生まれ変わりの恋の果て ~瑞花双鳥(ずいかそうちょう)~

国樹田 樹

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明日香と墨

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「っんもー! いい加減に! しろおっ!」

 がばっと布団から飛び起きながら、あたしは第一声そう叫んだ。

「毎回毎回! 同じ夢ばっかり見させてからに! いい加減飽きるっつーの! せめて続きにするか過去編を見せんかい過去編をっ!」

 でもって、ドラマの次回予告に文句を言うみたいに、盛大にぶう垂れてみる。

 ぼっすぼっすと掛け布団に拳を叩き込みながら、消化不良な夢に対しての鬱憤をぶつけていた。

 そんな中、ノックの音もせずに部屋の扉がガチャリと開く。

「っちょ……!」

 声を上げた瞬間、扉からひょいっと涼しげな顔が覗いた。
 黒目の多い切れ長の瞳に、くっきりした鼻筋は昔から見慣れたもの。

「おい明日香(あすか)。お前、今何時だと思ってんだ?」

「は? 何時って……っぎゃあああっ!?」

 突然顔を出した幼馴染み、墨(すみ)に指摘されて時計を見上げたら、時刻は八時半を差していた。

 うん。考えなくとも遅刻寸前である。

 あたしの悲鳴を聞いて両耳をさっと押さえた墨はと言えば、既に制服を着込んで準備万端だった。真っ黒な髪と臙脂色のブレザーが、ポスターでよく見る学生服モデルみたいだ。
 顔が良いのが余計に癪に障ると付け加えておく。

 あれ……そういえばコイツも黒髪黒目だな。

 名は体を表すと言うが、墨は名字ではなく名である。髪と瞳、名前まで黒だったのだと、幼馴染みだというのに今更気付いた。生まれてこのかた十六年、見慣れているはずなのに。

「朝っぱらから五月蠅ぇなお前は!」

 ふと夢の男を思い出しそうになったところで、ぴしゃりと怒られ思考が途絶えた。
 代わりに、焦ったテンションと一緒に怒りが込み上げる。

「やかましいのはアンタの方よ! っていうか人の部屋入る時くらいノックしなさいよ墨の馬鹿ぁっ!」

「お前が起きないのが悪いんだろうがっ! 今日は博物館見学なんだから早くしろよっ! バス乗り遅れるだろ!」

「いいから出てってー!」

 悪態を付く墨を追い出しながら、あたしは慌てて布団から飛び出しクローゼットに向かった。

 ばんっと勢いよく開いてからスカートを履いてシャツを着て、肩に墨と同じブレザーを引っかけ階段を駆け下りる。腰まである髪は、バレッタで軽く留めておいた。

 一階のリビングでは、お母さんとお父さんがのんびり朝食タイムを過ごしていた。

「あらぁ~。明日香ったらお寝坊さんねぇ~」

「急ぐと怪我するよ。明日香」

「そうしないと遅刻なんだってばっ!」

 娘がばたついているというのに、二人は素知らぬ顔だ。

 わーんっ!
 二人とも在宅勤務だからって余裕ぶってー!

 誰もあたしの事起こしてくれないんだからあああっ!

 内心嘆きつつ、お母さんが出してくれたコーンスープをがぶ飲みする。

 お腹に何も入れずに行くと、午前中力が入らなくてふらふらしてしまうからだ。

 ……決してあたしが食い意地張っているわけでは無い。たぶん。

 そんなこんなで、現在八時三十六分。
 普段八時四十分に家を出ているのに、既に四分前である。

 いつも通りにメイクなんてしていたら、絶対に間に合わないので今日はノーメイクだ。
 鞄に下地とフェイスパウダーと色付きリップは入っているから、とりあえず学校に着いたら最低限だけしておこう。

 高校生が化粧なんて、とお母さんやお父さんには言われるけれど、昨今の女子はその程度やっていないと逆にハブられてしまうのである。

 というか、ハブられるのは別に良いんだけど、単純に可愛い自分でいたいからっていうのが理由だ。

 だってただでさえ平凡顔なのに。少しくらい見栄張りたいじゃない。
 幼馴染みの男が自分より見目が良いもんだから余計にね。

「おい! もう先に行くからなっ!」

「ああ、ま、待ってーっ!」

 玄関を出ようとしている墨を慌てて追いかけながら、あたしはお母さん達に行ってきますと叫んだ。

 墨と二人、ぎゃあぎゃあ言い合いながら通学路を駆けていく。

 たぶんぎりぎり間に合う。本当にぎりぎりだけど。

 それもこれも、最近あんな夢ばかり見るからだと、やっぱり夢に悪態をついた。
 十六歳を迎えたこの春から、あたしはどうしてかあの夢を繰り返し見ている。

 顔の見えない髪の長い女の人が、戦装束の男に殺される夢なんて、映画やドラマの世界じゃあるまいに。

 せめて違うシーンを見せてくれたらいいのに、夢だからかそれもままならず、まるで見るのが義務のように毎度毎度あの結末ばかりで。

 たまには、この前を走っている小憎らしい幼馴染みの顔でもいいのにな、なんて事を思った。

 だから。
 バタンと閉まった玄関扉の向こうでまさか、

「……ほんと毎朝、墨君ったら甲斐甲斐しいわねぇ。幼稚園の頃からだから、あの子がお迎えに来てくれるようになって、もう十四年目になるのかしら。よく続くわよねぇ。ねえ、お父さん?」

「ん、ああ……確かにな……」

 なんて会話が交わされているなんて、あたしは考えもしなかった。

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