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第1話
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三島弘樹がコスプレ、とりわけ女装に目覚めたのは高校生の時。文化祭でクラスの出し物として女装メイド・男装執事喫茶をすることになり、産まれた時から女の子と言われ続けた顔の弘樹が女装することになった。
それまでメイクすらしたことのない弘樹はクラスの女子のメイク道具で変わる、自分と全く違う姿に釘付けになった。もちろん喫茶店は大成功に終わり、自分が売り物になると弘樹が気付いた瞬間だった。女装のワードで検索すれば、ごついオネエからガチの美少女まで色んな画像が出てくる。これだ、と確信した。
高校を卒業したあと、弘樹は大学に行きながらSNSに女装写真を載せ始めた。最初はノーメイクにトップスとスカートだけで誰にも見られず埋もれていたが、段々上達するメイクやファッションにフォロワーが増え始めた。
そんな時、フォロワーの一人が悪魔の囁きを呟いたのだ。
――みひろさん、コミケ出ないんですか?――と。
まず弘樹は言葉しか知らなかったその同人誌即売会のことを調べた。自分で作った本やグッズを売ったり(正確には頒布と言うのも理解した)、コスプレをしたりする場なのはすぐ分かった。申し込み方法が少し複雑だったのも段々分かった。
理解すると、やはり参加したくなる。弘樹は人前に出る決心をしたのだ。男でも着れる女性もののコスプレ衣装を集め、化粧の特訓をして、近場の小さなコスプレイベントに参加したりした。
そして、とうとうコミケ初参加の日。ハンドルネームとSNSのIDを書いたスケッチブックを持ってセーラー服姿でコスプレ広場に出た弘樹に写真を頼む人は、
――――いなかった。
(……は? いや、なんで?)
高校でも、SNSでも、弘樹の女装に嫌という程の賛辞が飛んでいた。それに対するアンチのコメントもあったが、弘樹は自信に溢れていた。それが、崩された。
広いコスプレエリアをウロウロしながら、大勢のカメラマンに囲まれる有名レイヤーを遠目に見た。日陰に座り、水分補給の為に清涼飲料水をがぶ飲みする。
有名特撮ドラマのヒーロースーツの団体(併せと言うのを弘樹はあとで知った)がかっこいい決めポーズをしていたり、際どい衣装の女性レイヤーは地面から股間や谷間を狙うレンズにも笑顔を向けてポーズを取っていることに気付いた。
――あそこまでするのか……。
ただ化粧をして服を着ただけ、の自分が霞んだ。もっと撮って貰えるような工夫をしなければ、そう反省して立ち上がろうとした時だった。
「すみません、撮らせて頂けますか?」
「へっ?」
頭上から掛けられた声に、裏返った声をあげてビクリと肩を震わせた。
「あ、お休み中に驚かせてすみません。写真、いいですか?」
「あっ、はい! 俺こそすみません!」
腰の低い男性に慌てて立ち上がり、弘樹は頭を下げる。途端、男は目を丸くした。
「え、あ、すみません。男の人だったんですね」
「……え? ……あ、女装は嫌でしたか?」
「いえ、あまりにも可愛かったので、声を聞くまで分かりませんでした」
男は苦笑しながら、しかし歪みなく真っ直ぐ伝えてくるので弘樹は真っ赤になって固まった。
「あ……りがとう、ございます……」
「いえ! 改めて、写真いいですか?」
「はい……!」
スケッチブックを胸元に掲げて、弘樹ははにかんだ。
――それが、弘樹と玉山の出会いだった。
それまでメイクすらしたことのない弘樹はクラスの女子のメイク道具で変わる、自分と全く違う姿に釘付けになった。もちろん喫茶店は大成功に終わり、自分が売り物になると弘樹が気付いた瞬間だった。女装のワードで検索すれば、ごついオネエからガチの美少女まで色んな画像が出てくる。これだ、と確信した。
高校を卒業したあと、弘樹は大学に行きながらSNSに女装写真を載せ始めた。最初はノーメイクにトップスとスカートだけで誰にも見られず埋もれていたが、段々上達するメイクやファッションにフォロワーが増え始めた。
そんな時、フォロワーの一人が悪魔の囁きを呟いたのだ。
――みひろさん、コミケ出ないんですか?――と。
まず弘樹は言葉しか知らなかったその同人誌即売会のことを調べた。自分で作った本やグッズを売ったり(正確には頒布と言うのも理解した)、コスプレをしたりする場なのはすぐ分かった。申し込み方法が少し複雑だったのも段々分かった。
理解すると、やはり参加したくなる。弘樹は人前に出る決心をしたのだ。男でも着れる女性もののコスプレ衣装を集め、化粧の特訓をして、近場の小さなコスプレイベントに参加したりした。
そして、とうとうコミケ初参加の日。ハンドルネームとSNSのIDを書いたスケッチブックを持ってセーラー服姿でコスプレ広場に出た弘樹に写真を頼む人は、
――――いなかった。
(……は? いや、なんで?)
高校でも、SNSでも、弘樹の女装に嫌という程の賛辞が飛んでいた。それに対するアンチのコメントもあったが、弘樹は自信に溢れていた。それが、崩された。
広いコスプレエリアをウロウロしながら、大勢のカメラマンに囲まれる有名レイヤーを遠目に見た。日陰に座り、水分補給の為に清涼飲料水をがぶ飲みする。
有名特撮ドラマのヒーロースーツの団体(併せと言うのを弘樹はあとで知った)がかっこいい決めポーズをしていたり、際どい衣装の女性レイヤーは地面から股間や谷間を狙うレンズにも笑顔を向けてポーズを取っていることに気付いた。
――あそこまでするのか……。
ただ化粧をして服を着ただけ、の自分が霞んだ。もっと撮って貰えるような工夫をしなければ、そう反省して立ち上がろうとした時だった。
「すみません、撮らせて頂けますか?」
「へっ?」
頭上から掛けられた声に、裏返った声をあげてビクリと肩を震わせた。
「あ、お休み中に驚かせてすみません。写真、いいですか?」
「あっ、はい! 俺こそすみません!」
腰の低い男性に慌てて立ち上がり、弘樹は頭を下げる。途端、男は目を丸くした。
「え、あ、すみません。男の人だったんですね」
「……え? ……あ、女装は嫌でしたか?」
「いえ、あまりにも可愛かったので、声を聞くまで分かりませんでした」
男は苦笑しながら、しかし歪みなく真っ直ぐ伝えてくるので弘樹は真っ赤になって固まった。
「あ……りがとう、ございます……」
「いえ! 改めて、写真いいですか?」
「はい……!」
スケッチブックを胸元に掲げて、弘樹ははにかんだ。
――それが、弘樹と玉山の出会いだった。
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