13 / 65
13 出発
しおりを挟む
朝からリンゴをもいで収納に入れる。
悪いと思いつつ、3本の木から30個ずつもらった。
他の果物もちょっとずつ多めにもらって、同じように。
「大丈夫なのか?こんなにもらって」
クロウに訊くと
『大丈夫だ。
ここの植物は魔力も育つ力として取り込んでおるから魔法で集めた水を与えてやるとまた実る。
ハルカの魔力が溶け込んだ水を与えられたら、この木々は喜んでまた実をつけるよ』
と答えが返ってきた。
『そもそもここの植物に外の季節は関係無い。
魔力が満ちていれば実をつける』
「そんなもんなのか?」
『そんなものだ』
「じゃあ、沢山もらった分、森に返していかないと」
俺は空に向かって両手を手を上げる。
そして願い、魔力を飛ばした。
「優しい雨よ、森に恵みを」
サァー・・・と浴びて気持ちいくらいの雨が降る。
それは小一時間降り続いて、森の木々の葉を濡らした。
・
そして、昼過ぎ。
「じゃあ、行こうか」
持ち物は特に無い。
家は収納に入れた。
その様子を見ていたクロウにちょっと呆れられた。
『神は下界の常識は知らぬようだな』
「・・・」
それは、俺の魔法が非常識という事でしょうか。クロウさん。
『まあ、そなたは人間だからの。ちゃんとした寝床があった方がよかろう』
「・・・まあね」
ちょーっと複雑な気分になりながらも、せっかく雨風凌げる持ち歩ける家があるのだからと、野営という選択肢は頭の隅っこに寄せた。
とりあえずはこの世界の人々と触れ合ってみて、あんまりにも常識から逸脱していたのならまたその時考えよう。
「この近くで比較的安全な国となるとどの方向になる?」
神の森の神獣様が世界の情勢に通じているか分からないが、生粋の地球産の俺よりは知っているだろうと訪ねると。
『東の国サランラークが良いだろう。神が最初に手掛けた国だ。気候も風土も人柄もそこそこ良いよ。
北の国テカラスは数年前に即位した王がロクデナシで、既に国内が荒れ始めているからやめた方が良い』
意外や意外、神獣様は世界の情勢にもの凄く詳しかった。
サランラークて、この世界の名前だったよな。
初めの国に世界の名前つけたのか。
分かりやすくていいけど、創世の国がずっと残ってるって結構凄い事だ。
人間は争う生き物だ。
地球の歴史の中で、戦争が無かった時代なんて無い。
どこかしらで人が殺しあって、国が喪失したり国境線が変わったりしていた。
サランラークというのは、どういう世界なのだろう。
『自分の目で見てみるが良いよ。
我は視るだけで基本的に森から出た事は無いし人の営みに関わることは無いから、人や国に対して特別思う事があるわけではない』
「え、じゃあ本当は俺と一緒に外の国に行くとかダメなんじゃね?」
『本体が離れても我は常に森と共にあるし、お前は神が森に落とした者だから共にあるのは構わないだろう。
それに、普通の人間に我の姿は見えぬから関係無い。
我等の姿が見えるのは我ら神獣と、我らが認めた者のみ。
余程魔力が強い者なら存在を感じ取れるかもしれないが。
ハルカは神がこの世界に降ろした者ゆえ、最初から我が見えたのだな』
だから初めて会った時は俺に攻撃されて驚いて油断した、と苦笑していた。
「ええ・・・じゃあ、周りに人がいる時にクロウと話してたら、俺ひとりでブツブツ喋ってるヤバい人間みたいに見えるって事?」
『そうだな』
クツクツ面白そうに笑ってるけど、笑い事じゃないし。気を付けないと。
初っ端から不審者扱いは勘弁してほしい。
誰かに会う前に教えてくれてよかった。
「サランラークって、どっち?」
『東だ。向こうだな』
クロウが顔を向けるけど、あっちもこっちもそっちもどっちも360度ぐるっと森だ。
「・・・魔法で道をあけてもらうしかないか」
えー・・・何キロくらいあるんだ?魔力もつのか?
『我の背に乗れ。ハルカなら許そう』
「俺、馬にも乗った事無いけど」
『首に手を回して掴まっていろ。落としはしない』
俺の呟きはスルーされ、足元に大きな体が伏せる。
「怖いんだけど・・・」
『大丈夫だ』
クロウが大丈夫でも、俺はそうじゃないんだって!
