朝が来るまでキスをして。

月湖

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97 嫌な予感 side hikaru

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クローゼットを開け今日着る服を選び出し、大きな姿見の前で腰に巻いたタオルを取る。

あんなに激しい行為をしたというのに、小さな痕のひとつも残っていない。

昨日の痕跡があるとすれば、唯一、この鈍い腰の痛みだけ。



「俺のもんって言うなら、所有の証のひとつでも残して行けよ・・・」



本人に言ったらまた笑われそうな女々しい不満を溜め息と一緒に呟き、直後にもうひとつ大きく息を吐いた。



「・・・なんてな」



俺は鏡の中の自分に触れ、睨み付ける。



「仕事の時間だ」



芸能人の俺に戻る時間。

彼の物である七瀬光はいちゃいけない。

俺は今度こそ仕事の顔を作るために、用意した服を身に着けた。









マネージャーの運転する車で局に入り用意された楽屋の扉を開けると、下3人がくっついていて、何やら話していた。

・・・あの人だけがいない。



「おはよう、みんな。ナガレくんだけまだ?」



言いつつ、いつも彼が座る席の方を見ると、ソファの隅に見覚えのある小さいバッグが置いてある。

来てる、のにいない。

いつもなら寝てるか雑誌を見てるか・・ボーっとしてるか。



・・・なんか、嫌な予感。



―――そして大抵それはすぐに現実になる。



「リーダーなら、女の子がきて連れていきましたよ?」



ほらやっぱり・・。



カイが複雑そうな表情で言うと、ヒロキと朔也も続けた。



「なんかねー、いつもアタマ軽そうに笑ってるコなんだけどね?
今日はなんかヘンだったよね」



「ちょっと思い詰めてた感じっていうの? ヤバそう、かな」



でもリーダー関わるの嫌がるじゃん?

って、3人揃って俺に救いを求める目をしてくる。



お前ら以上に俺が衝撃を受けてる事なんて知らないだろう?



そんな事を思いながら、それでも俺はしかたないなとため息をつき、



「ちょっと見てくるよ」



人のいい兄役を演じようと静かに楽屋を出た。

そして、



「・・・なんでだよ・・・」



扉を閉め、目を閉じ誰にも聞こえない声でそう呟く。

けれど一瞬後には、彼を見つける為近くの空き楽屋の扉を開けていった。



嫌な場面を見る事を分かっていながら。



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