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44 奇病
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この世界を、地球とは違う景色を見たいと、この世界と交流したいとクロウと一緒に神の森から出てきて、のんびり旅でもと思っていたけれど。
・・・多分、少し不自由になるんだろうな。
王子の話を聞きながらそんな事を考える。
「この半年、王都で奇病が出ている。
最初は軽い風邪のような症状だが、次第に熱が出て、治癒魔法で直してもしばらくするとぶり返す。
それを繰り返しやがて治癒魔法が効きにくくなり、高熱が続いて・・・」
「・・・死に、至る?」
「そうだ」
「薬などは」
「薬・・・薬草の事か?ポーションの材料になる?」
「・・・」
・・・マジかー。そうくるのか。
これは治癒魔法や回復魔法が存在する弊害か。
投薬治療は一般的じゃないんだな。
「・・・怪我を負ったり病気になった時は治癒魔法で治すんですよね?」
「?ああ、そうだ。症状が軽ければ回復魔法でいいだろうが、回復する力が無い時には治癒魔法の方が有効だ」
俺がしている質問はこの世界では誰もが知っている常識的な事なのだろう。
怪訝そうな顔をされたが、それでも王子は答えをくれた。
っていうか、回復魔法と治癒魔法って違うのか・・・。
ニュアンス的に自己回復力を上げて治すのが回復魔法で、他者の魔法で治すのが治癒魔法という事だろうか。
「回復魔法や治癒魔法を受けるにはお金がかかるんですか」
「多少は。
しかし教会で受けられる治癒魔法は一度なら一般市民が出せない金額ではない。だが数度となると家計を圧迫するには十分な金額だ。故に治癒魔法より安い低ランクポーションなどで対処している者も多いと報告を受けている。治癒魔法には劣るが、初期症状には効果がみられるらしい。
症状が重くなるとそのポーションを受け付けなくなるという。そうなると治癒も効かなくなるほど進行している。薬草をすり潰して服用する投薬も試みた者がいるが効果は芳しくなく、その患者は死に至った」
話し進める程に殿下の表情が険しくなる。
治療法の無い原因不明の熱病か・・・。
地球でもペストとかスペイン風邪とか、最初は原因が分からずに大勢の死者が出た病気があったけど、それらの原因が突き止められるまでに何万人っていう人が犠牲になっている。
この世界には魔法というスキルがあって、地球よりも怪我や病気での死は遠いものだと思っていた。
でも、だからこそそのスキルが使えなくなった時の対処が後手後手に回ってしまうのだろう。
薬の開発が盛んでないこの世界では、治癒魔法が効かないイコール死に至る確率が上がるという事だ。
「・・・これは箝口令が布かれている事だが、」
その言葉に、ついに来たかと思った。
聞いたら、逃げられないだろう。
「第一王子、私の甥に当たる子がその病に侵されている」
「・・・」
予想通りというか、さ。
あーあ・・・。
「神官数人により毎日のように治癒魔法を受けているが、既に効果は薄くなっている。
その神官も立て続けの治癒で魔力回復が間に合わなくなりつつある状況だが、だからと言って魔法を途切れさせればあの子がどうなるか・・・。
近頃市井でも急に患者が増えて治癒魔法が使える神官も足りなくなってきている故、これ以上の増員も出来ない。
だからと言ってこのままでは・・・
頼むハルカ。森で私を治してくれたその力で、あの子を、エドワードを助けてくれ・・・」
・・・いくら身内の為とはいえ、この人だって王族って立場なのにさあ。
組んだ手の上に額を擦り付け、祈るように俺に頼むとかって。
「・・・はぁ・・・」
そんなの、断れるわけないじゃん。
・・・多分、少し不自由になるんだろうな。
王子の話を聞きながらそんな事を考える。
「この半年、王都で奇病が出ている。
最初は軽い風邪のような症状だが、次第に熱が出て、治癒魔法で直してもしばらくするとぶり返す。
それを繰り返しやがて治癒魔法が効きにくくなり、高熱が続いて・・・」
「・・・死に、至る?」
「そうだ」
「薬などは」
「薬・・・薬草の事か?ポーションの材料になる?」
「・・・」
・・・マジかー。そうくるのか。
これは治癒魔法や回復魔法が存在する弊害か。
投薬治療は一般的じゃないんだな。
「・・・怪我を負ったり病気になった時は治癒魔法で治すんですよね?」
「?ああ、そうだ。症状が軽ければ回復魔法でいいだろうが、回復する力が無い時には治癒魔法の方が有効だ」
俺がしている質問はこの世界では誰もが知っている常識的な事なのだろう。
怪訝そうな顔をされたが、それでも王子は答えをくれた。
っていうか、回復魔法と治癒魔法って違うのか・・・。
ニュアンス的に自己回復力を上げて治すのが回復魔法で、他者の魔法で治すのが治癒魔法という事だろうか。
「回復魔法や治癒魔法を受けるにはお金がかかるんですか」
「多少は。
しかし教会で受けられる治癒魔法は一度なら一般市民が出せない金額ではない。だが数度となると家計を圧迫するには十分な金額だ。故に治癒魔法より安い低ランクポーションなどで対処している者も多いと報告を受けている。治癒魔法には劣るが、初期症状には効果がみられるらしい。
症状が重くなるとそのポーションを受け付けなくなるという。そうなると治癒も効かなくなるほど進行している。薬草をすり潰して服用する投薬も試みた者がいるが効果は芳しくなく、その患者は死に至った」
話し進める程に殿下の表情が険しくなる。
治療法の無い原因不明の熱病か・・・。
地球でもペストとかスペイン風邪とか、最初は原因が分からずに大勢の死者が出た病気があったけど、それらの原因が突き止められるまでに何万人っていう人が犠牲になっている。
この世界には魔法というスキルがあって、地球よりも怪我や病気での死は遠いものだと思っていた。
でも、だからこそそのスキルが使えなくなった時の対処が後手後手に回ってしまうのだろう。
薬の開発が盛んでないこの世界では、治癒魔法が効かないイコール死に至る確率が上がるという事だ。
「・・・これは箝口令が布かれている事だが、」
その言葉に、ついに来たかと思った。
聞いたら、逃げられないだろう。
「第一王子、私の甥に当たる子がその病に侵されている」
「・・・」
予想通りというか、さ。
あーあ・・・。
「神官数人により毎日のように治癒魔法を受けているが、既に効果は薄くなっている。
その神官も立て続けの治癒で魔力回復が間に合わなくなりつつある状況だが、だからと言って魔法を途切れさせればあの子がどうなるか・・・。
近頃市井でも急に患者が増えて治癒魔法が使える神官も足りなくなってきている故、これ以上の増員も出来ない。
だからと言ってこのままでは・・・
頼むハルカ。森で私を治してくれたその力で、あの子を、エドワードを助けてくれ・・・」
・・・いくら身内の為とはいえ、この人だって王族って立場なのにさあ。
組んだ手の上に額を擦り付け、祈るように俺に頼むとかって。
「・・・はぁ・・・」
そんなの、断れるわけないじゃん。
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