虎は果報を臥せて待つ

森下旅行

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一.勃興

傀儡子 ― 前編 ―

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「ほらっ、あそこにいる奴らッスよ」

 ケン次郎の先導で市庭いちばの揉めごとを覗きに来てみると、そこには既に人だかりができていた。

「ん? あいつらどっかかで見たな」

 揉めごとを起こしている連中に見覚えがあるのか。牛太のとなりで、新之助がそうつぶやいた。

「さっき市庭を回っていた時に見たのではないか?」

「いやぁ、違うな。もっと前だ……。そう、京の塩座しおざだ」

「塩座?」

「あぁ、間違いねぇ」

 すると塩か干物を扱う者たちだろうか。と思うのが普通だが、さきほど新之助の話を聞いた牛太のあたまには、半年前の塩騒動のことがさきに浮かんだ。

呑気のんきに構えてはおれぬぞ。まずはあの者たちを助けるのが先じゃ」

 後ろで様子を見ていた虎臥とらふすが、二人の肩に手を置いて言った。
 視線の先の状況は、まさにその通りであることに間違いなかったが相手は三人。そのうちの一人は太刀たちを手にしていた。

「助けるつってもどうすんだよ。こっちには武器がねぇんだぞ?」

 新之助の言う通り、助けようにも手立てがない。

「狩りのことは、わらわに任せい」

 そう言うと虎臥は、ケン次郎も呼び寄せ、肩を組んで円陣を作り指示を出し始めた。悪党退治をき狩りと同じと思っているようだ。

「よいかよく聞け。新之助は右から、ケン次は左から、群衆の後ろに回り込んだら奴らに向かって石を投げつけよ。ウシ、耳を貸せ」

 そう言うと虎臥は牛太の耳元に手をやり、秘策を伝えた。
 耳に吹きかかる息と近過ぎる顔が、牛太の心を乱したが、自分に託された役割を一字一句漏らさずあたまに刻み込むことに集中し、なんとか平常心を保つよう努めた。
 虎臥の策のとおり、牛太、新之助、ケン次郎の三人が持ち場につくと、群衆の背後から声をあげ、悪党どもに石を投げつけはじめた。

 ――狼藉ろうぜき者は出ていけーーっ!
 ――弱い者いじめはやめろーーっ!

 あっちからもこっちからもそんな風に声が上がり、悪党どもに向かって石が投げつけられていると、次第にそれに呼応こおうして群衆の中からも声が上がり始めた。足元に転がる石などを拾い上げては投げつける者が現れ、一度ひとたびそうなれば、力を持たない群衆は、その数をって刀に打ち勝つ力となる。皆口々に罵声を浴びせ、節分の豆まきよろしく、鬼に見立てた悪党どもに石を投げつけ始めた。
 四方八方から罵声と石つぶてを浴び、堪らず太刀の男が抜刀ばっとうした。
 すると一転、確固たる信念で結ばれていた者たちではないので、手前にいる者から我先にと押し合いへし合い逃げ出そうとする。こうなるとまた群衆は手に負えない。

(これが群衆か)

 群衆の強みと弱みを一度にみた気がして、牛太はなんとなく達観した気になったが、事態はそんなゆとりをあたえない状況になりつつあった。このまま総崩れになってしまうかと思われたところへ、勢いよく迫ってくるひづめの音といななきが聞こえた。

(間に合ったか)

 牛太は安堵して、自分に課せられた次の役目を果たしにかかった。

守護しゅごが来たぞーーっ! 道を開けろーーっ!」

 と、さきほど虎臥に指示された通り、声の限り叫んだ。
 それを聞いて今度は悪党どもが逃げ出した。

「畜生めっ! 逃げるぞっ!」

 群衆が綺麗に割れて道を作り、悪党どもが去ってぽっかりと空いた群衆の輪の真ん中で、とどろかせた蹄の音が止まった。
 馬に乗って現れたのは虎臥ただ一人。
 守護の者たちの姿は無い。もとより呼びに向かうつもりも無い。
 群衆は、馬上の人物が『瓜生うりゅうの虎』であることを見とめると喝采した。

「上手くいったようじゃの」

 人の心理を逆手に取った見事な策だった。


   ※※※


「さっすがお虎様だっ! 奴らもビビッて、しばらく西津へは近付けねぇッスよっ」

 すでに虎臥を信仰の対象としているケン次郎が、虎臥を褒め称える。
 当の虎臥も、どうということはないという風に応じているつもりだろうが、得意になっているのがわかる。しかしそれだけの活躍であったことは間違いない。

