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30 移動手段

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俺達の事を詮索しない。

俺達を拘束しない。


「この二つを守って頂けるなら城へ行きます。
でも、殿下以外、他の方々と接触するつもりはありません」


この王子様には神獣の加護がある。王家の血筋にだろうか。
姿は辛うじて見えるが、声も聞こえないくらい薄くなって弱くなっている加護が。
それは加護を与える神獣の寿命が残り少なくなっているという証。
クロウが、その神獣を気に掛けている。
だから、確かめに行くだけだ。


「・・・陛下には会ってもらえるだろうか」

「俺は平民ですよ。
王様に謁見など出来ません」


今さっき他の人間には会わないと言ったばかりなのに何を言ってるんだ。


「・・・分かった」


王子様は俺とクロウを見つめ、ぐっと唇を噛み頷いた。

聞きたい事は沢山あるだろう。言いたい事も。

クロウによれば、聖女と神の使いの話は伝説として小さい子が見る絵本や小説、学術書まで多岐に渡り出ているらしいが、どれも憶測の域を出ないらしい。
加護持ちの王子様は当然神獣の存在を知っていたし、歴史についても真実を知っているだろうが、だからこそ自分はクロウの声が聞こえないのに、どう見ても平民の俺がクロウと会話をしている事に驚き戸惑っているようだ。
だからといってこちらから何か言うことは無いけれど。




















ここから王城までは少し距離があるらしい。


「馬には乗れるか?」

「いいえ」


聞かれて、即答した。
『我に乗るか?』とクロウが言ってくれたけど、他の人にクロウの姿は見えないわけで。そうなると俺一人で浮いてるように見えちゃうから遠慮した。
魔法で飛ぶという手段は最初から考えていない。
森の外に出たなら乗り合いのバスならぬ馬車か何かあるだろうし。 
王子様には後で取り次いでもらえばいいだろう。
無理ならクロウだけでも城に・・・

考えていると、ポンと肩に大きな手が置かれた。


「では、相乗りしかないな」

「そうですね、適当な馬車に―――」「私の馬にだ」


・・・――――はい?


「それは」


って、話を聞けよ!


「私の馬を連れてきてくれ。城に戻る」


俺の「遠慮します」の言葉を聞かないまま、通信機だろうか?手首に付けた時計のようなものに向かって話している。


『通信の魔法具だな。冒険者や騎士は皆つけている』


俺がじっと見ているのに気付いたクロウが教えてくれた。
そうか、携帯電話の代わりにこういうものがあるんだ。


「通信具が気になるのか?」


俺を逃がさないようにする為なのか、肩から腰に手が回りぐっと引き寄せられた。
距離が近すぎる。
そして、体格差がありすぎてすっぽり腕の中に入ってしまう自分が少し悔しい。
そんな俺を知ってか知らずか、この王子様はまるで後ろから抱くようにもう片方の腕を俺の前に回してきた。
だから、距離が近いんだって!


「馬が来るまで少しかかるから、気になるなら説明しよう。
持っていないのだろう?」

「それは、はい」


そんな物必要なかったし。
これからも誰かと一緒に活動する予定も無いから必要ない、と言う前に王子様は説明を始めてしまう。
・・・さっきから、実は狙っているのか?


「これは騎士団仕様で、市販されているものとは少し違うが―――」


通信具を付けた左腕を俺の目の前まで持ち上げ、説明をする王子。
正面で機械を見られるから確かに分かりやすいのだがしかし。
もう本当に、この体勢はなんだよ。
俺を抱く右腕は腰に回り、大きな手が腹の上まできていた。
そして、ちょっとこれはゾワゾワする。
体勢的にそうなる事は分かるのだが、王子が言葉を発する度、耳に息が掛かるのだ。
低くて柔らかい声は耳馴染みがよくて聞きやすいが、これはちょっと・・・。
早く、馬来い!



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