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彼の懇願
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「君には、ここで俺と一週間過ごしてもらう。一週間だけで良い。それが過ぎた後は、たとえ俺を訴えてくれても構わない」
見たことも無いような場所で、部屋で。
彼はベッドの上で私をきつく抱き締めながら、言った。
犯罪まがい、ううん、もう完全に法に触れてるわ。
わけわかんないものを人に飲ませて、拉致、その上監禁しようってわけ?
訴えても構わないなんて、この人なら、女一人黙らせるくらいわけないでしょうに。
「何をお考えなんですか。貴方は。七年社長の秘書をしてきましたが、貴方がこんな事をなさる意味がわかりません。こんな強引なやり方までなさって。まさか、私程度の女を傍に置きたいとでもおっしゃるんですか」
状況的に、早く三嶋社長の腕から逃れたいのだけど、一向に解かれそうにないので、私は仕方なく話を続けた。
抱きしめる腕は力強く、触れたままの彼の熱にどうしても鼓動が早くなってしまうけれど、無理矢理仕事モードの自分で話をする。
「そうだと言ったら――……君に傍に居てほしいのだと言ったら、君はどうする?」
言われた台詞に、ドキリとする。
その声に、熱を感じた気がしたからだ。
これまで仕事で耳にした彼の声はあくまで淡々としていて、感情も見えず、ただ機械的に流れる音楽のように、変化が無かったから。
まさか、まさか本当に―――?
「社長……?」
言いながら、私は顔を上げようとした。
三嶋社長は、彼は今どんな顔をしているんだろう。目の前にあるのは彼の厚い胸板で、その表情を覗うことはできない。けれどそれを避けるように、彼の手が私の首の後ろに回り、顔を胸に押し付けられた。
「……仕事だと思ってくれていい。会社としてではなく、個人として君に居てもらいたい。了承してくれるなら、この一週間分の報酬を、以前の給料の二倍払おう。悪い話じゃないはずだ」
は……っ?
何……ソレ。
突然の提案に私のプライドが燃え上がった。私がお金で動くような女だと、そう思われていたのだろうか。
「・・・そういう女性をお探しでしたら、私以外にもっと相応しい方がいらっしゃると思いますが」
自分でも驚くほど冷たい声が出たと思う。
そのせいかはわからないけれど、彼の身体が強張ったように感じた。でもそれは一瞬で、すぐに答えが返ってくる。
「そうじゃない。そんな意味じゃない。あくまで仕事をしてもらう。報酬が二倍なのは出張費だとでも思ってくれればいい。実際、今居るのは簡単に帰れる場所じゃないしな」
・・・一体人をどこに拉致ってくれちゃってるのよアンタは。
そう文句を言いたかったけれどぐっと堪える。
そして気づいた。
恐らく、彼は私が了承しない限り、ここから帰してくれるつもりは無いのだろう。言葉の雰囲気からそれが読み取れた。簡単に帰れる場所じゃないということは、彼を通さなければ手段が無いということだ。連れてきたやり方にしても、ここまでやったのだから、答えはイエス以外選ばせるつもりはないのだろう。
伊達に、七年も秘書をしていたわけじゃない。
「……頼む」
考えを巡らせている私に、三嶋社長の声が降る。
まるで懇願するかのような声音に、また少し心が震えた。
無茶な要望。おかしいとしか言えないこの状況。だけど……少しだけ、急激な彼の変化に興味がわいた。どうせOKしなければ帰れないんだろうし……。
そして、私の心は決まった。
「わかりました。あくまで仕事のみということで一週間ここに居ます」
仕事のみ、という言葉を強調して、私は仕方なく了承した。
諦め交じりの私の言葉を聞いて、私を抱いていた彼の腕が緩められる。
ここぞとばかりに腕を突っ張り、即座に身体を離して起き上がった。
ばさっと、掛けられていたシーツを捲くり上げ、目の前の人を睨みつける。けれどその人の表情を見て、意外さに唖然としてしまった。
半分だけ起き上がった彼は、いつものジャケットを脱いだだけの、上は白いシャツにスラックスという格好だったけれど、なぜか困ったような、少し照れたような、そんな顔をしていた。
「ありがとう。本当に……」
そう言って、ふんわりと、目元に少し赤みを帯びて、三嶋社長が笑う。
何かを許されたような嬉しさと安堵が入り混じったその笑顔に、私の心の奥底が小さく、燻った気がした。
見たことも無いような場所で、部屋で。
彼はベッドの上で私をきつく抱き締めながら、言った。
犯罪まがい、ううん、もう完全に法に触れてるわ。
わけわかんないものを人に飲ませて、拉致、その上監禁しようってわけ?
