隣に躙り出て、名乗った。
「ほっほっほっ。この程度で明察もなにもない。次郎はあれ以来茶を仕入れてこん。茶の話をしだしたかと思ったら、持ってはおらぬと申す。ならば何の話か? 後ろに見ない顔を連れておる。されど従者には見えぬ。これはあのとき話に出た昔馴染みに違いない。ワシでなくとも想像がつきそうなものだ」
石見房は得意げに思考を披露した。
「ただの従者に見えるか否か。見る目の無い者には区別がつかないものです」
韜晦ぶりでは新之助も負けてはいない。
石見房の慧眼を褒めつつ、己がただ者ではないことについては否定しない。
「眼を見れば大概、その者がどういった類の者かが分かる。心のうちに強い野心を持つ者は、眼からそれが透けて見える。そなたの眼は従者のそれではない」
「感服致しました」
互いの力量を推し量るようなやり取りが新之助と石見房の間で交わされ、決着したのかは分からないが、お互いに納得しているようには見えた。
「よいよい。さて次郎、そして新之助。茶を持たずに揃ってワシのところへ来たということは、商いの話と思ってよいか?」
新之助が何者であるか見定めると、そう言って、石見房は本題に入ることを促した。
「はい。もちろんそのつもりですが、その前に、石見房様にお頼みしたいことがあって参りました」
と牛太が切り出すと、
「なんだ? 銭が足らんか?」
と、石見房が訊き返した。
そういえば、茶の仕入れについて銭が必要なら、遠慮せずに申せと言っていたなと思い出した。が、今回はその話ではない。
「故あって、西津荘給主への目通りを企てております。何を持参するのが適当か、我らのような身分では想像に難く、ひとまず茶であれば間違いはないだろうと思い至りました。ただ生憎、茶が手元にありません。市庭で簡単に手に入る品でもありません。火急の用であるため、新之助に京へ向かってもらう暇もありません。進退窮まったところで石見房様のことが頭に浮かびました。もし手元に茶があるようでしたら、何卒、工面して頂けないでしょうか」
と牛太が茶を用立てて貰えるよう頼むと、
「なんだそんなことか。手土産程度の茶であれば造作ない」
と、ふたつ返事で承知してくれた。
無いとは思っていなかったが、これでひとつ安心が得られた。
「感謝致します」
と言って牛太が頭を下げたところへ、「まあ待て」と石見房は言った。
「昨日今日の付き合いではない。茶を持たせてやることで次郎が窮地を脱するのであれば、それを拒む理由はない。ただ――」
「ただ?」
「昨日今日の付き合いではないが故に、給主への目通りの理由も聞けぬというのは、些か寂しく感じるのぉ」
何か条件が付くのかと思ったが、そんなことならこちらも造作ない。知れたことでどうこうなるわけでもない。
「隠し立てするつもりはありませんでした。ただ少々込み入った話になっておりまして――」
西津荘の多烏浦と汲部浦の争いを仲裁すべく給主へ嘆願に参った。ということを端的に話して聞かせると、
「ほっ、如何にも込み入った話だ」
と喜んで聞いている。間違いなく興味本位の道楽で聞いている顔で、この表情に韜晦はない。
「こいつは多烏に嫁さんを置いてきちまったんで気が気じゃないんですよ」
新之助がさきほどよりは少しくだけた調子で、多烏に置いてきた虎臥のことを補足した。本題ではないから伝えなかっただけで、これも別に隠す理由も無い。しかしすでに道楽気分で話を聞いている石見房は、こちらの話の方に興味が移ったようだ。
「ほう、嫁? 次郎のか? いつ娶ったのだ?」
「春に――」
そうだ。ここへ栂尾茶を持ってきた翌朝のことだ。
「ほっほっほっ。それはめでたい。多烏とは随分遠くから娶ったものだ。争いの最中に置いて出てきたのでは気が気ではないだろう」
「いえ、多烏の者ではありません」
と、牛太が石見房の勘違いを指摘すると、
「多烏の守備に置いてきたんでさ。弓の扱いに長けてる。腕っぷしも、並みの男なら束になって掛かってもかなわねぇ。何より自分で残ると言って残ったもんだから、こいつも残して出てくるよりほかなかった」
と、ここでまた新之助が補足をいれた。
すると石見房の興味は、ますます虎臥の方へと向いていく。
「ほぉ、勇ましいおなごじゃ。そのおなご、名は何と申す?」
「お虎と言いましてね。ここらじゃ『瓜生の虎』と言った方が名が通るかもしれねぇ」
「そっ、それはまことかっ!」
新之助の口からでた名を聞いて、ここまで完全に世間話として聞いていた石見房が、腰を浮かせて聞き返してくる。
「ええ、まあ。本人は自分で名乗ったことはないと申しておりますが――」
と、石見房の反応に戸惑いつつ牛太が答えると、
「そんなことはどうでもいい。次郎の嫁が『瓜生の虎』だと申すのかっ!」
「はぁ、まぁ」
(な、なんだこの反応は? トラのやつ何かしでかしたのだろうか?)
