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発覚! 嘘の出張!?
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「え? 有休取ってる……?」
言われた事が理解出来ずに、ぽかんとしたまま復唱した。
耳に聞こえるのは、就業時間となって少しざわついたロビーの雑音。
足早に帰宅を急く靴音や、アフターの予定を同僚だろう人と相談する話し声に反響音。
だけどあたしの耳には、今聞いたばかりの事実だけが、何度も木霊していた。
「うん。藤波さんなら昨日と今日に有休申請出してるわよ。もしかして知らなかったの?」
「……し、らない……」
元同僚であり、今現在は総務から会社の受付へと異動になった女性が、目の前のパソコンを操作しながら再び言う。
祥太郎さんは、今日『有給休暇』を取っているのだと。
……出張では無く。
今日の朝聞かされたばかりの、突然の出張ではなく、有休。
どういう、事……?
予想外の衝撃に頭がふっと白くなる。同時に、お腹の底がひんやりと冷たくなった気がした。
聞いてない。
聞いてないよ、祥太郎さん。
出張だって、今日は出張なんだって、言ってたじゃない……。
混乱する頭の中で考えたり記憶を思い返してみても、祥太郎さんの口からは出張以外の言葉は聞いていない。しかも今日告げて、今日出掛けたばかりなのに。
「結構前から申請してたみたいだけど、本当に聞いてないの?」
「うん……」
茫然自失状態のあたしを不思議に思ったのか、受付嬢ぶりも板についた彼女が画面を見つつ確認してくれた。
そっか……。
結構前から申請、してたんだ。
予定、決まってたって事だよね、それ。
あたしは一言も、聞いてないけど……。
足下が震えそうになるのを、やっとの思いで堪えながらぐっと歯を食い縛る。
元勤め先のロビーで、取り乱すわけにはいかないとなんとか耐えた。
「も、もしかしたらっ! 聞いたけど忘れちゃってたのかもっ! 実家行ってるのかもしんないから電話してみるっ」
「きっとそうだよー。咲良だし忘れてたんじゃない? 咲良だし」
「二回言わないでよっ」
あはは、と彼女は総務だった頃にはつけていなかったコーラルピンクの唇で笑ってくれた。
あたしもそれに合わせて、えへへ、と無理矢理な笑顔を作る。
だけど内心は、自分が言った言葉に反論を唱えていた。
実家なんて、無いからだ。
だって祥太郎さんには……家族がいない。
事故や病気で亡くなってしまって、天涯孤独なのだと、付き合っている時に聞いたもの。
だから彼が会っているのは……『家族』じゃない。
ありがとう、急にごめんねと教えてくれた彼女と、その隣の受付嬢の子に手を振りながら、あたしは脳内でお昼に交わした夕紀との会話を思い出していた。
あの人に限って、なんてそんな言葉。
まさか自分が言うことになるとは。
ねえ。
祥太郎さん。
きっと……。
きっと、違うよね……?
あたしは、ロビーを普段と同じ歩調で歩きながら、今にも溢れそうになる気持ちと、涙を耐えていた。
言われた事が理解出来ずに、ぽかんとしたまま復唱した。
耳に聞こえるのは、就業時間となって少しざわついたロビーの雑音。
足早に帰宅を急く靴音や、アフターの予定を同僚だろう人と相談する話し声に反響音。
だけどあたしの耳には、今聞いたばかりの事実だけが、何度も木霊していた。
「うん。藤波さんなら昨日と今日に有休申請出してるわよ。もしかして知らなかったの?」
「……し、らない……」
元同僚であり、今現在は総務から会社の受付へと異動になった女性が、目の前のパソコンを操作しながら再び言う。
祥太郎さんは、今日『有給休暇』を取っているのだと。
……出張では無く。
今日の朝聞かされたばかりの、突然の出張ではなく、有休。
どういう、事……?
予想外の衝撃に頭がふっと白くなる。同時に、お腹の底がひんやりと冷たくなった気がした。
聞いてない。
聞いてないよ、祥太郎さん。
出張だって、今日は出張なんだって、言ってたじゃない……。
混乱する頭の中で考えたり記憶を思い返してみても、祥太郎さんの口からは出張以外の言葉は聞いていない。しかも今日告げて、今日出掛けたばかりなのに。
「結構前から申請してたみたいだけど、本当に聞いてないの?」
「うん……」
茫然自失状態のあたしを不思議に思ったのか、受付嬢ぶりも板についた彼女が画面を見つつ確認してくれた。
そっか……。
結構前から申請、してたんだ。
予定、決まってたって事だよね、それ。
あたしは一言も、聞いてないけど……。
足下が震えそうになるのを、やっとの思いで堪えながらぐっと歯を食い縛る。
元勤め先のロビーで、取り乱すわけにはいかないとなんとか耐えた。
「も、もしかしたらっ! 聞いたけど忘れちゃってたのかもっ! 実家行ってるのかもしんないから電話してみるっ」
「きっとそうだよー。咲良だし忘れてたんじゃない? 咲良だし」
「二回言わないでよっ」
あはは、と彼女は総務だった頃にはつけていなかったコーラルピンクの唇で笑ってくれた。
あたしもそれに合わせて、えへへ、と無理矢理な笑顔を作る。
だけど内心は、自分が言った言葉に反論を唱えていた。
実家なんて、無いからだ。
だって祥太郎さんには……家族がいない。
事故や病気で亡くなってしまって、天涯孤独なのだと、付き合っている時に聞いたもの。
だから彼が会っているのは……『家族』じゃない。
ありがとう、急にごめんねと教えてくれた彼女と、その隣の受付嬢の子に手を振りながら、あたしは脳内でお昼に交わした夕紀との会話を思い出していた。
あの人に限って、なんてそんな言葉。
まさか自分が言うことになるとは。
ねえ。
祥太郎さん。
きっと……。
きっと、違うよね……?
あたしは、ロビーを普段と同じ歩調で歩きながら、今にも溢れそうになる気持ちと、涙を耐えていた。
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