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53 聖魔法結界は快適
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「殿下、いいかげん手を放して下さい」
「ハルカ・・・。君は私の光だ」
「光は外に出れば好きなだけ浴びれるでしょう!」
小さな王子が泣き止み、恥ずかしそうに侍従さんからハンカチを受け取って鼻水を拭いている脇で、その叔父と言えばさっきからずっと俺の手を握ったままよく分からない事をほざいてる。
リアル王子に跪かれて喜ぶ少女趣味は俺には無く、その状況に最初は焦ったもののずっとこの調子でいられると「大丈夫かこの人!」とかなり引き気味になっている現在。
見た目だけは完璧なのにどうしてこう残念な感じになっているのか。
「殿下、久しぶりに窓をお開けしましょうか」
「うん、僕も久しぶりに外が見たいな」
「畏まりました」
侍従長さんはそんな俺達を見事にスルーし、病み上がりで窶れてはいるが自分でカップを持って飲み物を口にする小さな王子のお世話に専念している。
「お風呂にも入りたい」
「ええ、ご用意致します。でも少しの時間だけですよ?
病はハルカ様に治して頂いたとはいえ、体力までは戻りませんから」
「分かった」
王子が手渡したカップをワゴンに置いた侍従長さんは厚いカーテンのかかった窓に向かい、ゆっくりと部屋に光を入れる。
「ああ・・・明るい」
小さな王子が感慨深げに呟くのに、改めてこの子が助かって良かったと思う。
薄暗かった部屋が窓からの自然光に照らされて、また涙を浮かべる王子の顔が見えた。
「よかった・・・」
「ああ、全てはハルカのおかげだ」
「もうそれいいですから」
俺の手の甲にキスをしようとする殿下の手から強引に手を抜いて立ち上がる。
無礼だろうが何だろうがこれ以上付き合ってられない。
いくらイケメンで強くて頼りがいがあっても、俺は殿下と手を握り合いたいとは思わないの!
「窓もお開け致しますね」
侍従長さんはそう断って静かに窓を開けた。無風だった部屋にすうっと空気が流れが出来た。
でも、その瞬間。
「っ!?」
―――――え?
なんだこれ。
「・・・」
「『ハルカ?』」
思わず口を押さえるとクロウと殿下が同時に俺の名前を呼んだ。
「なんで・・?」
『どうした!?』
「空気が・・・」
なんで、魔獣もいないのに闇の気配がするんだ!?
呼吸する度胸の中に気持ち悪いものが入り込むような気がして、我慢できずにもう一度魔力を放出する。
自分の身体を包むように薄い膜状の魔力の層が出来て、その中でやっと深く呼吸する。
『・・・この希薄な闇の気配を察知するのか』
「これ、やっぱりそうなの」
『このくらいの闇はどこにでもある。この世界では、先程のハルカが浄化した状態の方が異常と言えよう』
「そうなのか?・・・俺、気持ち悪いんだけど」
『だからその状態か』
寄ってきたクロウが、じっと俺を見る。
なんか、身体全体の周囲に薄い膜が張ってあるような、そんな感じ。
「えーと・・・。なんか、嫌だなって思ったらこうなった」
『無意識に自分に聖魔法結界を張っている』
「マジか」
ついさっきまで少し不快ながらも普通に呼吸していたのに、ちょっと浄化して綺麗な空気を吸ったら即座に拒否反応が出るって・・・。俺ってそんなに繊細だったか?
首を傾げるも試しに意識して部屋の空気を吸ってみると「う・・・」と呻くくらいに肺の中が重く気持ち悪くなってしまい、慌ててもう一度浄化を掛け息をついた。
『体内の僅かな闇も全て浄化した所為で、侵入する闇をハルカ自身の聖魔力が拒絶しているのだろう。
・・・まるでかつての聖女のようだな』
「俺は聖女じゃないよ」
ぼそりと言うとクロウは『わかっている』と頷いた。神獣って、こういう事も分かるのか。
聖女は俺と一緒に爺さん神さんが向こうの世界から帰還させられたあの女子社員だ。
今頃どうしてんのかな。
『しかし、ずっとその状態でいるのもな・・・。使っている魔力量は微々たるものだから魔力切れの心配はなさそうだが』
「それは、多分平気」
一応ステータスを確認したけど、王子の治癒や浄化で魔力は使った筈なのに総量の2パーセントも減っていない。光魔法も聖魔法もレベルだけはあるから消費量が少なくてもそこそこの効果は出せるって事か?
費用対効果抜群に良いな。
経験値が無いからどう扱うのかイマイチ分からないのが残念なところだ。
”宝の持ち腐れ”ってやつにならないようにしなければ。
『だが、さすがにずっとその状態でいるというのはやめた方がいい』
「でも、息をすると気持ち悪くなる・・・」
自前で結界張れるならそれでいいんじゃね?
『・・・今のハルカの状態はの神獣の仔と同じ状態だ。闇の気配に弱く、順応できないままでは死んでしまう。我はハルカを失いたくない』
「・・・え?」
スルリと寄って来たしなやかな獣は、じっと俺を見て言った。
思わずモフモフの頭を撫でたが、言われた言葉の衝撃が大きすぎて手は止まってしまった。
「俺、死んじゃうの!?」
「何だと!?」
思わず大きくなった声に、跪いたままだった殿下がザッと立ち上がった。
―――――――――――――――――
大変お待たせして申し訳ありません。
エールありがとうございます!
