聖女じゃないのに召喚された俺が、執着溺愛系スパダリに翻弄される話

月湖

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23 未成年・・・?

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ガサガサと植物を分け入り近付いてくる気配に、ハルカは覚悟を決めた。

徹底的に誤魔化そうと。

覚悟とはそんなものかと言うなかれ。
長年武道をやってきて、尊敬する師匠の教え通り清く正しく強く生きてきた。
まあ、高校生を過ぎたあたりからはそれに「ソコソコ」と注釈は付いてしまっているけれども。
それでも嘘や誤魔化しは極力しないで生きてきた方だと思う。

けれども!そんな俺でも!
さすがに分かるよ。

異世界から来て、神様に色々チートな能力もらって森に落っことされましたなんて、正直に言っちゃダメだという事くらい。
到底信じられるわけないだろ。
勝手に森に入ったと詰られ、更には嘘つき呼ばわりされて下手すりゃ罪人扱いされるのがオチだ。


「クロウの姿は余程魔力のある人にしか見えないんだよね?そばにいてくれるか?」

『勿論だ』

「ありがと、クロウ。じゃあ、行くよ?」

『ああ』


見張りの男がこちらに付くまであと10メートル程か。
俺は目の前の草木を分け、1歩前に出た。


「すみません、あの、迷ってしまって・・・」


出来るだけ困ったような声で。
出来るだけ心細そうに見えるよう眉を下げ、上目遣いで男を見る。
見張りの男は俺よりずっと背が高くて、意識しなくても上目遣いになっただろうけど。


「お前は・・・」


もう数メートルしか離れていない男はそんな俺を見て、何故かそこで固まった。


「・・・」


じっと、というより、なんか驚いているような?


「あの・・・?」

「ああ・・・子供がこんなところで何してる?」


声を掛けると、男はハッとして立ち直るも、なんか言う事おかしくないか?
聞き間違いでなければ俺に「子供が」って言ったような?


「子供って・・・俺一応26歳なんですけど・・・」

「26ならまだ子供だろう。迷い込んだって?
森の中は危険だからこっちに来なさい」

「・・・はい」


険しかった男の表情が一転、心配そうなものになる。
え?これマジなの?
あの適当な話を信じてくれた?
つーか俺本気で子供扱いされてんの?
確かに目の前の男は2メートル以上ありそうな大男で、身体の幅も厚みも俺の倍近くある。
この人から見たら177センチ62キロの俺は子供に見えても仕方がない・・・のか?
日本人は特に若く見えるらしいと聞いたことはあるけれど。

そんな事をぐるぐる考えていると


『この国の成人年齢は30歳だ』


ボソリとクロウが教えてくれた。


「マジか」

『ああ』


マジかー・・・。
えー。
俺、あっちでバリバリ働いて、部長に「そろそろ主任かな?」なんて言われてたんですけど?
それなのにこの世界じゃ俺ってまだ未成年?
なんか、都合がいいっちゃいいけど、すげえ複雑・・・。


「事情は後で聞くことにして、とりあえず森から出よう」


ぬぼーっと立ち尽くしてた俺にその人は何を思ったのかゆっくり俺の側まで来て、目線を合わせるように少し屈んだ。
ポンと頭にデカい手が乗り、少し乱暴にわしゃわしゃ撫でられた。


「森は暗くて怖かっただろう?
無事に出てこられてよかったな」


にかっと笑顔を見せられ、確信する。
あー・・・これ本気で子供扱いだ。

「ついておいで」と言われるまま男の後ろを歩き検問所を抜けると、脇にある小屋の中に入れられた。
中には他に二人の男がいて、一人は何というか、外国の王宮の警護をしている人のような所謂騎士服を着ていて、もう一人は俺と同じようなラフな服装の上に革製だろう胸当てなどの軽鎧を身に着けている。
どちらもゲームでは見慣れた感じだ。
俺を森から連れ出した男は揃いの騎士服を着ている。
調度交代の時間だったのだろう、中にいた二人が出ていき俺を森から連れ出した男が残った。
「一応、決まりだから」と椅子に座らされ、何を言う間もなく尋問が開始される。


「迷い込んだって言ってたけど、森の近くで冒険者ごっこでもしてたのかい?」


成人が30で今の俺が26。地球換算なら17、8ってとこだろう。
尋問と言いながら、目の前の男の俺への接し方はドラマの刑事のように刺々しさは全く無く、なんというか、大人が小学生に話すような優しーい感じ。
イキってる若者なら逆切れして突っかかるとこだろう。
俺はしないけどね。

しかし、どうしたもんかな。
迷い込んだと適当に言ったものの、そもそもこっちの世界に来てからずっと森で過ごしていて、この世界がどういう所なのかをまず知らないから深いところを突っ込まれるとすぐボロが出る。


「えっと、食糧になりそうな物を探してて・・・なんでか分からないけど、森に入っちゃってました」

「・・・そうか。家の手伝いかい?冒険者登録は?」

「家族はいなくて・・・。冒険者登録はこれからしようと思っています。
すみません、皆さんにご迷惑かけて」


言葉と共に机ギリギリまで深く頭を下げる。
反省する姿を見せるのは大事だよな。
頭を上げると、目の前の騎士は指先でこめかみをグリグリ揉みこみ、次いでハアーッと大きくため息をつくと困ったように俺を見た。


「まあ、入っちゃったもんは仕方ない。意図的に入った訳では無いのだろう?」

「それは、はい」

「なら、罰せられる事は無いから安心しなさい。
しかし・・・気付かず森に入れてしまった事は問題だな」


罰せられる事は無い、で一瞬安心したものの続いた騎士の言葉にギクッとした。


「君が最初にいたところはどこだい?
森に入れてしまったという事は、結界が切れている場所があるという事なんだ」


そうだよな・・・。
このくらいで胡麻化されてくれるような見張りならこの国が心配になるけど、やっぱり「すみませんでした、もうしません」で解放される訳なんてないよなー・・・。
さて、どうしよう・・・。

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