朝が来るまでキスをして。

月湖

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79 絶望 side hikaru

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溢れる想いをぶつけナガレくんの肩口に顔を埋めながら止まらない涙を彼のTシャツに染み込ませていると、



「・・・なあ・・・ヒカルちゃん・・・好き、ってナニ・・・?」



そっと俺の髪を撫でた彼が、静かな声で言った。

ゆっくりゆっくり髪を撫でられていると段々気持ちが落ち着いてきて、やっと彼の言葉を理解する。



『好きって、何?』



俺の涙でそこだけ色が濃くなったTシャツ。

もう濡れついでに残った涙も全部彼のTシャツに押し付け視界をクリアにしてから、彼の言葉の意味を考え始めた。



好き、なんて・・・。



そんなの、勝手にそう思ってしまうんだから、あらためて何って言われも・・・。

適当な言葉が見つからない。



・・・でも、なんでそんな事訊いてくんの?



「・・・俺の気持ちは、まだ伝わってないってこと?」



顔を上げ、ナガレくんの目を見つめる。

彼も俺を見上げていた。

でも、ベッドサイドの小さな明りが濃い影を作っている所為か、普段は焦げ茶の瞳が深い黒に染まって見え、視線は合っていても彼の目は俺の目を通り抜け更に遠くを見つめているようにも見える。



「・・・ヒカルちゃんが俺を好きな事は分かったよ」



俺の落ちてきていた前髪を優しく掻き上げながらそう言う彼。



「・・・てか、むしろ俺、向けられる感情には敏感な方だと思うよ?」



そして、今度こそちゃんと合った目が笑ったように見えた。

でもその次に聞こえてきた言葉は・・・



「うん・・・。業界に入って、人の気持ちには敏感になったな。
でも、どんだけ好きって思われても言われても、俺のキモチっていうか・・・ココロ?
それは一切、誰に言われても、どんな美女でも、・・・大事な仲間の言葉でも・・・全然反応しねえんだよ」



俺にとって絶望でしかなかった。

俺の気持ちを知るわけもない彼は、俺を見つめたまま穏やかな声で酷い事を話し続ける。



「恋愛感情ってのが、欠落してんだよ。そこだけスコンと抜け落ちてるみたいな・・・。
いつか誰かを好きになれるかと思っていろんなのと付き合ってみてもいつも同じ。
相手にだって俺がなんとも思ってないの伝わるし、
いつまでもそうだったら離れてくのも当然だと思うから追い掛けもしない。
もうめんどくなって、最近は殆ど後腐れない女ばっか」



そして最後に自嘲的な笑みを見せ、ゆっくりと目を閉じた。



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