新型栄養失調の魔女は、身体を掻きました。

そとねこ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

新型栄養失調の魔女は、身体を掻きました。

しおりを挟む

ある国の王女様は、魔女でした。

でも、誰も気にしませんでした。
それは、
国民も皆、むかしは、魔女だったからです。


ある日、王女は、王宮の窓辺に立って、
身体を掻いていました。

「わたし、かゆいわ。」
ボリ、ボリ。

お肉嫌いの王女は、
皮膚の組織が、スカスカだったのです。

ボリ、ボリ、ボリ。

――――――――――――――――――――――――――――

王女様は、お肉を食べませんでした。

タンパク質不足のために、
王女の内臓や脳は、スカスカになっていました。

だから、王女の脳を、不安が襲います。

私たちのご先祖様は、トカゲだったのです。

トカゲのご先祖様は、すぐに不安を忘れました。
走って、右と左を見たら、忘れることができました。

でも、
王女は、忘れることができません。

原初の不安が、襲い続けました。

ふつうは、脳が、無意味な不安をキャンセルするのですが、
王女の脳は、すでに衰えていました。

――――――――――――――――――――――――――――

「なんて醜い世界なのかしら。」

不安は、世界を解釈する。

王女様は、いつも憂鬱でした。

――――――――――――――――――――――――――――

王女様は、ものを考えることも嫌いでした。

脳機能が低下しているので、
最初に思いついたことが、
最終結論です。

自分が思いついたことに、違和感を感じるには、
高い脳機能を要します。

――――――――――――――――――――――――――――

王女は、
「私には、博愛・正義の精神がある」と、
しばしば、口にしました。

実際にそうでした、
王女の脳内には、さまざなな断片が浮遊しています。

それらは、集められ、語られ、
投げ捨てられ。

――――――――――――――――――――――――――――

「私、子どもの頃に帰りたいわ。」
楽しかった、少女時代。

しかし、それも、生理が始まり、
血液とともに、タンパク質と鉄分は、流れ落ちるとともに、

楽しかったはずの毎日は、
イライラする毎日へと、変わってゆきました。

――――――――――――――――――――――――――――

厚生局の役人が、新しい献立を持ってきました。
「王女様、素晴らしい献立を、お持ちしました。」

「わたし、こんなのは嫌だわ。」

役人は、首をちょん切られてしまいました。

――――――――――――――――――――――――――――

王様は、すでに首をチョン切られて、
お庭に、埋められていました。
王様は必要なかったのです。


女王様は、ここには出てきません。
あまりにも、遍(あまね)き存在であったために、
いったい何なのか、誰にも理解できなかったのです。
孤独な、女王様。


王子は、遠い外国で、
居酒屋の前の溝に、転がっていました。

王子にとって、
自分しか意味がありませんでした。

でも、世界が無意味になってゆくにつれ、
王子には、自分自身も無意味になってゆきました。

何故かしら?

王子によって意味が付与されていた、この世界。
その世界の豊穣が、今は失われていました。


――――――――――――――――――――――――――――

「わたし、悲しいわ。」

王女様は、美味しいパンを抱き、
からだを掻きました。

ポリ、ポリ、ポリ。

(お終い)


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

世にも奇妙な日本昔話

佐野絹恵(サノキヌエ)
児童書・童話
昔々ある所に お爺さんと お婆さんが住んでいました お婆さんは川に洗濯物へ お爺さんは山へ竹取りへ 竹取り? お婆さんが川で 洗濯物をしていると 巨大な亀が泳いで来ました ??? ━━━━━━━━━━━━━━━ 貴方の知っている日本昔話とは 異なる話 ミステリーコメディ小説

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

処理中です...