聖女じゃないのに召喚された俺が、執着溺愛系スパダリに翻弄される話

月湖

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63 聖域 アルブレヒト

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昼間でも薄暗い森を走る。
手負いの魔獣は執拗に追いかけてくる。
それはかつて遭遇した事の無いほど大きな魔獣だった。

「殿下・・・っ!」

多少拓けた場所に出たところで部下が私を庇って魔獣の前に出るが、構える間もなく強靭な腕で薙ぎ払われ吹っ飛んで行く。
すでに二人このデカブツによって負傷しているが、今は部下を介抱している余裕は無い。とっとと倒して彼等の傷口を浄化してやらなければ。
握った剣に力が入る。
こいつは絶対に森の外に出してはいけない。ここで倒す!!

「お前たちはその場で水魔法を放て!私が凍て付かせる!!私が魔法を放ったら直ぐさま退避!」
「ハッ!」

間髪入れず適性のある数名が水魔法を放ち、数舜おいて氷結魔法で魔獣を凍らせ、更に風魔法を纏わせた剣の腕を叩き切る。
魔法耐性があるのか一撃では倒せず、多少鈍くはなったが十分に鋭く襲ってくる牙や腕を避けながら二度三度と切り付けてやっと霧散した。
その場に残ったのは赤黒く輝く大きな魔石。私の拳二つ分くらいはある。初めて見る大きさだった。
それだけ強い魔獣だったという事だ。
抑え込めてよかった。

負傷した部下の傷を聖水で浄化し、一応回復薬も飲ませたが、薬では多少傷が塞がるくらいで全快には程遠い。
比較的元気な部下に背負わせ移動を開始する。
速やかに彼らを連れて森を出る算段をしなければ。
さすがに3人もの重傷者を抱えて何日も野営は出来ない。

「出来るだけ急いで森を出る!しかし今日中には無理だろう。適当な場所で野営をし明朝出発する。
トマスとルイス、お前達は二人一組で斥候し野営場所を探してくれ」
「ハッ」

これまでも斥候として優秀な働きをしてきた二人に命じる。
さて、少しでも休める場所があればいいが・・・。
この辺りでは先程の魔獣が最大だったのか、進む道に大きなものは出なくなった。恐らくあれが取り込んでいたのだろう。今のうちに少しでも進まなければ。
途中で出てくる小さな魔獣を切り捨てながら進むこと1時間程か。
斥候に出ていた二人が戻ってきた。

「団長、この先30分程の場所で野営が出来そうです」
「そうか。よく見つけてくれた。案内を」
「こちらです」

二人の案内に従い森を進むと、

「ここは・・・」

その場所は、闇の気配で空気が澱んでいるのが常の東の森にあって、まるで聖域のように空気の澄んだ場所だった。
広くはないが多少拓けた場所で、幾つかであれば天幕を張れるだろう。
この森の中でこんな場所が見つかったのは僥倖でしかない。

「天幕を張り、まずは負傷者を休ませろ。1班3時間交代で見張り、その他は休憩を取れ」

何故森の中にこんな場所があるのかは分からないが、きっとこの場所にいる限り魔獣は襲ってこないだろう。一応交代で見張りは残すが、少しは隊員を休ませてやれそうだと安堵した。
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