「それだけ利口であればよいがの。一晩経てば忘れてしまいそうな連中じゃったから心配じゃな」

 この辺りで、瓜生の虎として名が通っている虎臥が、市庭の狼藉者を撃退したとあって、悪党どもから救われた者たちだけでなく、居合わせた群衆からも沢山の貢ぎ物が集まり、市庭の片隅は祭りのような賑わいになっていた。

「新之助は京で、ケン次郎殿は汲部つるべに出入りしているのを見たというが、奴らは何者だろうか?」

 京や西津で見かける程度であればそこまで珍しくはないが、汲部は少し離れている。地理的にも、なにかのついでに寄るような土地でもない。

「そらぁ塩座にいたんだ、ああ見えて商人あきびとなんだろうよ」

 と、貢ぎ物のスルメを齧りながら新之助が答える。

「参考になるか分からねぇスけど、奴らぁ、汲部にちょいちょい顔を出してますが、鳥羽とも関係してるんじゃねぇかと。ウチの山を抜けて、汲部と鳥羽を行き来しているのを何度か見てるんスよ」

 それがあって顔を覚えていたとケン次郎はいう。だとすれば見間違いではないだろう。
 汲部で塩を仕入れ、内陸の鳥羽を抜けて京へ。途中の山越えの道に明るくない牛太だが、汲部と鳥羽なら距離は近いはずで、道が整備されているのであれば、考えられる話だと思った。

「汲部の者ということは?」

「それはないッスね」

 この牛太の問いには、ケン次郎は即答した。

「犬猿の仲であることは否定しませんがね。そんでもここ数年は割と落ち着いてて、永仁えいにん和与わよを守って、立網は寄合で決めて漁をしてたんで、女子供までは分からねぇスけど、男衆は大体顔を合わせてますから」

 いさかいが多いとはいえ隣浦のこと。顔が分かる程度の交流はあるということらしい。

「今年に入ってからッスよ、昔みてぇに奴らが突っかかってくるようになったのは」

 春、虎臥とともに多烏たからすへ入った日。夕日が沈んでいく海と追われる舟。虎臥が放った矢が振り上げたかい止めた時の情景が、牛太の脳裏によみがえった。

発端ほったんはやはり、我らが多烏へ赴いた日の騒動でしょうか?」

「どうスかねぇ。そんな気もするし、その前から小さな諍いはあったりしてたんで、その辺はなんとも言えねぇスね。落ち着いてたってだけで、別に仲良く網を引いてたってわけじゃあねぇスから」

 口ぶりからは、争いが表面化していなかっただけで、良好な関係であったわけではなさそうだ。

此度こたびの多烏汲部の騒動、裏で糸を引いているのは、鳥羽荘の下司げじだ」

 ここまで黙っていた鶴姫が、突然そう告げた。
 鶴姫のその一言で、場が沈黙した。みな驚いたのだろう。唐突であったこともあるだろうが、裏で操る者の正体について、『おそらく』とせず、断言していることに驚いたのだろうと牛太は思った。

「鶴姫様はなにかご存知なのですか?」

「汲部浦の刀祢とねから書状がありました」

 牛太の問いに、鶴姫はそう答えた。

「書状には、須那浦に網を立てた一件について書かれていました。須那浦は多烏の根本知行にあらず。須那浦は国御家人ごけにん鳥羽氏の御領であるから、鳥羽氏の許可を受けた汲部に独占的に網を立てる権利がある。と主張してきた」

 浦の中でもおおやけにしていないことだったのだろう。初めて耳にしたその事実に、ケン次郎が反射的に声を荒げる。

「はぁっ!? 意味が分からねぇ! 須那浦は多烏のご先祖様たちが開いた浦じゃねぇですかっ!」

出鱈目でたらめに決まっているが、多烏の根本知行であることを立証するのも難しい。我らの落としどころは、永仁の和与の再確認。それ以上のことは求めぬ」

 熱くなるケン次郎に、鶴姫は淡々と方針を告げた。
 しかしその方針は、ケン次郎にとって受け入れがたいようだ。

「それだけッスか? 前回和与の通りに決着するんなら、それ相応の落とし前はつけてもらわねぇと。はい、ご免なさいでは、浦のもんもみんな納得しねぇッスよ!」

 気性きしょうの荒い兄貴分の弥太郎とは違い、鶴姫を慕っているケン次郎が食って掛かるのは稀なことなのではないかと思われる。が、浦を思う気持ちが強いが故に、この男にも譲れないことはあるのだろうと、牛太はケン次郎に肩入れするしたい気持ちになった。

