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25 囚われた心・アルブレヒト
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夜明けにあの少年?青年?に置いて行かれてから少しの間は身体に力が入りにくかったが、それでも全く動けないわけではないし、枯渇しかけていた筈の魔力も殆ど戻っていた。
これは、本来ありえない事・・・。
魔獣にやられた傷は普通の回復魔法だけでは癒せない。
聖魔法で浄化を繰り返し、完全に闇の気配を除去しなければ傷は直ぐに膿みだし闇に呑まれて最悪魔獣化してしまうのだ。
昨日の傷は、聖魔法に長けた者が数人がかりで最低でも2、3日掛けて浄化をするような大きな怪我だった。
それが・・・。
俺を癒してくれたのだろうあの少年を探しに追いかけたが、周囲をどれだけ探索してもどこにも見当たらず、意気消沈しながら森を出ようと出口へと向かった。
今回の遠征も、魔獣の討伐はそこそこ出来たが神の森についての収穫は無い。
しかも昨日のザマだ・・・。
不甲斐ない自分に腹が立ってしょうがない。
暫く歩き森を出れば、先に戻らせた部下が待っていた。
多少の負傷は仕方がないがとりあえず無事な姿を見て安心する。
無謀な事に付き合わせている自覚はあるのだ。
頻繁に森に入れない代わりに、数日を掛け冒険者たちよりも深く入り調査する。
そう、調査だ。
表向きも裏向きも調査の名目で森に入る。
ただ対象が違う。
部下達には魔獣の生息の調査と討伐と伝えてある。
勿論これも魔獣の脅威を測る上でとても重要な案件だ。
この調査の結果を以って森へ侵入できる冒険者のランクを決め派遣するのだからこちらの調査も疎かには出来ないが、はっきり言ってしまえば『私』が出る程の案件ではないのが実情だ。
そろそろ部下も訝しんでいる事だろう。何故私自ら森に入るのか。
毎年数人の冒険者が魔獣にやられて重傷を負い下手をすれば命を落としている。
そんな場所へ王宮騎士団長であり現王の弟である私自ら赴くなど、普通ではありえないのだ。
それでも私自ら森に入る理由はただ一つ。
伝説として残る神獣を探しその力に縋る為だ。
闇より実体化した魔獣なら誰にでも見え、戦う力があれば応戦出来る。
それ以外、神獣や精霊の類は、魔力量が一定のレベルを超えそれらに認められた者でないと、姿を見るどころか気配すら感じられないのだ。
現在、私以上に魔力がある者はこの国にいない。
確率的には、私が一番高い。
幼き頃、一度だけ見た事がある神獣は大きな金色の孔雀の姿をしていた。
あれは私の五歳のお披露目式典の時だ。
玉座に座る父上の頭の上に『それ』がいた。
父上の前に向かい合うように立ちながら、合わない視線に父上は苦笑していた。
父には私が何を見ているのか分かっていたのだろう。
「アルブレヒト、私の戴冠姿は珍しいだろうが今はこちらを見よ」
あの後、父上はあれが王家を見守る神獣なのだと教えてくれた。
王族でも見える者と見えない者がいるという。
父は私も一度しか見た事は無いがと前置きし、強く言われたのは『守護』ではなく『見守り』或いは『監視』なのだという事。
神獣はその名の通り神の使い。
人の営みに係ることは無いが、世界の番人として愚かな真似をする者あらば情け容赦なく罰を下すと。
私の行いが王族として相応しいものではなく、とても傲慢なものだというのは重々承知している。
一国の王子であり騎士団長である私が、現王の第一王子とは言え甥の為だけに部下を連れ危険な森に入るなどあっては無らない事。
王城から我が国を見守る神獣にはどう見えているのだろうか。
罰は・・・下るだろうな。
それでも今は神獣に縋るしかない。
手立てはもう無いのだ。
あの子の命が消える前に、どうか・・・。
検問所を出る前に森を振り返り、薄暗い森を見る。
次はいつ入れるだろうか。
早いうちに少しでも手掛かりを見つけなければ・・・。
目を閉じ、拳を強く握る。