訴えても構わないなんて、この人なら、女一人黙らせるくらいわけないでしょうに。
「何をお考えなんですか。貴方は。七年社長の秘書をしてきましたが、貴方がこんな事をなさる意味がわかりません。こんな強引なやり方までなさって。まさか、私程度の女を傍に置きたいとでもおっしゃるんですか」
状況的に、早く三嶋社長の腕から逃れたいのだけど、一向に解かれそうにないので、私は仕方なく話を続けた。
抱きしめる腕は力強く、触れたままの彼の熱にどうしても鼓動が早くなってしまうけれど、無理矢理仕事モードの自分で話をする。
「そうだと言ったら――……君に傍に居てほしいのだと言ったら、君はどうする?」
言われた台詞に、ドキリとする。
その声に、熱を感じた気がしたからだ。
これまで仕事で耳にした彼の声はあくまで淡々としていて、感情も見えず、ただ機械的に流れる音楽のように、変化が無かったから。
まさか、まさか本当に―――?
「社長……?」
言いながら、私は顔を上げようとした。
三嶋社長は、彼は今どんな顔をしているんだろう。目の前にあるのは彼の厚い胸板で、その表情を覗うことはできない。けれどそれを避けるように、彼の手が私の首の後ろに回り、顔を胸に押し付けられた。
「……仕事だと思ってくれていい。会社としてではなく、個人として君に居てもらいたい。了承してくれるなら、この一週間分の報酬を、以前の給料の二倍払おう。悪い話じゃないはずだ」
は……っ?
何……ソレ。
突然の提案に私のプライドが燃え上がった。私がお金で動くような女だと、そう思われていたのだろうか。
「・・・そういう女性をお探しでしたら、私以外にもっと相応しい方がいらっしゃると思いますが」
自分でも驚くほど冷たい声が出たと思う。
そのせいかはわからないけれど、彼の身体が強張ったように感じた。でもそれは一瞬で、すぐに答えが返ってくる。
「そうじゃない。そんな意味じゃない。あくまで仕事をしてもらう。報酬が二倍なのは出張費だとでも思ってくれればいい。実際、今居るのは簡単に帰れる場所じゃないしな」
・・・一体人をどこに拉致ってくれちゃってるのよアンタは。
そう文句を言いたかったけれどぐっと堪える。
そして気づいた。
恐らく、彼は私が了承しない限り、ここから帰してくれるつもりは無いのだろう。言葉の雰囲気からそれが読み取れた。簡単に帰れる場所じゃないということは、彼を通さなければ手段が無いということだ。連れてきたやり方にしても、ここまでやったのだから、答えはイエス以外選ばせるつもりはないのだろう。
伊達に、七年も秘書をしていたわけじゃない。
「……頼む」
考えを巡らせている私に、三嶋社長の声が降る。
まるで懇願するかのような声音に、また少し心が震えた。
無茶な要望。おかしいとしか言えないこの状況。だけど……少しだけ、急激な彼の変化に興味がわいた。どうせOKしなければ帰れないんだろうし……。
そして、私の心は決まった。
「わかりました。あくまで仕事のみということで一週間ここに居ます」
仕事のみ、という言葉を強調して、私は仕方なく了承した。
諦め交じりの私の言葉を聞いて、私を抱いていた彼の腕が緩められる。
ここぞとばかりに腕を突っ張り、即座に身体を離して起き上がった。
ばさっと、掛けられていたシーツを捲くり上げ、目の前の人を睨みつける。けれどその人の表情を見て、意外さに唖然としてしまった。
半分だけ起き上がった彼は、いつものジャケットを脱いだだけの、上は白いシャツにスラックスという格好だったけれど、なぜか困ったような、少し照れたような、そんな顔をしていた。
「ありがとう。本当に……」
そう言って、ふんわりと、目元に少し赤みを帯びて、三嶋社長が笑う。
何かを許されたような嬉しさと安堵が入り混じったその笑顔に、私の心の奥底が小さく、燻った気がした。
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