聖女じゃないのに召喚された俺が、執着溺愛系スパダリに翻弄される話

月湖

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「・・・すまないが、ここでは都合が悪い。
城の、私の執務室まで来てもらえないだろうか」



目の前の男はそう言って頭を下げた。
後ろに控える騎士が焦った顔で「殿下っ」とか小さく叫んでる。
まぁあ?王位継承権を放棄したとはいえ王子様が、どう見ても平民な俺に頭を下げるなんてあっちゃいけない事なんだろうし。
王族の身体に無暗に触れる事も出来ず「殿下がそのような事をしてはっ」とオロオロする騎士と、それに構わず俺に向かって頭を下げ続ける王子様。
を暫く黙って見ていると、何度言っても頭を上げない王子様の態度にこれ以上言うのを諦めたのだろう騎士が、今度は俺の方に顔を向けた。
王子様の手前言葉は口にせずともその目は「お前がどうにかしろ!」と言っていた。
こっちにも都合というものがあるというのに。
しかしずっと頭を下げたまま俺の返事を待っている王子様をこのままにしておくわけにもいくまい。
大きくため息をつき、王子様に声を掛けた。



「とりあえず頭を上げてもらえますか。
俺なんかに頭を下げちゃ騎士さんが焦ってますよ」

「・・・分かった」


そして漸く王子さまは頭を上げた。
さて。
城にだっけ?
これ素直に行ったら絶対面倒に巻き込まれるパターンじゃないか?
下手したらこのまま拘束、監禁コース・・・。
でもなー・・・。
クロウの為だし。
実際問題神獣の話なんてその辺の食事処とかで話せる内容じゃない事は、異世界初心者の俺にだって分かるよ。
ましてや世界の均衡を保つ為の存在が特定の国だけを守護してたとかなんて、おいそれと口に出していい事じゃない。


はあ・・・。
仕方ないのか。
チラッとクロウを見ればすぐに視線に気付いて手の甲に頭を擦り付けてきた。
面倒事に巻き込んでごめん、ってとこか?
その仕草に苦笑して見せ、首の後ろをグリグリ撫でるとクロウの喉がグルグル鳴った。
ここ、気持ちいいのか。
神獣でもやっぱ猫科なのか?
おでこから首、耳の付け根と強めに撫でると気持ち良さそうに目を細める。
二等辺三角の耳先からシュルっと伸びる毛は洋犬のパピヨンのようで、しなやかでカッコイイ漆黒の獣身の中そこだけが少し可愛らしくてコッソリ俺のお気に入りだったりする。
少しの間そうしてクロウに構っていると、おずおずと声が掛かった。


「・・・その、神獣様も来て下さるだろうか」


とても困惑した表情の王子様がこちらを見ていた。
ああ、すっかりクロウの毛並みに夢中になってしまった。


「神獣様も一緒に行きますよ。
その前にいくつか約束して頂きたい事がありますが」


敵、という訳では無いがこのままホイホイついて行って拘束されたりなどしたらたまったものではない。
俺のセリフにまた騎士さんが王子になんて口をと気色ばんだけど、保身の為だ知ったことか。


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