次こそは・・・。
決意と共に目を開け、前を向く。
部下は一人も欠けずに待っていた。
どうやら怪我の程度はそれほどでもなかったらしい。これならば神殿に向かうほどではない。
傷口の浄化の為早々に城に戻らねば。
昨日の怪我を知っている者は私が普通に歩いていることに驚いていたが、説明は後だ。
早々に城に帰還し兄上に今回の報告をしなければ。
・・・あの少年の事は、どうするべきか・・・。
確信はしているが、彼が魔法を使う現場を見たわけではない。
・・・・・・・本当は気付いている。
彼を誰の目にも触れさせず私だけのものにしてしまいたいと。
あの一瞬で、私の心は囚われてしまった。
日を浴びてさえ黒く艶めく髪と、あの瞳に。
彼は今どこで何をしているのだろう。
迷いもなく森の中を歩いて行ってしまったところを見れば、まだ森にいるのだろうか。
―――――「・・ょう? 団長? 大丈夫ですか?」
「あ? ああ、何でもない。出るか」
「はっ!」
報告の内容を考えるつもりが物思いに耽ってしまい心配されてしまった。
まあ、昨日怪我を見てしまっている部下だ、仕方がない。
大丈夫だと頷き検問所を抜ける。
肩が大きく破れた服に驚かれたが、それにも心配無いと返した。
・・・本当に、致命傷に成り得た傷が跡形も無い。
神の領域とも言うべき程の浄化と治癒。
・・・確実に報告案件なのだがな・・・。
これは推測でしかないが、彼は私を助けるべくして助けたわけではないのだろう。
ただ、成り行きで・・・。そうでなければ結界も無い中森の中に置き去りにはしないだろう。
そうだ、結界・・・。
私は結界石を使った筈。
意識が朦朧として、きちんと作動するところまでは確認してはいないが魔力を込めたところまでは覚えている。
彼には、王家の有する結界石で張った結界をも壊す力があるという事か・・・?
やはり、報告せざるをえないか。
心の内でため息をつきながら、とりあえず落ち着いたところで負傷した部下の様子を見る為に見張り小屋に向かう。
その時だ。
小屋から出てきたのは――――。
「待ってくれ・・・っ!!」
頭を下げ、踵を返した瞬間から走り出した彼に、力の限り叫んだ。
これは、本来ありえない事・・・。
魔獣にやられた傷は普通の回復魔法だけでは癒せない。
聖魔法で浄化を繰り返し、完全に闇の気配を除去しなければ傷は直ぐに膿みだし闇に呑まれて最悪魔獣化してしまうのだ。
昨日の傷は、聖魔法に長けた者が数人がかりで最低でも2、3日掛けて浄化をするような大きな怪我だった。
それが・・・。
俺を癒してくれたのだろうあの少年を探しに追いかけたが、周囲をどれだけ探索してもどこにも見当たらず、意気消沈しながら森を出ようと出口へと向かった。
今回の遠征も、魔獣の討伐はそこそこ出来たが神の森についての収穫は無い。
しかも昨日のザマだ・・・。
不甲斐ない自分に腹が立ってしょうがない。
暫く歩き森を出れば、先に戻らせた部下が待っていた。
多少の負傷は仕方がないがとりあえず無事な姿を見て安心する。
無謀な事に付き合わせている自覚はあるのだ。
頻繁に森に入れない代わりに、数日を掛け冒険者たちよりも深く入り調査する。
そう、調査だ。
表向きも裏向きも調査の名目で森に入る。
ただ対象が違う。
部下達には魔獣の生息の調査と討伐と伝えてある。
勿論これも魔獣の脅威を測る上でとても重要な案件だ。
この調査の結果を以って森へ侵入できる冒険者のランクを決め派遣するのだからこちらの調査も疎かには出来ないが、はっきり言ってしまえば『私』が出る程の案件ではないのが実情だ。
そろそろ部下も訝しんでいる事だろう。何故私自ら森に入るのか。
毎年数人の冒険者が魔獣にやられて重傷を負い下手をすれば命を落としている。
そんな場所へ王宮騎士団長であり現王の弟である私自ら赴くなど、普通ではありえないのだ。
それでも私自ら森に入る理由はただ一つ。
伝説として残る神獣を探しその力に縋る為だ。
闇より実体化した魔獣なら誰にでも見え、戦う力があれば応戦出来る。
