朝が来るまでキスをして。

月湖

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109 匂い side hikaru

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「それ・・どうすんの?」



楽屋に備え付けの小さな洗面台で手と顔を洗い、一応持ってたハンカチで水気を拭い振り返ると、さっき使った恥ずかしいティッシュを、新しいそれに包んでポッケに入れるナガレくんがいた。

すぐそこにゴミ箱があるのに。

そう思って訊くと、彼は呆れたように俺を見て言った。



「こんな、匂いですぐ分かるもん置いとけるかって。トイレに捨てんだよ」



「あ・・・そ、っか」



言われればその通りだ・・。

『犯人』が俺達だってバレなくても、気付いた人は気持ちのいいもんじゃないだろう。

そういえば、この人は何気に気付く人だった。



「そうだよね。・・・ごめん」



そんな事には一切頭が回らず、こんなところで欲情した自分が恥ずかしい。



「仕掛けたの俺だし(笑) もういいなら行くよ?」



「あ、うん」



色気を残した笑顔をうっかり真正面から見てしまい、頬が熱くなる。

それを隠すように背を向け、ドアノブに手を掛けた瞬間。



「あ、待った」



と、腕を掴まれた。



「今日、何時上がり?」



訊かれて、カラダの奥に残る熱が少し大きくなった。

それを悟られないようにゆっくりと振り返り、笑顔を作り答える。



「24時、前には終わると思う・・・」



明日は久しぶりのオフだ。

もし『お仕置き』が酷くても回復する時間は十分にある。



「・・・」



そんな事を考えてまた少し熱が大きくなる。



「そ? じゃあ、終わったら連絡して」



彼はそんな俺を分かってるんだと思う。



「ん・・」



身長差の分ほんの少し下から俺を覗き込み首の後ろに腕を掛けると、チュッと小さく口付けニヤリと笑い、俺より先に出て行った。







「あ、おかえり。葛城さんいた?」



何度か深呼吸し落ち着いてから自分たちの楽屋に戻ると、さっきまでのちょっと緊迫した空気はどこへやら、すっかりリラックスした3人がいた。



「トイレ行って戻るって」



理由を思い出すと恥ずかしいけれども、そんなのこいつらが知るわけないし。

朔也の脇を通って自分の席に戻り、新聞を開く。

すると直後に、朔也が俺の方に振り向き訊いてきた。



「ヒカルさん、香水変えたの?」



「え? 変えてねえけど?」



っていうか、今日は付けてもいない。



「なんで? なんか匂う?」



それに返ってきた答えは・・・。



「なんかリーダーがつけてる香水みたいな匂いがしたからさ」



その言葉に、ギクリと背中が硬直した。



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