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新型栄養失調の魔女は、身体を掻きました。
しおりを挟むある国の王女様は、魔女でした。
でも、誰も気にしませんでした。
それは、
国民も皆、むかしは、魔女だったからです。
ある日、王女は、王宮の窓辺に立って、
身体を掻いていました。
「わたし、かゆいわ。」
ボリ、ボリ。
お肉嫌いの王女は、
皮膚の組織が、スカスカだったのです。
ボリ、ボリ、ボリ。
――――――――――――――――――――――――――――
王女様は、お肉を食べませんでした。
タンパク質不足のために、
王女の内臓や脳は、スカスカになっていました。
だから、王女の脳を、不安が襲います。
私たちのご先祖様は、トカゲだったのです。
トカゲのご先祖様は、すぐに不安を忘れました。
走って、右と左を見たら、忘れることができました。
でも、
王女は、忘れることができません。
原初の不安が、襲い続けました。
ふつうは、脳が、無意味な不安をキャンセルするのですが、
王女の脳は、すでに衰えていました。
――――――――――――――――――――――――――――
「なんて醜い世界なのかしら。」
不安は、世界を解釈する。
王女様は、いつも憂鬱でした。
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王女様は、ものを考えることも嫌いでした。
脳機能が低下しているので、
最初に思いついたことが、
最終結論です。
自分が思いついたことに、違和感を感じるには、
高い脳機能を要します。
――――――――――――――――――――――――――――
王女は、
「私には、博愛・正義の精神がある」と、
しばしば、口にしました。
実際にそうでした、
王女の脳内には、さまざなな断片が浮遊しています。
それらは、集められ、語られ、
投げ捨てられ。
――――――――――――――――――――――――――――
「私、子どもの頃に帰りたいわ。」
楽しかった、少女時代。
しかし、それも、生理が始まり、
血液とともに、タンパク質と鉄分は、流れ落ちるとともに、
楽しかったはずの毎日は、
イライラする毎日へと、変わってゆきました。
――――――――――――――――――――――――――――
厚生局の役人が、新しい献立を持ってきました。
「王女様、素晴らしい献立を、お持ちしました。」
「わたし、こんなのは嫌だわ。」
役人は、首をちょん切られてしまいました。
――――――――――――――――――――――――――――
王様は、すでに首をチョン切られて、
お庭に、埋められていました。
王様は必要なかったのです。
女王様は、ここには出てきません。
あまりにも、遍(あまね)き存在であったために、
いったい何なのか、誰にも理解できなかったのです。
孤独な、女王様。
王子は、遠い外国で、
居酒屋の前の溝に、転がっていました。
王子にとって、
自分しか意味がありませんでした。
でも、世界が無意味になってゆくにつれ、
王子には、自分自身も無意味になってゆきました。
何故かしら?
王子によって意味が付与されていた、この世界。
その世界の豊穣が、今は失われていました。
――――――――――――――――――――――――――――
「わたし、悲しいわ。」
王女様は、美味しいパンを抱き、
からだを掻きました。
ポリ、ポリ、ポリ。
(お終い)
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