朝が来るまでキスをして。

月湖

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78 欠けたもの

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ただ軽く触れるだけの唇を離し、俺に跨ったまま静かに涙を零すヒカルちゃんをじっと見つめていた。

こんなに静かな泣き顔は初めて見たかもしれない。

セックスの最中に生理的に涙が出ている事はあったけれど。


老若男女誰からも好かれる男が、俺を好きだと言いながら泣いてる。

でも・・・。



「・・・なあ・・・ヒカルちゃん・・・」



ずっと、俺の中で答えが出ないもの。



「好き、ってナニ・・・?」



物理的な物の好きなら分かる。

でも、ヒカルちゃんが言ってるのはそうじゃない。

ココロなんてカタチの無い、不確かなモノ。



「好き」「愛してる」



どれだけ言われてきたか分からない。


向けられる感情は基本嬉しい。

たまに迷惑な時もあるけれど、それでも大体は嬉しい時が多い。



けど。



それに応える感情が、無い。

どれだけ綺麗な女に愛してると言われカラダを深く重ねても、それだけ。

綺麗だなと思う。

カワイイとも思ったりする。

でもそれ以上は、無い。

好き、なんてそんなものキモチ、忘れてしまった。






「好きなの・・・。付き合ってほしいの・・・」



頬を赤く染めた可愛らしい子にそう言われ、



「俺は好きじゃないけど、それでもいいなら」



本当の言葉を返す。

それでもほとんどの女のコ達は



「いいよ」



その後に期待してそう応えるんだ。

そうして付き合い始めて、暫くすると彼女達はなぜ好きなってくれないのと俺を詰り、やがて俺から離れていく。


何度繰り返したか分からない。


この子なら好きになれるかもしれない。
そう期待し続けながら20代前半まで同じような事を繰り返し、

・・・やがて疲れて諦めた。


俺にはもう、『好き』とか『愛してる』とかいう感情が無いのだと。

それからは後腐れの無い手練れた女達と一夜を過ごす事が多くなって。

たまにそんな中のひとりに居心地の良さを感じ暫く一緒にいると、やがてその女は俺を独占し縛りつけようとする。

そして俺はまたそんなのに疲れてその女を手放した。





そんな時だ。

ヒカルちゃんとキスをし始めたのは。

最初はホントにただ口寂しくて。

狼狽えるヒカルちゃんの反応が面白くて。

まさかセックスをする仲になるとまでは考えなくて。

そして、まさかヒカルちゃんが同じ男の俺にそんな感情を持つとは思わなくて。


ずっと一緒に過ごしてきた『大切な』仲間。

何も感じない周りより少し『特別』な・・・。



なあヒカルちゃん。

『好き』、って、何?



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