聖女じゃないのに召喚された俺が、執着溺愛系スパダリに翻弄される話

月湖

文字の大きさ
上 下
18 / 65

18 衝撃的な出会い

しおりを挟む

『出るぞ』



「うん」



目を凝らせば神の森と向こうを隔てる結界が見える。

ゴク、と唾を飲み込み一歩足を踏み出せば一瞬だけふわっと空気の壁のようなモノを感じたけれど、もう一歩足を出すと呆気なく結界を超えられてしまった。



「・・・こっちの方が、暗い森だな」



神の森よりも鬱蒼としていて、空気もこちらの方が重い気がする。

これが普通の森の姿なのだろう。

神の森も木々は沢山あったけれど全体的に少し明るくて、慣れてしまえば恐怖など一切無かった。

出てきて初めて神の森は特別な場所なのだと実感する。

たった一人森に落とされた時はなんて奴だと爺さん神さんをちょっと恨めしく思ったけれど、今になってちゃんと庇護されていのだと感謝の思いでいっぱいになった。

しかし、そんな思いに耽る間もなくクロウから低い声が掛かる。



『ハルカ、気を付けろ。狼の匂いがする』



「っ!」



『来る!右だ』



構える間もなく、獣が木々の間から飛び出し俺を狙って牙を剥いた。

大きく跳躍した獣の鋭い爪が目の前に振り下ろされる。



「っ!ごめんっ!」



バリアを張ると同時に雷撃を放つ。

バリバリッ!と、静電気よりも強い電気が獣の体を通り抜け、一瞬後、灰色の大きな狼の体がドオンと地面に崩れ落ちた。



「・・・殺しちゃった?」



心臓がうるさい程に早く打っている。

殺そうと思って雷撃を放った訳ではない。

けれど、あんなに強い電気を浴びて動物は生きていられるものだろうか。

パチッパチッと電気の名残が残る狼の体に触れる勇気は無い。

でも、死んでいるのだとしたらこのまま放っておくのは多分良くない。

闇に取り込まれれば魔物化してしまう。



「どうしよう・・・」



途方に暮れていると、そんな俺を宥めるようにクロウが大きな頭をズリズリと腰に擦り付けてくる。



『大丈夫だ。こやつは生きておるよ。

気絶しているだけでそのうち目覚めるだろうから、今のうちに離れるとしよう』



「ホントか?」



『我はハルカに嘘はつかぬよ。ハルカ、少し急ぐ。我の背に乗れ』



「あ、うん。ありがと」



ほっとしたのもつかの間、ブフッと狼の口から息が漏れてビクっと身体が強張る。

慌ててクロウの背に乗り首に掴まると『行くぞ』と一声がありすぐに走り出した。

みるみる離れていく狼との距離に再び襲われる不安は薄れていくけれど、さっきの出来事はまだ覚悟の足らない自分への戒めのようにも感じて、きゅっと唇を噛んだ。



ここは神の森じゃない。

獣は自分の縄張りや餌場、家族を守るためにこちらに牙を剥いてくる。

それは獣の本能であり、自然な事だ。

やらなければやられてしまうのが普通の森だ。

あんな事があって実感もしたけれども。



「・・・やっぱり俺は、生き物を殺すのは慣れそうにないかも・・」



自分とクロウを守る為に、殺さなくてもせめて退けられるくらいにはならないととは思う。

結界魔法は使えるけれど、それではその結界を解除した途端に襲われるだろう。

とりあえず、殺さない程度の攻撃魔法を覚えなければ。



「ちょっとずつ頑張るから」



そう決意を新たにしたのに。



『なるべく早くに街に出よう。

望まぬ戦いでハルカの心が傷ついてゆくのは我も辛い』



クロウの甘やかしに苦笑した。

森を出るまでは俺だって思っていた事だ。

実際、攻撃に慣れない俺が獣や魔物に襲われたとして、咄嗟に動ける自信は全く無い。

さっきはクロウが知らせてくれたからどうにかなったけれども。



「クロウ、ありがと。確かに、早く森を抜けた方が俺もクロウも心中穏やかに過ごせるよね」



『そうだろう』



「うん」



話している間ももの凄いスピードで森を駆け抜ける。

そうして、体感時間では1時間以上経っただろうか。

太陽も傾き始めているけれど目の前の景色は一向に変わらず360度全部森だ。

うーん・・・。



「・・・出るのが遅かったから、森の中で1泊しないといけないかな・・・」



『そうだな。暗くなる前に場所を探すか』



「うん」



少しスピードを抑え、家を置くのに楽そうな場所を探しながら進む。

いくら魔法で場所を空けられるといっても、木が混んだ場所では魔力も時間も消費してしまうから、出来るだけでも開けた場所が良いんだ。



















しかし、いくら進んでも景色はそれほど変わらなかった。





「・・・森、深いな。クロウ、疲れてない?」



『我は大丈夫だが、あと1時間程で日が暮れるな』



「もう、魔法でやっちゃおうか・・・」



さすがに獣が襲ってくる森で暗い中作業はしたくない。

クロウの背から降りて辺りに結界を張り、木々を動かして空き地を作る。

元々狭い間隔で生えていた木々は空き地の周りだけぎゅうぎゅうに詰まっていくが、一晩だけごめんと思いながらどんどん木を動かす。



「これで最後・・・っ?!」



家が楽に置けるスペースが空き、もういいかと最後の1本を移動させた瞬間、ビクっと身体が硬直した。



どうして、こんなところに・・っ?



「ク、クロウ・・っ」



無意識にクロウを呼ぶと、周辺の見回りに行っていたクロウがすぐに戻ってきてくれた。

俺は目の前にある現状が怖くて、クロウの首にしがみ付く。

身体がガタガタ震えてしかたない。



『ハルカ?! どうかし・・・これは、魔物にやられたか。・・・しかし気配が、ああ結界か』



クロウはぎゅうっとしがみ付く俺の頭にモフモフの頭を擦り付け、安心させるようにベロリと頬を舐めた。



移動させた木の隣の木の根元に、人が倒れこんでいた。

顔色は青白くておそらく元は綺麗な色だっただろう金の髪はところどころ泥と血で汚れている。

身体の周りには血がたくさん流れていて生死は分からない。



「・・・この人、生きてる?」



クロウにくっついたまま訊くと、クロウはじっとその人を観察し、そして頷いた。



『生きてはいる。

それより驚くべきは、こやつの周囲、それほど強力ではないが結界が張られておる事よ。

自分の力か、魔道具かは分からぬがどちらにしても只人ではあるまい』



魔道具とは、魔物から出た魔石の力で何かを成す道具の事だ。

魔石の用途は多岐にわたり、火をつけるとかの生活に使うものは、小さい、いわゆる屑石で賄う。

しかし攻撃や結界を張るなど魔力を多く使う魔法の補助にはそれなりの大きさや質の物が必要で、それは庶民が手に出来るほど安価ではない、らしい。



そして、彼を包む結界が彼自身で張っていた場合、こんな、気を失っている状態でそんな事が可能なのはかなりの魔力とレベルがある者だと推測出来るという。

どちらにしてもかなりの地位やそれなりの家の者であろうと。



どちらにしても関わると面倒くさそうだ。

だけど。



「このままにしておいたら、この人、多分、死んじゃうよな・・・?」



肩からべったりと血が付いて、かなりの怪我を負っているのが少し見ただけでも分かる。

でも、俺の治癒魔法は俺の体液にしか反応しないらしいから、この人に俺の治癒は使えない。

どうしたらいいんだろう・・・。

しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...