朝が来るまでキスをして。

月湖

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120 本心

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「アンタが羨ましいよ・・・」



苦しそうにそう言ったきり俯いてしまったカイに、怒りでアツくなっていた胸の内が急速に冷えていく。


下りた前髪に隠れて見えない顔の、そこだけ見える口元はきゅっと結ばれ、微かに震えているようにも見える。

いつだって人を嘲ったように口を歪ませてるコイツの本心が見えてくるようだった。


きっとヒカルの幸せだけを願って何も言わなかった優しいアイツを、同じように想って見守ってきたコイツ。

もしそれが本当なら、俺達を見ているアイツをどんな気持ちで見ていたのか。


・・・もし、本当の意味では俺達は付き合ってないと言ったらどうするのか。



「・・・カイ・・・」



何も言えずに、ただ名前だけを呼んだ。

どうやったってヒカルを手放せない俺が何を言ったって、何かが変わるわけじゃないし。

多分、カイだってこれ以上俺に何かを言ってもらいたいわけじゃないとも思う。



俺の呼び掛けにゆっくりと顔を上げたカイが何かを言おうとしたのか口を開いた瞬間、突然携帯のバイブ音が低く鳴った。

・・・俺はここには持って来てない。

と、いう事は。



「すみません・・」



少し顔を上げそう言って、ジャケットの内側を探ったカイがスマホの画面を見ると、一瞬だけ、切ないような、泣きそうな表情を浮かべる。

けれどすぐ後には明るい声で話し出すカイがいた。



「もしもし?・・・ああ、今トイレですよ。ちょっと知り合いに会っちゃいまして。
は? 何勝手に言ってんですか。
そんな急に言われても何も準備出来ませんよもう。せめて朝に言って朝に」



その口調から、相手がヒロキだと分かる。

お前は、いつからそうやって演じてきた?


じっと見ていると、電話を切ったカイが苦笑しながら視線を反してくる。



「俺はね、アイツと付き合いたいわけじゃないんです。
いつか終わるかもしれない関係なんて、怖くて踏み切れない。
ずっと側にいたいんです。
けど、この厄介な想いが邪魔をする。
アイツが傷つく度に、もしかして今なら、死ぬまで一緒にいたいなんて伝えたら俺を受け入れてくれるんじゃないかって、愚かな願望が顔を出してしまうんです。
だから、早くアイツが幸せになる姿を見て、この想いに決着をつけたいと思った。
まさかアナタまで本気だなんて思ってなかったから、随分なことを言ってしまいました。
・・・謝ります」



そしてそう言い残し、先に出て行った。



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