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31 女子なら喜ぶシチュエーション?
しおりを挟む「―――・・・なるというわけだ」
「はあ・・・」
エンジニアばりに事細かに説明されたけれど、半分くらいは反対の耳から抜けていったと思う。
要は、この中に通信用の魔法陣が仕込んであって、その魔法陣の決められた一部分を弄り魔力を流すことで他人に連絡が出来るというものらしく、機能でいえばキッズ用の携帯くらいか?
メール機能は無いらしいからPHSとか?俺は使ったこと無いけど。
身長は20センチ以上、体格も軽く一回り以上大きな男にすっぽり抱き込まれた居心地の悪い空間の中で感情を無にしながら説明を聞くこと7~8分?体感倍だが。
さっき王子様と一緒に森から出てきた人達が馬に乗ってやって来た。一頭の白馬を連れて。
って・・・馬デカっ!
体型はサラブレッドに近い美しい馬だけど、その大きさが比じゃない。
なんだこれ!?
こっちの世界って動物までみんなデカいのか?
クロウもデカいし。
「団長」
「ああ、来たか。プルーム、お利口にしていたか?」
王子様を団長と呼ぶって事は、この人達も本業は騎士か。
恰好は冒険者風だけど。
連れられてきた馬の鼻面を撫で王子様が声を掛けると、プルームと呼ばれた馬は甘えるようにフンフンと鼻を鳴らした。
それにしてもデカいな。体高2メートル半くらいありそう。
こんなの絶対に乗れないわ。
それに・・・。
他の人達が乗ってるのは大きさはともかく普通の馬なのに、なんでこの子だけ角あんの?
ユニコーンってやつ?
全身純白の美しい白毛馬の額に20センチほどの鋭い角が生えている。
ぶっちゃけ下を向かれるとちょっと怖い。
『・・・驚いた。眷属が人に懐くとは』
「眷属?この子が?」
頭のすぐ上にある馬の頭に若干ビビっていると、俺の横で様子を窺っていたクロウが声を上げた。
小声で訊き返すと頷く。
『ああ、攻撃力は無いし神獣でもないが小さな闇なら自身の魔力で浄化してしまう特別な獣だ。神の森にも特別に出入りを許されている。神聖な気を好む故、人の営みの近くには寄らないと思っていたが。
・・・そうか。怪我を治してもらったのか。王子の魔力も美味い?そうか』
「この子、話せるのか?」
王子に撫でられながらもクロウと視線を合わせているユニコーン。
二匹の間に見えない糸が繋がった気がした。
『こ奴はそこらの獣と違い知力が高いし、我らの眷属故思念なら交わせる。
王子と共にいるハルカの事を気にしているぞ。番なのかと』
「つ・・・!?」
面白そうに言わないでくれ。冗談じゃない。
つーか、そこのユニコーン!俺は男なんだよ!
キッと睨みつけるも、そこにあったのは大きくてつぶらな瑠璃色の瞳。
・・・ヤバい、可愛い。デカくて怖いけど、可愛い!
純白の毛並みは昔実家で飼ってたグレートピレネーを思い出させる。
モフモフの毛は毎日ブラッシングしなきゃすぐ絡まるし、デカいし重いし散歩は1時間以上しなきゃ拗ねるもの凄い手のかかるヤツだったけど、大好きだった。
老衰で死んだ時は悲しすぎて、それから動物が飼えなくなった程に。
でも飼えなくても動物が好きな事に変わりはない。
大きくて懐こいヤツなら尚更。
「・・・」
パチパチ瞬きする度、なっがいまつ毛が影を落とす。
さわりたいな。
「・・・さわっていい?」
思わず話し掛けると、数秒後にクロウから『良いと言っている』と返ってきた。
どうやら俺にはこの子の声は聞こえないらしい。
「じゃあ、さわるぞ?」
ワクワクしながら腕を上げるも、鼻面に届く前に手を王子様に掴まれた。
なんでだよ。
「・・・」
思わずジトっと見つめると、ちょっとだけ怯んだように眉間に皺を寄せた。
「・・・プルームは少し気難しくて私以外には懐かないのだが・・・プルームが触れても良いと言ったのか?」
「すみません・・・ダメでしたか」
そういえばこの子王子様のお馬さんだったよ。
断りは入れないとダメだよな。
「あまりにも綺麗な子なので、触ってみたいなと・・・。よろしいですか?」
この子は良いって言ってくれたみたいだけど、確かに、自分の馬に勝手に触られるのは気分がよくないかもしれない。
そういえばウチの犬を勝手に撫でられるのもちょっと嫌だった。
「プルームと会話が出来るのか」
しかし、王子様が一番気になるのはソコらしい。
「・・・・・・神獣様が、良いと」
少し考え、そう答えた。
どうせクロウがここにいる事はバレている。
とりあえずボカシて伝えると、王子様は少しだけ残念そうに「そうか」と苦笑した。
愛馬と意思の疎通が出来ると期待したのだろうか。
悪いけど、俺も直接話せなくて残念だから我慢してくれ。
「・・・プルームは鼻面と首を撫でられるのが好きなようだ。撫でてやってくれ」
数秒、見つめあい、やがて諦めたように王子様が言った。
掴まれた手をそのままに上げると王子様の手は離れた。
ユニコーンの顔を撫でると、もっとと言うように少しだけ押される。
顔を下ろしてくれたので太い首も強めに撫でると、ブフンと鼻を鳴らして側頭部に頭を擦り付けられた。
ああ、かわいい・・・。
きちんと手入れがされているらしいこの子は毛並みもツルツルで艶々。
「可愛くて、頭がいい子なんてお前最高じゃん」
「・・・プルームは、私以外には馴れないと思っていた」
どうやら質問の答えを誤魔化した事は不問にしてくれるらしい。
ひとしきり撫でて俺もユニコーン・・・プルームも満足した頃、ずっと俺の腰にあった王子様の手がやっと離れた。
「城に帰還しよう。私が先に騎乗して引き上げるから少し待ってくれ」
王子様は長い足を高い位置にある鐙に掛けひらりと一息に騎乗し、そして、俺に手を伸ばす。
いや、俺一応大人だからそこそこ体重あるんだけど。
「俺、軽くないですよ?」
「大丈夫だ。手を伸ばして」
美形の爽やか笑顔が眩しい。
手を重ねると、ふわっと自分のではない魔力に包まれた。
そのままグイっと上に引き上げられ、王子様の前に座らせられる。
王子様は風魔法の使い手か。
「ほら、大丈夫だっただろう」
「・・・そうですね。ありがとうございます」
しかし・・・この手は少し嫌かも。
手綱を持つ手とは逆の腕が俺の腰を抱くように回っている。
落ちないようにしてくれているんだろうが、さっきといい今といい俺は男にバックハグされる趣味は無いんだよな・・・。
女子なら、こんなイケメンにこんな事されたらすげえ喜ぶんだろうけどね。
生憎と俺には嬉しくないシチュエーションだわ。
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