朝が来るまでキスをして。

月湖

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110 焦り side hikaru

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「そ? ついさっきまで一緒だったから匂い移ったのかなあ?」



内心の焦りを胸の中だけに封じ込め、無難な答えを返す。



確かに、あれだけしがみ付いて密着していれば匂いが付いたってなんら不思議じゃない。

・・・あの人がそれに気付いてたかは知らないけど。


バレるわけにはいかないんだ。

均衡を保っているとは言い難いけれど、綱渡りのように、それこそ自分の全てをかけて関係をもたせてるのだから。



本当の事なんて言えるわけないけど、念のため後で突っ込まれてもいいように、まるっきり嘘ではない事を言って濁そうと思った。

実際はちょっと一緒にいただけで匂いが移るとは思えないけど、でも


頼む!

これ以上突っ込まないでくれ・・っ


でも、そんな俺の願いは神には聞こえていなかったらしく、今度はスマホを閉じたカイが近付いてきて、くんくんと俺の匂いを嗅ぎだした。



「あー、ホントだ。葛城さんの香水だね。結構ついてる。なんで?抱き合いでもした?(笑)」



「そんなわけねえだろ(笑)」



面白そうに見てくる顔が裏で何かを考えているように見えるのは、自分の後ろめたさがそうさせるのか。



「でもこんなについてるってさ、なんかあった?リーダーと」



朔也は心配気に訊いてくる。



「別になんも無いけど」



顔では平静を保ちながらも、手の中は汗で濡れていた。



「リーダーたちの邪魔して怒られたとか?」



「お前、いくらリーダーだって仕事場だぞ?」



「そうですよ。しかも嫌な顔してた女ですよ?」



「えー、だってリーダーだよ?結構来る者拒まずじゃん(笑)」



3人の勝手な言い分を聞きながら、そんな事ないよ、と思う。

あの人は自分の嫌な事はしないし、必要ないと思えば冷酷に切る事が出来る。

そんな事は絶対に言わないけれど。



「ねえヒカルさん、葛城さん戻ってくんでしょ?あの子と何があったか訊いてみてよ」



俺が黙っていると、悪い顔のカイが言う。



冗談だろ。



「別に興味ないし。別に何も無かった、し」



思わず言ってしまい、しまったと思ったけど遅いのは分かり切っていた。



「ヒカルさんなんか見たんだ?」



「俺達にもおしえてよ」



「なに?じゃあ、修羅場ってたの(笑)」



すかさず突っ込んでくる末っ子組とそれに乗るヒロキ。



・・・これ、ここにナガレくんが戻ってきたら嫌だな。

 口を滑らせた自分の所為ではあるけれど、俺は小さくため息をついた。



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