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花散らし
必然
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「またかよ。なんで俺ばっかりこんな目に…」
何故俺が病室にいるかと言うと…
それは数時間前に遡る
「いらっしゃいませ。何名様でご御来店でしょうか?」
(本当に嫌になる)
今日だけで、何度この言葉を口にしただろうか。
(見たらわかるだろ…1人だよ。)
そう言いたげな冴えない顔をしたサラリーマンを尻目に、俺は席へ案内した。
今日は8連勤目。高校二年生にしてはハードスケジュールだ。
桜は満開に咲き、近くの公園では花見客が溢れていることから、暇だと思われた4月上旬。
何故こんなにも忙しいかと聞かれたら、理由が1つ思い浮かぶ。店長が作った新メニューのおかげに違いない。
昨今の不況に煽られ、俺が働いているこのレストラン【エターナル】は客足は遠のき、閑古鳥が鳴いていたほどだった。
そんな最中、この状況を鑑みた店長の起死回生の一手が、今も尚厨房を忙しくさせているメニューだ。
【花弁の舞】
まるで何かの技のような名前だが、これが売れに売れている。一応パンケーキだ。
生地に桜の花の粉末を練り混んでいて味も良く。そして、見た目は何層にも重なっており。
SNS映えするような桜の花びらが、これでもかというくらいあしらわれてる。
連日店内からシャッター音が鳴り止まない。
カロリーを知ったらすぐにでも音が止むだろう。
そんなこともあり、俺はとても疲弊していた。店が賑わうのはとても良い事だが、少しはこっちの身も考えて欲しい。
高校入学を機に、親元を離れ一人暮らしを始めたものの。
「生活費は自分で稼げ。それなら一人暮らしを許してやる。」
そこまで言われたら死ぬ気で働くしかない。
夢の一人暮らしも労働に押しつぶされ、寝ては起きるだけの箱と化していた。
入学して1年経ち、友達もそこそこに作れたし、バイトのない日は、ゲーム三昧。
バイト以外はとても幸せだった。
「これで彼女がいたら人生桜色なんだけどなぁ」
【花弁の舞】を運びながらボソッと呟いた俺は、傍から見たらさぞかし、気持ち悪かっただろう。
そんな妄想にフケていた矢先。
まるでドミノ倒しの様に災難が降り掛かってきた。
「ままぁ!これ可愛い!持って帰りたい!」
「持って帰れるか聞いてみるね?すみません!」
女性が椅子から身を少し乗り出し、手を挙げた瞬間。 俺とぶつかった。
【花弁の舞】を落とさぬよう頑張ってバランスをとってみたが、それも虚しく花弁は宙を舞った。
生クリームは時に凶器になると、推理小説でもサスペンス映画でも教えてくれなかった。
足元に落ちたそれに足を取られ俺も宙を待った。
目が覚めるとそこは病院。時刻は二十時。
横には笑っている店長が座っていた。
「大丈夫か?紫苑?お前はほんとにドジだなあ!」
誰が作った凶器のせいでこうなっているか…
このおっさんは理解しているのだろうか。
「いやぁ…俺ってホントに昔から怪我とか多くて、もう慣れっこっすよ。」
痛みを顔に引き攣らせながら、俺は笑みを浮かべた。
「親御さんたちにも一応連絡はしといたからな!ちなみに骨折してるから、1ヶ月は病院だそうだ!じゃまた1ヶ月後。」
そう言い残して店長は病室を去っていった。
翌日担当の先生と検査したところ、全治2ヶ月で右腕を骨折していた。
後遺症が残ることはないそうだが、当分は松葉杖が必須になってくる。
「いやぁ幸運だね。パンケーキがクッションになって酷いことにはならなかったらしいよ。」
この人はそのパンケーキが原因だとは考えもしなかったらしい。
その後詳しい1ヶ月予定などを話し合った。
「ちなみにご両親は来られないのかな?」
その質問の返答にはとても困った。
親父は、自分で一から会社を立ち上げ、その界隈では新進気鋭として知られているらしい。
家には帰って来ず、仕事に没頭していた。
幼い頃は常にどこの誰かかもわからない女性が家にいてくれた。今思えば親父の秘書だったのかもしれない。
母親は俺が幼い時。既に死んだと聞かされていて、居ないようなもんだった。
そんな愛もないような、家から逃げ出してきた俺に、今更心配の連絡などよこすわけないのだ。
案の定連絡はきていない。
「両親は忙しいんで、多分来ないっすね。とりあえず1ヶ月お世話になります。」
愛想笑いを浮かべた俺に対して、先生は見て見ぬふりをした。
松葉杖を突きながらではあるが心は踊っていた。いつもと違う環境。バイトを休める優越感。全てが楽しむ要素だった。
自分の病室に戻る途中、まるで遠足の前日かのようにワクワクしていた。
その感情がトキメキに変わったのは直ぐだった。
ふと窓から外に目をやると。そこには、桜のはなびらを纏う女の子がいた。
その子の周りだけ何故か空気が違うような気もした。