「ハルカ・・・。君は私の光だ」
「光は外に出れば好きなだけ浴びれるでしょう!」
小さな王子が泣き止み、恥ずかしそうに侍従さんからハンカチを受け取って鼻水を拭いている脇で、その叔父と言えばさっきからずっと俺の手を握ったままよく分からない事をほざいてる。
リアル王子に跪かれて喜ぶ少女趣味は俺には無く、その状況に最初は焦ったもののずっとこの調子でいられると「大丈夫かこの人!」とかなり引き気味になっている現在。
見た目だけは完璧なのにどうしてこう残念な感じになっているのか。
「殿下、久しぶりに窓をお開けしましょうか」
「うん、僕も久しぶりに外が見たいな」
「畏まりました」
侍従長さんはそんな俺達を見事にスルーし、病み上がりで窶れてはいるが自分でカップを持って飲み物を口にする小さな王子のお世話に専念している。
「お風呂にも入りたい」
「ええ、ご用意致します。でも少しの時間だけですよ?
病はハルカ様に治して頂いたとはいえ、体力までは戻りませんから」
「分かった」
王子が手渡したカップをワゴンに置いた侍従長さんは厚いカーテンのかかった窓に向かい、ゆっくりと部屋に光を入れる。
「ああ・・・明るい」
小さな王子が感慨深げに呟くのに、改めてこの子が助かって良かったと思う。
薄暗かった部屋が窓からの自然光に照らされて、また涙を浮かべる王子の顔が見えた。
「よかった・・・」
「ああ、全てはハルカのおかげだ」
「もうそれいいですから」
俺の手の甲にキスをしようとする殿下の手から強引に手を抜いて立ち上がる。
無礼だろうが何だろうがこれ以上付き合ってられない。
いくらイケメンで強くて頼りがいがあっても、俺は殿下と手を握り合いたいとは思わないの!
「窓もお開け致しますね」
侍従長さんはそう断って静かに窓を開けた。無風だった部屋にすうっと空気が流れが出来た。
でも、その瞬間。
「っ!?」
―――――え?
なんだこれ。
「・・・」
「『ハルカ?』」
思わず口を押さえるとクロウと殿下が同時に俺の名前を呼んだ。
「なんで・・?」
『どうした!?』
「空気が・・・」
なんで、魔獣もいないのに闇の気配がするんだ!?
呼吸する度胸の中に気持ち悪いものが入り込むような気がして、我慢できずにもう一度魔力を放出する。
自分の身体を包むように薄い膜状の魔力の層が出来て、その中でやっと深く呼吸する。
『・・・この希薄な闇の気配を察知するのか』
「これ、やっぱりそうなの」
『このくらいの闇はどこにでもある。この世界では、先程のハルカが浄化した状態の方が異常と言えよう』
「そうなのか?・・・俺、気持ち悪いんだけど」
『だからその状態か』
寄ってきたクロウが、じっと俺を見る。
なんか、身体全体の周囲に薄い膜が張ってあるような、そんな感じ。
「えーと・・・。なんか、嫌だなって思ったらこうなった」
『無意識に自分に聖魔法結界を張っている』
「マジか」
ついさっきまで少し不快ながらも普通に呼吸していたのに、ちょっと浄化して綺麗な空気を吸ったら即座に拒否反応が出るって・・・。俺ってそんなに繊細だったか?
首を傾げるも試しに意識して部屋の空気を吸ってみると「う・・・」と呻くくらいに肺の中が重く気持ち悪くなってしまい、慌ててもう一度浄化を掛け息をついた。
『体内の僅かな闇も全て浄化した所為で、侵入する闇をハルカ自身の聖魔力が拒絶しているのだろう。
・・・まるでかつての聖女のようだな』
「俺は聖女じゃないよ」
ぼそりと言うとクロウは『わかっている』と頷いた。神獣って、こういう事も分かるのか。
聖女は俺と一緒に爺さん神さんが向こうの世界から帰還させられたあの女子社員だ。
今頃どうしてんのかな。
『しかし、ずっとその状態でいるのもな・・・。使っている魔力量は微々たるものだから魔力切れの心配はなさそうだが』
「それは、多分平気」
一応ステータスを確認したけど、王子の治癒や浄化で魔力は使った筈なのに総量の2パーセントも減っていない。光魔法も聖魔法もレベルだけはあるから消費量が少なくてもそこそこの効果は出せるって事か?
費用対効果抜群に良いな。
経験値が無いからどう扱うのかイマイチ分からないのが残念なところだ。
”宝の持ち腐れ”ってやつにならないようにしなければ。
『だが、さすがにずっとその状態でいるというのはやめた方がいい』
「でも、息をすると気持ち悪くなる・・・」
自前で結界張れるならそれでいいんじゃね?
『・・・今のハルカの状態はの神獣の仔と同じ状態だ。闇の気配に弱く、順応できないままでは死んでしまう。我はハルカを失いたくない』
「・・・え?」
スルリと寄って来たしなやかな獣は、じっと俺を見て言った。
思わずモフモフの頭を撫でたが、言われた言葉の衝撃が大きすぎて手は止まってしまった。
「俺、死んじゃうの!?」
「何だと!?」
思わず大きくなった声に、跪いたままだった殿下がザッと立ち上がった。
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