それ以外、神獣や精霊の類は、魔力量が一定のレベルを超えそれらに認められた者でないと、姿を見るどころか気配すら感じられないのだ。
現在、私以上に魔力がある者はこの国にいない。
確率的には、私が一番高い。
幼き頃、一度だけ見た事がある神獣は大きな金色の孔雀の姿をしていた。
あれは私の五歳のお披露目式典の時だ。
玉座に座る父上の頭の上に『それ』がいた。
父上の前に向かい合うように立ちながら、合わない視線に父上は苦笑していた。
父には私が何を見ているのか分かっていたのだろう。
「アルブレヒト、私の戴冠姿は珍しいだろうが今はこちらを見よ」
あの後、父上はあれが王家を見守る神獣なのだと教えてくれた。
王族でも見える者と見えない者がいるという。
父は私も一度しか見た事は無いがと前置きし、強く言われたのは『守護』ではなく『見守り』或いは『監視』なのだという事。
神獣はその名の通り神の使い。
人の営みに係ることは無いが、世界の番人として愚かな真似をする者あらば情け容赦なく罰を下すと。
私の行いが王族として相応しいものではなく、とても傲慢なものだというのは重々承知している。
一国の王子であり騎士団長である私が、現王の第一王子とは言え甥の為だけに部下を連れ危険な森に入るなどあっては無らない事。
王城から我が国を見守る神獣にはどう見えているのだろうか。
罰は・・・下るだろうな。
それでも今は神獣に縋るしかない。
手立てはもう無いのだ。
あの子の命が消える前に、どうか・・・。
検問所を出る前に森を振り返り、薄暗い森を見る。
次はいつ入れるだろうか。
早いうちに少しでも手掛かりを見つけなければ・・・。
目を閉じ、拳を強く握る。
次こそは・・・。
決意と共に目を開け、前を向く。
部下は一人も欠けずに待っていた。
どうやら怪我の程度はそれほどでもなかったらしい。これならば神殿に向かうほどではない。
傷口の浄化の為早々に城に戻らねば。
昨日の怪我を知っている者は私が普通に歩いていることに驚いていたが、説明は後だ。
早々に城に帰還し兄上に今回の報告をしなければ。
・・・あの少年の事は、どうするべきか・・・。
確信はしているが、彼が魔法を使う現場を見たわけではない。
・・・・・・・本当は気付いている。
彼を誰の目にも触れさせず私だけのものにしてしまいたいと。
あの一瞬で、私の心は囚われてしまった。
日を浴びてさえ黒く艶めく髪と、あの瞳に。
彼は今どこで何をしているのだろう。
迷いもなく森の中を歩いて行ってしまったところを見れば、まだ森にいるのだろうか。
―――――「・・ょう? 団長? 大丈夫ですか?」
「あ? ああ、何でもない。出るか」
「はっ!」
報告の内容を考えるつもりが物思いに耽ってしまい心配されてしまった。
まあ、昨日怪我を見てしまっている部下だ、仕方がない。
大丈夫だと頷き検問所を抜ける。
肩が大きく破れた服に驚かれたが、それにも心配無いと返した。
・・・本当に、致命傷に成り得た傷が跡形も無い。
神の領域とも言うべき程の浄化と治癒。
・・・確実に報告案件なのだがな・・・。
これは推測でしかないが、彼は私を助けるべくして助けたわけではないのだろう。
ただ、成り行きで・・・。そうでなければ結界も無い中森の中に置き去りにはしないだろう。
そうだ、結界・・・。
私は結界石を使った筈。
意識が朦朧として、きちんと作動するところまでは確認してはいないが魔力を込めたところまでは覚えている。
彼には、王家の有する結界石で張った結界をも壊す力があるという事か・・・?
やはり、報告せざるをえないか。
心の内でため息をつきながら、とりあえず落ち着いたところで負傷した部下の様子を見る為に見張り小屋に向かう。
その時だ。
小屋から出てきたのは――――。
「待ってくれ・・・っ!!」
頭を下げ、踵を返した瞬間から走り出した彼に、力の限り叫んだ。
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