よりにもよって相手が石見房とは面倒なことになるな、などと牛太が考えていると、なにを思ったのか、新之助がさらに一歩、石見房に躙り寄って聞いた。
「お虎がどうかしましたか?」
「どうもこうも、お虎ちゃんはワシの贔屓じゃ!」
訊くと、小浜の市庭に虎臥が来ている噂を耳にすると、その度に、虎臥を見るために市へ出向いているという。
石見房曰く、おなごは大きくて力強いのがよいという。たしかにその理屈でいれば、虎臥ほどのおなごは若狭にはいないだろう。
牛太にとっては商いを始めた頃からの付き合いで、常々奇行のある爺さんだとは思っていたが、まさか虎臥の尻を追いかけていたとは思いも寄らなかった。
「そんならここは名を上げる好機じゃねぇですか」
囃し立てるように新之助が合の手を入れる。
「なんと?」
と、その言葉に石見房が反応する。
新之助はその反応をみて話を続けた。
「ちっと考えりゃあ分かる話じゃねぇですか。お虎はいま、戦の真っ只中で奮戦してる。次郎が給主のもとへ嘆願に向かおうとするのはそれを助けるため。ここで次郎を助けることそれ即ち、多烏で孤軍奮闘するお虎を助けるに等しいっ!」
そうして新之助が言い切ると、「おおおおおっ!?」と、石見房がひとり歓声をあげた。
「すべてが恙なく落着した折には、その感謝を直接会って伝えたいと考えるでしょう」
一歩また一歩と躙り寄った新之助は、もはや石見房の隣にあって、耳元で囁くようにして話し掛けている。
「とうぜん次郎もそれを勧め、お虎を伴って石見房殿の前に参上する。そうだな? 次郎」
「も、もちろんで御座います」
新之助から唐突に話を振られ、牛太は考えも無くそれを肯定した。
「石見房殿に寄り添い、手を取るお虎の姿がありありと見える」
新之助は石見房の手を取り、目を閉じて空を仰いだ。
同じように、石見房も目を閉じて恍惚の表情を浮かべている。
石見房の手を取り、寄り添う虎臥の姿を思い浮かべているのだろうか。
「か、仮に助けぬとなればどうなるだろうか?」
目を開け、我に返った石見房が新之助に問う。
新之助は手をそっと石見房の膝の上に戻すと、首を振って大袈裟にため息をついた。
「想像したくもありませんが、お虎に恨まれることはまず間違いありますまい。なんなら助けたとしても、事がうまく運ばなかったときはやはり不評を買うことになるでしょう」
「そんな……」
一転、暗い表情で語る新之助。狼狽する石見房。
まるで滑稽な芝居を見ているようだ。
「石見房殿はすでに事のあらまし聞いてしまった。もはや知る前には戻れません。斯くなる上は次郎を助け、お虎に感謝される結果に導くよりほかないのです」
全身の力が抜けたようにへたり込む石見房を新之助が傍らで支えた。
「だ、誰か……。筆と硯を……」
「誰かっ! 筆と硯だっ! 筆と硯を持って参れっ!」
消え入りそうな声の石見房に代わり、新之助が奥に向かって筆と硯を催促する。
石見房の前に小机が用意されると、横では新之助が手際よくシャカシャカと墨を磨り始めた。
「どうされるおつもりでしょう?」
一体何を書くつもりなのか。力なく筆を手にして待っている石見房の顔には、正気が感じられない。牛太の問いに石見房は、
「西津荘給主とは、若狭国守護代工藤右衛門入道杲暁のことであろう」
と、抑揚は無く、消え入りそうな声で答えた。
「左様に御座います」
「ならば税所今富名におる。屋敷もここから近い」
「お会いになったことがあるのですか?」
「時折な」
墨を磨り終えた新之助が、
「そいつぁ話が早ぇ」
と、筆を持つ石見房の手を硯へと誘導する。
「有難う御座います。一筆書いて頂けるだけで守護代様の信用を得られます」
と牛太が礼を述べると、
「勘違いするな。これは杲暁に宛てた茶寄合の文だ」
と、石見房は言った。
(茶寄合?)
「茶寄合を催し、ワシが杲暁と直に話す。そなたらはワシが呼ぶまで控えておれ」
気が動転して当初の話を失念してしまったのかと思ったが、そうではなかった。
面識のある石見房が直接会って話を通してくれるのであれば、もはや下知状を賜ったも同じ。憔悴しきった石見房の顔を見ると申し訳なく思うが、今は手段を選んでいる場合ではない。
「何から何まで、有難う御座います」
重ねて牛太が礼を述べると、
「ワシぁ失敗できんのだっ!」
と、力強い、魂が込められた叫びが返ってきた。
手段を選んでいられない状況は、石見房も同じようだ。
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