「私も同意です。同じことの繰り返しにならぬように、何かしらの抑止力となるものを求めた方がよいのではないでしょうか?」

 ケン次郎に助け船を出すかたちになったが、汲部に何かしらの非を負わせなければ、浦の者たちの納得は得られないように思えたからだった。

「その通りと思う。しかしそれを誰に求めるだろうか?」

 鶴姫も同じことを考えないわけではないのだろう。ただ、汲部は傀儡かいらいに過ぎず、裏で操る者は毎回異なるという。汲部を相手にそれを求めたところで、時が経てばまた同じことだろうと。

「裏で糸を引く者が変わるとしても、汲部を思いとどまらせる効果はあるのではないでしょうか?」

「そうッスよ。なんにも無しじゃあしめしがつかねぇッスよ」

 鶴姫にとって、いま起きている争いの収拾が最優先であり、解決が難しい根本的な問題の先送りは仕方のないことなのだろう。それは目先のことしか考えていないということではなく、喫緊の憂いを取り除かなければそのさきの未来はないということなのだろう。しかし浦の者たちにはそれが弱腰と映り、元々ある汲部への悪感情も相まって、より反発する。八方塞がりの鶴姫を牛太は気の毒に思った。

「さきほどのように皆で石を投げつけたところでどうなるものでもないでしょう」

 と、鶴姫は小さく笑ったが、狼藉者を蹴散らした救出劇を嘲る気持ちはないだろう。ただ、その程度の話ではないという思いはあったに違いない。

「分からぬことを考えておっても仕方ないじゃろう。まずは動いてみることじゃ」

 みな口をつぐんでしまったところで、沈んだ空気を払うように、虎臥が言った。

「考え無しに動くのは怪我のもとだぜ」

 と、合いの手を入れるかのように、新之助が噛んでいたスルメの足で虎臥を指した。
 二人ともこの沈んだ空気が嫌いなのだ。

「新之助の申す通りだ。思い付きで動いてよい問題ではない」

「ならば考えがあれば、動いてもよいのじゃな?」

 失敗したなと牛太は思った。揚げ足取りのために、わざわざ足を差し出したようなものだ。眉先を上げて聞き返す虎臥の顔は、明らかによからぬことを考えている時の顔だった。

「考えの内容による」

 と牛太は返したが、本当は考えの内容など聞かず、戯言ざれごととして話を閉じてしまいたかった。売り言葉に買い言葉。語る場を与えてしまった時点でこの勝負、虎臥に軍配が上がっていたのかもしれない。

「ここまでの話をまとめるとじゃ。汲部から鶴姫様のところに届いた書状には、鳥羽氏の許可を受けて網を立てた。と書かれておるのじゃから、鳥羽氏と汲部が結んでいることは明白じゃ。さらに、さっき市庭で狼藉を働いておった奴らは、汲部に出入りしていた者たちで間違いない。そうじゃな? ケン次」

 虎臥が視線をケン次郎へ向けると、

「間違いねぇッス。何度も見てますから」

 と、ケン次郎が即答する。

「さて、ここからじゃ」

 虎臥が皆を一瞥してから話を続ける。

「白昼、市の真ん中で狼藉を働こうなどという者が、ただの商人とは思われぬ。鳥羽氏と汲部を繋いでいると考えるのが道理であろう。では鳥羽氏とあの者たちの関係はどうじゃろう? 奴らは鳥羽氏の手下じゃろうか? 新之助」

 そう言って虎臥は、今度は新之助に視線を投げる。

「な、なんだよ」

 突然名指しされた新之助が狼狽ろうばいする。

「そなた、あの連中を京の塩座で見たと申したな?」

「あぁ、間違いねぇ。奴らだ」

「何故、京の塩座におったのじゃろう?」

「んなもん、俺が知るわけねぇだろうが」

「知るわけがないことくらいは、わらわにも分かっておる。何故じゃと思うか? と、訊いておるのじゃ」

「塩座にいたんだ、塩を売るか買うかしてたんだろうよ」

「若狭の者が京に塩を買いに行くじゃろうか?」

「なら売りに行ったんだろっ。塩なら汲部でも作ってるだろう。汲部の後ろ盾が鳥羽氏で間違いねぇってんなら、なんかしらの取引があって当然だろうが」

「新之助はこのように申しておるが、皆の考えはどうじゃろう?」

 虎臥は新之助に向けていた視線を外すと、いまの問答を聞いていた皆に視線を巡らせた。異論があれば申せと言うのだろう。

「鳥羽氏が後ろ盾となって汲部に肩入れしているとすれば理由はただ一つ。多烏と汲部を争わせて漁夫の利を得ることでしょう。そう考えると、掛かる労力は少ないに越したことはない。口利きの見返りを銭で要求すれば済む話で、なにも自らの手下どもを使って、塩を売りに行かせたりする必要はないはずです」

