聖女じゃないのに召喚された俺が、執着溺愛系スパダリに翻弄される話

月湖

文字の大きさ
上 下
25 / 65

25 囚われた心・アルブレヒト

しおりを挟む
夜明けにあの少年?青年?に置いて行かれてから少しの間は身体に力が入りにくかったが、それでも全く動けないわけではないし、枯渇しかけていた筈の魔力も殆ど戻っていた。
これは、本来ありえない事・・・。

魔獣にやられた傷は普通の回復魔法だけでは癒せない。
聖魔法で浄化を繰り返し、完全に闇の気配を除去しなければ傷は直ぐに膿みだし闇に呑まれて最悪魔獣化してしまうのだ。
昨日の傷は、聖魔法に長けた者が数人がかりで最低でも2、3日掛けて浄化をするような大きな怪我だった。
それが・・・。

俺を癒してくれたのだろうあの少年を探しに追いかけたが、周囲をどれだけ探索してもどこにも見当たらず、意気消沈しながら森を出ようと出口へと向かった。
今回の遠征も、魔獣の討伐はそこそこ出来たが神の森についての収穫は無い。
しかも昨日のザマだ・・・。
不甲斐ない自分に腹が立ってしょうがない。

暫く歩き森を出れば、先に戻らせた部下が待っていた。
多少の負傷は仕方がないがとりあえず無事な姿を見て安心する。
無謀な事に付き合わせている自覚はあるのだ。
頻繁に森に入れない代わりに、数日を掛け冒険者たちよりも深く入り調査する。
そう、調査だ。
表向きも裏向きも調査の名目で森に入る。
ただ対象が違う。
部下達には魔獣の生息の調査と討伐と伝えてある。
勿論これも魔獣の脅威を測る上でとても重要な案件だ。
この調査の結果を以って森へ侵入できる冒険者のランクを決め派遣するのだからこちらの調査も疎かには出来ないが、はっきり言ってしまえば『私』が出る程の案件ではないのが実情だ。
そろそろ部下も訝しんでいる事だろう。何故私自ら森に入るのか。
毎年数人の冒険者が魔獣にやられて重傷を負い下手をすれば命を落としている。
そんな場所へ王宮騎士団長であり現王の弟である私自ら赴くなど、普通ではありえないのだ。
それでも私自ら森に入る理由はただ一つ。
伝説として残る神獣を探しその力に縋る為だ。
闇より実体化した魔獣なら誰にでも見え、戦う力があれば応戦出来る。
それ以外、神獣や精霊の類は、魔力量が一定のレベルを超えそれらに認められた者でないと、姿を見るどころか気配すら感じられないのだ。
現在、私以上に魔力がある者はこの国にいない。
確率的には、私が一番高い。


幼き頃、一度だけ見た事がある神獣は大きな金色の孔雀の姿をしていた。
あれは私の五歳のお披露目式典の時だ。
玉座に座る父上の頭の上に『それ』がいた。
父上の前に向かい合うように立ちながら、合わない視線に父上は苦笑していた。
父には私が何を見ているのか分かっていたのだろう。


「アルブレヒト、私の戴冠姿は珍しいだろうが今はこちらを見よ」


あの後、父上はあれが王家を見守る神獣なのだと教えてくれた。
王族でも見える者と見えない者がいるという。
父は私も一度しか見た事は無いがと前置きし、強く言われたのは『守護』ではなく『見守り』或いは『監視』なのだという事。
神獣はその名の通り神の使い。
人の営みに係ることは無いが、世界の番人として愚かな真似をする者あらば情け容赦なく罰を下すと。

私の行いが王族として相応しいものではなく、とても傲慢なものだというのは重々承知している。
一国の王子であり騎士団長である私が、現王の第一王子とは言え甥の為だけに部下を連れ危険な森に入るなどあっては無らない事。
王城から我が国を見守る神獣にはどう見えているのだろうか。
罰は・・・下るだろうな。
それでも今は神獣に縋るしかない。
手立てはもう無いのだ。
あの子の命が消える前に、どうか・・・。

検問所を出る前に森を振り返り、薄暗い森を見る。
次はいつ入れるだろうか。
早いうちに少しでも手掛かりを見つけなければ・・・。
目を閉じ、拳を強く握る。
次こそは・・・。
決意と共に目を開け、前を向く。


部下は一人も欠けずに待っていた。
どうやら怪我の程度はそれほどでもなかったらしい。これならば神殿に向かうほどではない。
傷口の浄化の為早々に城に戻らねば。
昨日の怪我を知っている者は私が普通に歩いていることに驚いていたが、説明は後だ。
早々に城に帰還し兄上に今回の報告をしなければ。
・・・あの少年の事は、どうするべきか・・・。
確信はしているが、彼が魔法を使う現場を見たわけではない。






・・・・・・・本当は気付いている。
彼を誰の目にも触れさせず私だけのものにしてしまいたいと。
あの一瞬で、私の心は囚われてしまった。
日を浴びてさえ黒く艶めく髪と、あの瞳に。

彼は今どこで何をしているのだろう。
迷いもなく森の中を歩いて行ってしまったところを見れば、まだ森にいるのだろうか。





―――――「・・ょう? 団長? 大丈夫ですか?」


「あ? ああ、何でもない。出るか」

「はっ!」


報告の内容を考えるつもりが物思いに耽ってしまい心配されてしまった。
まあ、昨日怪我を見てしまっている部下だ、仕方がない。
大丈夫だと頷き検問所を抜ける。
肩が大きく破れた服に驚かれたが、それにも心配無いと返した。


・・・本当に、致命傷に成り得た傷が跡形も無い。
神の領域とも言うべき程の浄化と治癒。
・・・確実に報告案件なのだがな・・・。


これは推測でしかないが、彼は私を助けるべくして助けたわけではないのだろう。
ただ、成り行きで・・・。そうでなければ結界も無い中森の中に置き去りにはしないだろう。
そうだ、結界・・・。
私は結界石を使った筈。
意識が朦朧として、きちんと作動するところまでは確認してはいないが魔力を込めたところまでは覚えている。
彼には、王家の有する結界石で張った結界をも壊す力があるという事か・・・?
やはり、報告せざるをえないか。

心の内でため息をつきながら、とりあえず落ち着いたところで負傷した部下の様子を見る為に見張り小屋に向かう。
その時だ。

小屋から出てきたのは――――。


「待ってくれ・・・っ!!」


頭を下げ、踵を返した瞬間から走り出した彼に、力の限り叫んだ。

しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...