聖女じゃないのに召喚された俺が、執着溺愛系スパダリに翻弄される話

月湖

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33 尋問ではなく

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「怖くないか?」


俺が落馬しないようにと後ろから腰を抱きながら、耳元で訪ねてくる王子様。
いや、馬に同乗してるし、流れる風で聞き取りにくいって理由もあるだろうけど!
でも、そんなキスするみたいに耳に唇くっつけなくてもよくない?
質問を聞く前にうひゃっとなった。
で、なんだっけ?怖くないかだっけ?
それは、正直に言ったら。


「ちょっと怖いです」


だって、この子達の脚力凄いんだよ!
多分時速換算で4~50キロ出てる。
景色が流れる速度が車に乗っている時と変わらないのだ。
大きいくせに足も速いなんて凄い。


「気持ち悪いか?
速度を抑えた方がいいか?」


心配そうな声と同時、少し隙間の空いていた俺の肩と王子様の胸がぴったりとくっつく。
俺が怖いと言ったからだろうか。
身体全部を包むようにぎゅうっと抱き込まれた。
だから、距離感・・・!


「大丈夫です。
それより、こんなにくっついていたら馬の制御はしづらいでしょう。
少し離れますね」


馬上で、しかも二人乗り用ではない鞍に跨って腰を抱かれていては離れると言ってもせいぜい指先分くらいだろうが、普通の男同士ではありえない密着からは逃れられるだろうとズリズリ尻を前に出したのに、王子様は抱き込んだ腕ですかさず俺の腰を引き寄せその距離を元に戻してしまった。


「いや、ぴったりくっついていてくれた方がバランスを崩した時に助けやすい。
まあ、絶対に落としはしないが」

「ソウデスカ・・・」


王子様は空気を読むなんて事はしてくれないらしい。
しかも理由が理由だけにこれは諦めるしかなさそうだ。
だがしかし確かに身体はグラつかなくて安定感は段違いだけど、この絵面を周りが見ているのかと思うと男としての何かがゴリゴリ削られていくような気がする。


うううううぅー・・・・


鞍の端っこを掴みながら心の中で唸る。
いくらこっちの人が大きいって言ってもな・・・。
そんなことを考えた時、唐突に思い出した。

そういや、この国の成人って30とか言ってなかったっけ?
騎士さんも子供がとか言ってたし。
そうか。
子供か。
うん。
子供扱いされてるって事か!
だからこんなに、過保護?になってるって事か。
じゃあ、別に不自然じゃないのか?
うん、よし!
この世界じゃ、俺はまだ子供!
まだ26歳だし!






うん・・・26歳の、子供・・・・・・・・・・・・・・・。




・・・・・・・・・・・・・・。






思い込もうとして、失敗した。
いや、俺、この王子様に歳言ってねえし。
どうやったって会社員でいた記憶は無くならないし。
多分この扱いからして子供に見えてるんだろうけど。
つーか、この王子様は何歳なんだ?
確かに身体はデカいけど、顔は随分若そうに見えた。
俺と変わらないか、少し上というところだろうか。
それで騎士団長?
王子だからか?
ほんの少しだけ振り向き王子の顔を見上げると、すぐに視線に気付いて「どうした?」と声が掛かった。


「何か聞きたい事があるなら言ってくれて構わない」


吹き込むように、耳に唇が当たってくる。
バックハグされて、耳にキスされてる自分の状況に軽く眩暈がしてくるが、王子様が良いと言うなら、このまま沈黙でいるよりは話し相手になってもらおう。


「殿下は、騎士団長だと言っておられましたが、お幾つなんでしょうか」


思った事をそのまま聞いてしまったのが間違いだったのだろう。
王子様は「私は35歳だ」と教えてくれたのだが、そこから俺への質問攻めが始まった。




「そういえば名前も聞いていなかった。教えてくれるだろうか?」

「ハルカ・ツヅキです」

「ハルカと呼んでも良いだろうか」

「はい」

「私はアルブレヒトだ。名前で呼んでくれ」

「・・・アルブレヒト殿下」

「ハルカの歳は?随分若そうだが」

「26歳です。あと半年程で27歳になります」

「好きな食べ物は?」

「果物、とか」

「では嫌いなものはあるか?」

「特には・・・ああ、生臭いものは苦手です」

「趣味は?」

「・・・読書?」

「恋人や婚約者はいるのか?」

「今はいません」

「・・・そうか。
何か他に私に質問はあるか?」





・・・いや、王子様。アルブレヒト殿下?
普通はただの平民に名前呼びなんてさせないだろう?多分おかしいからな?
そして、俺が言うのもなんだけどさ。
質問の内容、なんか違うくね?
ここはもっと大事な事があるんじゃないか?
俺がそっちの立場だったら、ここぞとばかりに回復魔法の事とかクロウの事とか聞くけど?
そういうのは城に行ってからなのか?
俺の基本情報なんてそんな重要じゃないだろう。
こんな、合コンで隣に座ったみたいな・・・・・・・・・・・


イヤイヤイヤイヤ。



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