「あぁ、これが一目惚れってやつか…店長とパンケーキに感謝しないと。」
それが彼女との出会いだった。
何故俺が病室にいるかと言うと…
それは数時間前に遡る
「いらっしゃいませ。何名様でご御来店でしょうか?」
(本当に嫌になる)
今日だけで、何度この言葉を口にしただろうか。
(見たらわかるだろ…1人だよ。)
そう言いたげな冴えない顔をしたサラリーマンを尻目に、俺は席へ案内した。
今日は8連勤目。高校二年生にしてはハードスケジュールだ。
桜は満開に咲き、近くの公園では花見客が溢れていることから、暇だと思われた4月上旬。
何故こんなにも忙しいかと聞かれたら、理由が1つ思い浮かぶ。店長が作った新メニューのおかげに違いない。
昨今の不況に煽られ、俺が働いているこのレストラン【エターナル】は客足は遠のき、閑古鳥が鳴いていたほどだった。
そんな最中、この状況を鑑みた店長の起死回生の一手が、今も尚厨房を忙しくさせているメニューだ。
【花弁の舞】
まるで何かの技のような名前だが、これが売れに売れている。一応パンケーキだ。
生地に桜の花の粉末を練り混んでいて味も良く。そして、見た目は何層にも重なっており。
SNS映えするような桜の花びらが、これでもかというくらいあしらわれてる。
連日店内からシャッター音が鳴り止まない。
カロリーを知ったらすぐにでも音が止むだろう。
そんなこともあり、俺はとても疲弊していた。店が賑わうのはとても良い事だが、少しはこっちの身も考えて欲しい。
高校入学を機に、親元を離れ一人暮らしを始めたものの。
「生活費は自分で稼げ。それなら一人暮らしを許してやる。」
そこまで言われたら死ぬ気で働くしかない。
夢の一人暮らしも労働に押しつぶされ、寝ては起きるだけの箱と化していた。
入学して1年経ち、友達もそこそこに作れたし、バイトのない日は、ゲーム三昧。
バイト以外はとても幸せだった。
「これで彼女がいたら人生桜色なんだけどなぁ」
【花弁の舞】を運びながらボソッと呟いた俺は、傍から見たらさぞかし、気持ち悪かっただろう。
そんな妄想にフケていた矢先。
まるでドミノ倒しの様に災難が降り掛かってきた。
「ままぁ!これ可愛い!持って帰りたい!」
「持って帰れるか聞いてみるね?すみません!」
女性が椅子から身を少し乗り出し、手を挙げた瞬間。 俺とぶつかった。
【花弁の舞】を落とさぬよう頑張ってバランスをとってみたが、それも虚しく花弁は宙を舞った。
生クリームは時に凶器になると、推理小説でもサスペンス映画でも教えてくれなかった。
足元に落ちたそれに足を取られ俺も宙を待った。
目が覚めるとそこは病院。時刻は二十時。
横には笑っている店長が座っていた。
「大丈夫か?紫苑?お前はほんとにドジだなあ!」
誰が作った凶器のせいでこうなっているか…
このおっさんは理解しているのだろうか。
「いやぁ…俺ってホントに昔から怪我とか多くて、もう慣れっこっすよ。」
痛みを顔に引き攣らせながら、俺は笑みを浮かべた。
「親御さんたちにも一応連絡はしといたからな!ちなみに骨折してるから、1ヶ月は病院だそうだ!じゃまた1ヶ月後。」
そう言い残して店長は病室を去っていった。
翌日担当の先生と検査したところ、全治2ヶ月で右腕を骨折していた。
後遺症が残ることはないそうだが、当分は松葉杖が必須になってくる。
「いやぁ幸運だね。パンケーキがクッションになって酷いことにはならなかったらしいよ。」
この人はそのパンケーキが原因だとは考えもしなかったらしい。
その後詳しい1ヶ月予定などを話し合った。
「ちなみにご両親は来られないのかな?」
その質問の返答にはとても困った。
親父は、自分で一から会社を立ち上げ、その界隈では新進気鋭として知られているらしい。
家には帰って来ず、仕事に没頭していた。
幼い頃は常にどこの誰かかもわからない女性が家にいてくれた。今思えば親父の秘書だったのかもしれない。
母親は俺が幼い時。既に死んだと聞かされていて、居ないようなもんだった。
そんな愛もないような、家から逃げ出してきた俺に、今更心配の連絡などよこすわけないのだ。
案の定連絡はきていない。
「両親は忙しいんで、多分来ないっすね。とりあえず1ヶ月お世話になります。」
愛想笑いを浮かべた俺に対して、先生は見て見ぬふりをした。
松葉杖を突きながらではあるが心は踊っていた。いつもと違う環境。バイトを休める優越感。全てが楽しむ要素だった。
自分の病室に戻る途中、まるで遠足の前日かのようにワクワクしていた。
その感情がトキメキに変わったのは直ぐだった。
ふと窓から外に目をやると。そこには、桜のはなびらを纏う女の子がいた。
その子の周りだけ何故か空気が違うような気もした。
「あぁ、これが一目惚れってやつか…店長とパンケーキに感謝しないと。」
それが彼女との出会いだった。
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