と思うが、俺がてくてく歩くよりクロウに乗せてもらって移動する方がずっと早く進めるだろう。
仕方なくクロウの背に跨ると、『立つぞ』と声が掛かり俺を乗せたままズオッと立ち上がる。
「うわ・・・っ」
太ももや脹脛の下で獣の硬い筋肉が動く感触が伝わり、落ちる恐怖で思わず足を締める。
『ちゃんとつかまっていろ』
言われて、太い首に腕を回し身体を寄せ、顔から胸、腹も全部くっつける。
すると。
「・・・・」
ちょっと、なー・・・。
大事なところが、大変な事になりそうな予感。
上半身全部をクロウの首から背にくっつけるという事は、当然その下だってクロウにくっついてるわけで。
身体の中心、股間に当たるのはクロウの身体の真ん中、即ち太い背骨。
クロウは身体が大きい分一つ一つの関節が大きくて、動く度にちょっと当たって地味にソコが痛い。
『行くぞ』
「ちょ、まって・・・うわあ・・・っ」
せめてタオルかなんか挟ませて、そういう間もなくクロウは森に向かって歩き出した。
悪いと思いつつ、3本の木から30個ずつもらった。
他の果物もちょっとずつ多めにもらって、同じように。
「大丈夫なのか?こんなにもらって」
クロウに訊くと
『大丈夫だ。
ここの植物は魔力も育つ力として取り込んでおるから魔法で集めた水を与えてやるとまた実る。
ハルカの魔力が溶け込んだ水を与えられたら、この木々は喜んでまた実をつけるよ』
と答えが返ってきた。
『そもそもここの植物に外の季節は関係無い。
魔力が満ちていれば実をつける』
「そんなもんなのか?」
『そんなものだ』
「じゃあ、沢山もらった分、森に返していかないと」
俺は空に向かって両手を手を上げる。
そして願い、魔力を飛ばした。
「優しい雨よ、森に恵みを」
サァー・・・と浴びて気持ちいくらいの雨が降る。
それは小一時間降り続いて、森の木々の葉を濡らした。
・
そして、昼過ぎ。
「じゃあ、行こうか」
持ち物は特に無い。
家は収納に入れた。
その様子を見ていたクロウにちょっと呆れられた。
『神は下界の常識は知らぬようだな』
「・・・」
それは、俺の魔法が非常識という事でしょうか。クロウさん。
『まあ、そなたは人間だからの。ちゃんとした寝床があった方がよかろう』
「・・・まあね」
ちょーっと複雑な気分になりながらも、せっかく雨風凌げる持ち歩ける家があるのだからと、野営という選択肢は頭の隅っこに寄せた。
とりあえずはこの世界の人々と触れ合ってみて、あんまりにも常識から逸脱していたのならまたその時考えよう。
「この近くで比較的安全な国となるとどの方向になる?」
神の森の神獣様が世界の情勢に通じているか分からないが、生粋の地球産の俺よりは知っているだろうと訪ねると。
『東の国サランラークが良いだろう。神が最初に手掛けた国だ。気候も風土も人柄もそこそこ良いよ。
北の国テカラスは数年前に即位した王がロクデナシで、既に国内が荒れ始めているからやめた方が良い』
意外や意外、神獣様は世界の情勢にもの凄く詳しかった。
サランラークて、この世界の名前だったよな。
初めの国に世界の名前つけたのか。
分かりやすくていいけど、創世の国がずっと残ってるって結構凄い事だ。
人間は争う生き物だ。
地球の歴史の中で、戦争が無かった時代なんて無い。
どこかしらで人が殺しあって、国が喪失したり国境線が変わったりしていた。
サランラークというのは、どういう世界なのだろう。
『自分の目で見てみるが良いよ。
我は視るだけで基本的に森から出た事は無いし人の営みに関わることは無いから、人や国に対して特別思う事があるわけではない』
「え、じゃあ本当は俺と一緒に外の国に行くとかダメなんじゃね?」
『本体が離れても我は常に森と共にあるし、お前は神が森に落とした者だから共にあるのは構わないだろう。
それに、普通の人間に我の姿は見えぬから関係無い。
我等の姿が見えるのは我ら神獣と、我らが認めた者のみ。
余程魔力が強い者なら存在を感じ取れるかもしれないが。
ハルカは神がこの世界に降ろした者ゆえ、最初から我が見えたのだな』
だから初めて会った時は俺に攻撃されて驚いて油断した、と苦笑していた。
「ええ・・・じゃあ、周りに人がいる時にクロウと話してたら、俺ひとりでブツブツ喋ってるヤバい人間みたいに見えるって事?」
『そうだな』
クツクツ面白そうに笑ってるけど、笑い事じゃないし。気を付けないと。
初っ端から不審者扱いは勘弁してほしい。
誰かに会う前に教えてくれてよかった。
「サランラークって、どっち?」
『東だ。向こうだな』
クロウが顔を向けるけど、あっちもこっちもそっちもどっちも360度ぐるっと森だ。
「・・・魔法で道をあけてもらうしかないか」
えー・・・何キロくらいあるんだ?魔力もつのか?
『我の背に乗れ。ハルカなら許そう』
「俺、馬にも乗った事無いけど」
『首に手を回して掴まっていろ。落としはしない』
俺の呟きはスルーされ、足元に大きな体が伏せる。
「怖いんだけど・・・」
『大丈夫だ』
クロウが大丈夫でも、俺はそうじゃないんだって!
と思うが、俺がてくてく歩くよりクロウに乗せてもらって移動する方がずっと早く進めるだろう。
仕方なくクロウの背に跨ると、『立つぞ』と声が掛かり俺を乗せたままズオッと立ち上がる。
「うわ・・・っ」
太ももや脹脛の下で獣の硬い筋肉が動く感触が伝わり、落ちる恐怖で思わず足を締める。
『ちゃんとつかまっていろ』
言われて、太い首に腕を回し身体を寄せ、顔から胸、腹も全部くっつける。
すると。
「・・・・」
ちょっと、なー・・・。
大事なところが、大変な事になりそうな予感。
上半身全部をクロウの首から背にくっつけるという事は、当然その下だってクロウにくっついてるわけで。
身体の中心、股間に当たるのはクロウの身体の真ん中、即ち太い背骨。
クロウは身体が大きい分一つ一つの関節が大きくて、動く度にちょっと当たって地味にソコが痛い。
『行くぞ』
「ちょ、まって・・・うわあ・・・っ」
せめてタオルかなんか挟ませて、そういう間もなくクロウは森に向かって歩き出した。
144
お気に入りに追加
2,316
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる