聖女じゃないのに召喚された俺が、執着溺愛系スパダリに翻弄される話

月湖

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15 決意

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ベッドと自身にクリーンを掛け、証拠隠滅してから少し横になる。

久しぶり過ぎた自慰は、思ったよりも体力を奪った。



「あー・・・疲れた・・」



目を閉じると、すうっと意識が遠くなる。

俺はそれに逆らわず体中の力を抜いた。































そして。



眩しくて目が覚めた。

どうやら朝らしい。



「・・・どんだけ寝たんだ」



『まったくだ』



「うぉっ!・・・クロウ、おはよう」



いつの間に帰ってきていたのか、ベッドの下で寝そべるクロウに挨拶をして、ステータスで時間を確認する。



「・・・午前10時48分。

・・・腹減った」



晩ご飯も朝ご飯もすっ飛ばして寝こけていたことになる。

グウ、と腹が鳴った。



『それだけ寝れば腹も減るだろう』



呆れた口調で言いながらこちらを見ているクロウもくあ・・と欠伸をしている。



「いつ帰ってきた?」



『夜が更ける前には帰ってきたぞ。

ハルカはよく眠っていたのでそのまま起こさなかったが。

移動中ずっと防御結界を張っていたから疲れたのであろう?』



「あー、確かに疲れてた、かも。

って、防御結界?」



そんなの張った覚えは無い。



『では無意識か?

恐怖を感じたりした場合にそうなる事もあるが』



「恐怖、・・・恐怖ねえ・・・。枝が当たったら怖いなとか?」



そんな事は思ったけど、そんなんで発動するのか?



『魔法というのは本人の感情に大きく作用されるものだ。

ハルカが恐怖を感じたのなら、自衛本能が働いたのだろう』



「・・・そんなもん?」



『そんなものだ。』



「そんなもんなのか・・・」



でもそれってさ。

ちょっとヤバくないか?

これから俺は人のいるところに行こうとしてる訳で。

世の中の人間が善人ばかりじゃない事は絶対的な事で。

恐怖を感じる事は多少なりともあるだろう。

その度に結界なんて発動させてたらその方が問題じゃないか?



「大丈夫か俺」



『大丈夫だ。自衛本能だと言っただろう。

この世界に慣れていけば恐怖を感じる事も少なくなるだろう』



・・・まあ、そんなもんだと思えるまでが大変だと思うが。

クロウが大丈夫だというなら信じておこう。

なんせこの世界での知り合いは今のところクロウしかいないのだ。

そうと決まれば。



「クロウも腹減ったよな。今リンゴ出すから」



帰ってからずっと俺の傍にいたのなら何も食べていない筈だ。

そう思って収納からリンゴを取り出すと、何故がクロウは気まずそうな表情をした。

(獣でも表情があるもんなんだと、クロウと一緒に過ごして初めて知ったよ俺は!)



『その事だがな・・・。

我は神の森にある魔力を取り込むだけで良いのだ。

神獣故生死があるわけではないから、本来食は必要とするものではないのだ。

気を使わせて済まぬな』



「えー・・・」



じゃあ、今まで食べてたのは?

疑問がそのまま顔に出ていたのだろう。

クロウは説明してくれた。



『そなたが手ずから捥いだリンゴンには僅かだがそなたの魔力が宿る。

そなたの魔力は純粋で我にとてもよく馴染む。人間でいうところの美味いという感覚だろうな』



「俺の魔力・・・」



『邪念が無いという事だ。魔物の魔力など食えたものではないぞ』



「魔物・・・って、やっぱいるんだ・・・」



『神の森には我や他の強者の神獣がおるから入ってはこれなんだが、外に出れば当然おる。

森の中で人が襲われるなど日常茶飯事だぞ。

その為に攻撃魔法の練習をしていたのではなかったのか?』



「え、あれは・・・」



基本全て興味と食糧確保の為とか言ったら呆れられるか?

でも真実だしな。



「俺のいた世界はとても平和で、生死を掛けて誰かと戦うなんてことは無かったんだよ。

俺が魔法の練習をしていたのは、日々の食べ物を探すためと、神様がどれだけの力をくれたのか確認するためだ。戦う為じゃないんだよ」



クロウに最初に会った時、なんでかクロウを雷で攻撃してしまった事に驚いて、思わずそこに放置してしまったくらいだ。

どうなったのかを見るのが怖くて。



『・・・この森を出れば、確実に魔物や獣と遭遇すると思うが』



大丈夫かと聞かれて素直に「多分大丈夫じゃない」と答える。



「怖いよ」



『・・・ずっと神の森にいれば良いのではないのか?』



そうすれば戦うことは無いし安全だといわれると、確かにその通りだ。

けれど。



「でも俺は、この世界で生きていかなきゃならないんだったら、やっぱりこの世界の文化と触れ合ってみたい。

怖くても、森の外の世界を知りたいんだよ」



魔物は、魔物というからには魔の物で、きっと恐ろしいモノだろう。

RPGのように呪文とボタンだけで攻撃出来て、後に残らないなら自身で攻撃したという意識も罪悪感も感じなくて済むと思うが、魔物はともかく獣はきっとそうはいかない。

なんせ、生きているのだから。

攻撃が当たれば当然血も出るだろうし命だって奪うことになるだろう。

元の世界でだって家畜の肉は食べてきた。

今更動物を殺して食べるなんて野蛮!なんて事は思わないが、自分で命を狩る事にはやはり忌避感がある。

・・・でも、この世界では。



「やらなきゃ、やられるんだよな」



『そうだ』



「・・・・・・」



幸い俺にはカミサマからもらった魔法がある。

剣やナイフで戦うことはきっとない。

弓だって、貫くのは矢だ。

いざとなれば防衛本能が働いて勝手に結界だって出るだろう。

うん。

・・・・・・うん。



「・・・出来るだけ、頑張る」



決意というには、弱々しい声が出た。
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