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「……いつ、行かれるのですか?」
「三日後だ。飛行訓練所に行って、まず飛行訓練から始めることになっている。駅までは軍用車両が迎えに来て連れて行ってくれるらしい」
「そう……ですか……」
「もともと、私は軍人志望だ。女でも、第二国民兵でも、丙種合格しただけでも喜ばしいと思っている。背丈も男性に負けないし、剣術もあらかた習った。鉄砲の扱いと飛行機の乗り方も学べば、陸軍として国の役に立てるだろう」
抱き寄せられる昭の身体越しに視界に入る赤い紙。まるで空襲を受けた真っ赤な街を連想させるようで、気持ちが悪い。
「昭、さま……」
「なんだい?」
(今、言わなければ……)
「私は、昭さまが好きです」
話すことで、この気持ち悪い空気を言葉と一緒に吐き出してしまおうと思った。
「……たえ、子?」
「姉のようにも、お慕い申しております。ただ、それだけではないと気づいたのです……これが、恋愛感情だと自覚しているのです」
もしこれで嫌われても、悔いのないように。握りしめる指に、力を込めた。
「昭さまを女性として、その上で恋愛対象として見ているのです。本当は、改名される前の名前で呼びたいのです」
「…………」
「私も、埼玉の山奥に疎開するように通達が来ました。町の人が東京は危険だと……次々に出て行きましたから。昭さまに一緒に行って欲しかったのですが、これで叶わないと分かってしまいました」
「……そう、だな」
「気持ち悪い、ですよね。女同士で、など……」
「何故? 昔の将軍なんて衆道だらけだと聞いたことがある。恋愛は自由だ」
「しかし、私めなんかが――んっ!」
昭はたえ子の頬を両手で包み、唇を重ねた。はらはらと溢れた雫を両方の親指で拭い、たえ子の唇をまるで食べているように何度も啄む。
「っは……昭……さま?」
「これが答えだと言ったら?」
「え……でも……そんなはず……」
「たえ子が好意を向けてくれていたのは、出会ってすぐに気付いた。最初は気の所為かとも思ったが、頭を撫でても手を触っても嫌な顔ひとつせず頬を赤らめて見てくるものだから、段々確信していった。あぁ、この子は私のことが好きなんだ、と」
気づかれていたことに、たえ子の顔が真っ赤に染まる。頭の中でサイレンが響き、空襲警報と錯聴した。好きになっては駄目だと言うサイレンなのか、離れては駄目だと言うサイレンなのか。昭の腕の中で、脳が混乱する。
「昭さま、」
「なんだい?」
「空襲警報、鳴ってませんか?」
「今は鳴ってないよ」
「そうですか……昭さま」
「今度はなんだい?」
「しばらく、このままでいいですか?」
「いいよ、いつまでも抱きしめていよう」
たえ子の震える声に、昭が優しく返せば、昭の陸軍の制服を色が変わるほどたえ子の涙で濡らし、くぐもった声が漏れた。
「三日後だ。飛行訓練所に行って、まず飛行訓練から始めることになっている。駅までは軍用車両が迎えに来て連れて行ってくれるらしい」
「そう……ですか……」
「もともと、私は軍人志望だ。女でも、第二国民兵でも、丙種合格しただけでも喜ばしいと思っている。背丈も男性に負けないし、剣術もあらかた習った。鉄砲の扱いと飛行機の乗り方も学べば、陸軍として国の役に立てるだろう」
抱き寄せられる昭の身体越しに視界に入る赤い紙。まるで空襲を受けた真っ赤な街を連想させるようで、気持ちが悪い。
「昭、さま……」
「なんだい?」
(今、言わなければ……)
「私は、昭さまが好きです」
話すことで、この気持ち悪い空気を言葉と一緒に吐き出してしまおうと思った。
「……たえ、子?」
「姉のようにも、お慕い申しております。ただ、それだけではないと気づいたのです……これが、恋愛感情だと自覚しているのです」
もしこれで嫌われても、悔いのないように。握りしめる指に、力を込めた。
「昭さまを女性として、その上で恋愛対象として見ているのです。本当は、改名される前の名前で呼びたいのです」
「…………」
「私も、埼玉の山奥に疎開するように通達が来ました。町の人が東京は危険だと……次々に出て行きましたから。昭さまに一緒に行って欲しかったのですが、これで叶わないと分かってしまいました」
「……そう、だな」
「気持ち悪い、ですよね。女同士で、など……」
「何故? 昔の将軍なんて衆道だらけだと聞いたことがある。恋愛は自由だ」
「しかし、私めなんかが――んっ!」
昭はたえ子の頬を両手で包み、唇を重ねた。はらはらと溢れた雫を両方の親指で拭い、たえ子の唇をまるで食べているように何度も啄む。
「っは……昭……さま?」
「これが答えだと言ったら?」
「え……でも……そんなはず……」
「たえ子が好意を向けてくれていたのは、出会ってすぐに気付いた。最初は気の所為かとも思ったが、頭を撫でても手を触っても嫌な顔ひとつせず頬を赤らめて見てくるものだから、段々確信していった。あぁ、この子は私のことが好きなんだ、と」
気づかれていたことに、たえ子の顔が真っ赤に染まる。頭の中でサイレンが響き、空襲警報と錯聴した。好きになっては駄目だと言うサイレンなのか、離れては駄目だと言うサイレンなのか。昭の腕の中で、脳が混乱する。
「昭さま、」
「なんだい?」
「空襲警報、鳴ってませんか?」
「今は鳴ってないよ」
「そうですか……昭さま」
「今度はなんだい?」
「しばらく、このままでいいですか?」
「いいよ、いつまでも抱きしめていよう」
たえ子の震える声に、昭が優しく返せば、昭の陸軍の制服を色が変わるほどたえ子の涙で濡らし、くぐもった声が漏れた。
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