聖女じゃないのに召喚された俺が、執着溺愛系スパダリに翻弄される話

月湖

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28 神獣という存在・アルブレヒト

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「話をしましょう」


神獣様を従えるように立つ少年は、とても嫌そうな表情でそう言った。

死を覚悟する程の重症だった私が一晩で走れるようになる程の、桁外れな、神殿の神官を遥かに凌ぐ治癒魔法と、恐らく聖魔法を使うこの少年。
初代聖女と同じ、極めて珍しい黒髪の・・・。
元はと言えば私が話をしたくて逃げる彼を追いかけたのだが。
只者ではないと思ってはいたが、まさか神獣様を従えているとは・・。
しかも、彼は神獣様と意思の疎通までしているようだ。

王城におられる神獣様は、姿はあれど何かを伝えて下さる事は無い。
あるのは聖女と神獣様が交わされたという契約の伝説のみ。
正式な文書などが残っている訳では勿論なく、せいぜいが後に書かれた覚え書があるだけ。
我が国に災害が及ばぬよう見守る大きな存在があるという、内容など有って無いような。
だというのに。

これは、どういう事なのだろう。
父上は神獣は国を守護するものではなく見守るものなのだと言っていた。
五歳のお披露目の時、お姿を拝見したのはその唯一度だけ。
父上も同じ。
話掛けるなど恐れ多い。
神獣とは、そういうものだと思っていた。
王家を、国を見守る存在であり、願いを叶える存在ではない。
初代聖女がどうだったかの詳細な記録は無いが、彼女は神獣様と仲睦まじく過ごしていたとまことしやかな伝説はある。
しかし建国以来の王家の記録では神獣と意思の疎通を成した者はいない。世界最古と謂われる我が国の、誰一人として。

だが神獣様がおられるおかげか、我が国は初代聖女降臨からこの千年、大きな災害に見舞われたことは無い。
天候悪化による干ばつや洪水などは何処の国にも数年から十数年に一度はある事であり、それは我が国も同じで勿論その対策もしている。
だが我が国が周辺各国と違う事が一つだけある。
それは天災と同じく数年から十数年に一度起こるスタンピードと呼ばれる魔獣の大襲来が一度も無い事。
一度起こると通り過ぎた後には瓦礫と死体の山が築かれ、各国の軍を以てしても簡単には制圧出来ない。
スタンピードの発生で王都まで魔獣が押し寄せ、王家が滅んだ国もあるほどの最悪の災厄。
どの国もそれを防ぐ為普段から騎士団やギルドに魔獣狩りを依頼し、芽は摘んでいる筈なのにそれはある日突然起こるのだ。
それが、聖女降臨以来一度も無い。
世界一広大と言われる東の森を擁しているというのに。
それはまるで奇跡。
その事実こそが神獣様の加護の証だと、たとえ20年顕現されていなくとも王家では神獣様を尊ぶ。

・・・そう、20年顕現が無い。

記録を見れば、5代前、400年程前まではもう少し頻度があったらしいが、この200年は五歳の披露目と成人の儀の式典の中一瞬だけ。私と父の代には5歳の披露目の時だけの顕現のみ。エドワードの時には顕現すらなされなかった。
―――なのに、目の前の神獣様は・・・。
訊きたい事はいくらでもあるのだが、ここでは駄目だ。
人目があり過ぎる。


「・・・すまないが、ここでは都合が悪い。城の、私の執務室まで来てもらえないだろうか」
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