 苦労して稼ごうというつもりなど初めから頭にない連中だろう。自分の手足を動かすことはないはずだ。

「なるほどの。鶴姫様はどう思われるじゃろうか?」

「次郎大夫殿が申したことに同意です」

「ふむ、新之助は劣勢じゃの」

 腕組みをして、わざとらしくため息をついてみせる虎臥。

「お、おい、別に俺の考えってわけじゃねぇからな? 話の流れからでた一つの可能性だからな?」

 と、いつの間にか劣勢に立たされてしまった新之助が、弁明を始める。
 機転が利き、弁が立つという点では、新之助も虎臥に劣らない。ただ今回は、虎臥の不意打ちに翻弄ほんろうされっぱなしだ。そして虎臥の次の言葉が、さらに皆を翻弄する。

「わらわは新之助の考えをす」

 ――えぇっ!

 虎臥の新之助擁護発言に一同、異口同音に驚きの声を上げる。
 二人と付き合いの長い自分はもちろんだが、今日初めて新之助に会った鶴姫とケン次郎も同じの反応だったのが少し面白かった。それだけ誰が見ても、この二人の関係は水と油なのだろう。

「労を掛けずに利を得ようとしている。その点ではわらわも同意じゃ。しかしどうじゃろう? ひと手間掛けることで、得られる利が大きく増すとなれば、そんな奴らの考えも変わるのではないじゃろうか?」

「自分たちで塩を売りに行くことが、そのひと手間ということか?」

 京で値が高騰していた時期と重なる。どう嗅ぎつけたかは分からないが、瓜生の我らがそれで儲けたのだから、鳥羽の者たちが気付いたとしても不思議はない。

「そういうことか。汲部にしてみりゃあ、網場の独占だけでなく塩でも儲けが増えるとなれば、結託しようという話にもなるってわけだ」

 虎臥によって劣勢に立たされていた新之助も話に乗っかる。しかし虎臥は、さらにその先の筋書きを描いていた。

「それだけではないぞ。ほれっ、新之助も申しておったではないか。多烏で起きている騒動が、京の騒動とも関係しておるかもしれぬ、と」

「まさかっ!? トラは塩の値を動かしたのが奴らだと申すのか?」

「通らぬかの?」

「それは……」

 通らぬかと問われれば、通らぬと言い切ることはできない。
 異論が上がらぬことを確かめると、虎臥は話を続けた。

「考えておっても答えは出んじゃろう。可能性の話をしておるのじゃからな。奴らの後を追って確かめてみればよい。まだそう遠くまでは行っておらぬじゃろう。新之助は大役をおおせつかっておるから、この機を逃す手はないじゃろ?」

「なぬっ!?」

 新之助の声が裏返る。

「わらわは鶴姫様と多烏へ向かう。新之助はしっかりとお役目を果たすのじゃぞ」

 下手に大役を背負っているなどと口にしてしまった手前、こう言われてしまうと新之助も反論できない。口をパクパクさせているが、言葉は出てこなかった。

「それならば俺も新之助と共に参ろう。トラがこのまま多烏へ向かうのなら、俺は一旦村へ戻って事情を説明してこないとな」

 前回多烏へ向かった時も、事前になにも伝えていなかったために随分と心配をかけてしまった。

「父上母上には要らぬ心配はせぬように、と」

「トラが要らぬ心配をさせないようにすれば済む話だろう」

 どう説明すべきかと考えてみたが、光見も福子も、虎臥のことだから然もありなんと納得するかもしれない。

「えっ、おい、次郎? 本気で行くのかよぉ」

 牛太が立ち上がると、終始虎臥に手玉に取られていた新之助が、情けない声をあげた。
 虎臥相手でなければ、これほど一方的にやり込められることはないはずだが、新之助が虎臥に勝てないのは、もはや相性が悪いという以外ない気がした。
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