聖女じゃないのに召喚された俺が、執着溺愛系スパダリに翻弄される話

月湖

文字の大きさ
上 下
12 / 65

12 友達も普通ではありませんでした

しおりを挟む
こっちに来て1カ月。
1日のルーティンがほぼ固まった。
朝起きて、身体全体にクリーンを掛けて、でも顔は水で洗って。
朝ごはんに前の日に採った果物をひとつ食べ、森に入って食べ物を探す。
クロウと一緒におやつに果物を食べ、昼頃に拠点に戻り午後は魔法と弓の練習。
10日ほど前、果物採取の途中で良く撓りでもけして折れない木を見つけ弓の材料にと切ってきた。
長く切れにくい蔓を弦として、簡易の弓を作った。
慣れた和弓を作るには、良い竹を選び寝かせ燻したり炙ったりして撓ませた竹を更に成形して、弓として出来るまで数年かかったりするのだが、ここではそもそも竹など見たことは無いし、とりあえず使えればいい。
矢にするのは自分の魔力。遠くを狙って攻撃するにはこのやり方が一番命中率がいい。
そんな攻撃するような対象には今のとこ遭っていないけれども。
夕方に果物を食べて、風呂に入って本を読みながら寝る。
そんな毎日。


日々の練習の甲斐もあり、魔力の扱いには大分慣れた。
癒しの魔法も試した。
さすがに自分で自分に傷をつける勇気はなく、枝が引っ掛かって切れた傷を治した一度だけだが綺麗に治った腕の傷に安堵した。
ステータスを確認すれば、全体的にレベルが少し上がっている。
そろそろ、いいだろうか。

ここの暮らしは悪くない。
果物だけの食事ももう慣れた。
だけど。

最初の、地球から完全に引き離されたショックを超え、生活に慣れてくると少し人恋しくなってくる。
元々企画・営業で多くの人と関わる仕事をしてきた身だ。
そろそろ、人間と話したい。
だから俺は、一度この森から出てみようと思う。
ウィキ擬き先生は話してくれるけど、基本俺の質問に答えるだけだし、クロウは傍に来てくれるようになったけど動物だから言葉での交流は出来ない。


「・・・クロウ、お前が喋れたらなあ」


俺の横でリンゴを齧っているクロウ。
紅い目をくるりとこちらへ向ける様子はまるで俺の言葉を理解しているようだ。
そんな訳ないのに。
はー・・・と空に向かって息を吐いた。

その時。


『・・聞こえるか?』

「え・・・?」


どこからか、声が聞こえた。
男性とも女性ともとれる、不思議な声。


「え?誰」


どこから聞こえてきたんだ?
キョロキョロと周りを見るも人らしき姿はどこにも無い。


『お前の隣にいるであろう・・・』

「隣って・・・」


俺の隣にいるのは、口元に付いた果汁を赤く大きな舌でペロリと舐め取りこちらを見上げるクロウだけだ。


『お前が喋ろと言ったのだろう?』

「うそ・・・」


目の前の動物が喋ってる?


『嘘などではない。聞こえているのだろう?』


こちらを見るクロウの目が面白そうに眇められる。


「き・・こえる、けど」

『お前がこの森に害を与える者ではないと分かったからな』


くあ、と口を開け鋭く長い牙を舐める仕草に、もしかしてと思う。


「・・・クロウ、俺を守ってくれてたんじゃなくて、・・・森を守ってたんだ」


俺が森を傷つけないか、見張ってた?


『ここは神獣の森だからな』

「しんじゅうの森・・・」

『神が創った我ら獣のための森だ。我らは神の使いだからな』

「神の使い・・・。爺さん神さんの?」


あれ?
世界に干渉出来ないとか言ってなかったっけ?


『お前、神を爺さんとな?』


クク・・とクロウが笑う。


『神を知っておるのか?』

「ああ、うん。俺異世界から間違えて連れてこられちゃって、森に来る前に会った」

『・・・お前は面白いな』

「いや、俺はいたって普通の人間だけど」


どこに面白いポイントがあったというのか。
なんだか色々聞きたいことはあれど、どこから聞いたらいいのか分からない。
そんな俺の答えにも笑うクロウ。
けれどその笑いはすぐに潜み、落ち着いた声が掛けられた。


『さて、意思の疎通が出来たところでひとつ尋ねるが』

「あ、うん」


先を越されてしまった。まあいいけど。


『クロウとは、私のことか』

「勝手に呼んでごめん。名前、あるよな」


ペットじゃないけど、そんな感覚で呼んでしまっていた。
気を悪くしたよな。


『我ら神獣は契約者のみに名を許す。しかし・・・』


グルル・・とクロウの喉が鳴る。いや、本当の名前があるらしいから、もうクロウと呼んじゃいけないのか。


『・・・お前の名は?』


唐突に、訊かれた。
まあ、動物相手だと思ってたから名乗ってなかったしな。


「ハルカ・ツヅキ」

『ハルー・・カ、ツヅ、キ』


ハルーカ、ハル、カ、ハルカ・ツヅーキ・・ハルカ・ツヅキ。
言いにくいのか、何度か言い直し、しかしすぐに正しい発音で俺の名を呟く黒い神獣。


『ハルカ・ツヅキ』

「うん」


名前を呼ばれ、普通に返事をする。


『ハルカ・ツヅキ』

「はい」

『・・・ちょっと黙れ。
我の話が終わったら返事をしなさい』

「あー、ごめん」


名前を呼ばれたから返事をしてたら、どうやらそれはただ呼んだだけではなかったらしい。


『そなた、ここに住むのか』

「・・・いや、そろそろ外の街に行こうと思ってる。
森には世話になったし、クロウにも・・・神獣様に挨拶をしてから移動しようと思っていた」

『そうか』

「うん」


寂しいし、不安もあるけどね。
そう苦笑する俺を、気高い獣はじっと見ている。


『・・・ハルカ・ツヅキ。
我の片割れを連れてゆけ』

「・・・え?」


紅い目が、キラリと光る。


『我は神の神獣にして森を統べる者。
だが我はハルカ・ツヅキを主と望む』

「ええ・・・?」


それって、さっき言ってた契約者ってヤツ?
契約者って、何するんだ?
主って・・・。


『難しく考えることは無い。
そなたは強い。だが強いだけでなく優しく思いやりがある。
我はそなたの魂に惹かれたのだ。
そなたには見事な魔法の腕があり、たいていの事は自身でやれてしまうだろうが、困った時には我の名を呼べ。何を置いても駆け付けよう』

「・・・俺と、一緒に来てくれるって事」


片割れ、とは言っていたけど。


『ハルカが望むならそれも良いな。なんなら共寝もしてやるぞ?』


揶揄うように言われるけど。


「それはそれで嬉しい。
けど・・・俺と契約して、森は、大丈夫なのか?」


森を統べる者、という事はクロウはこの森の王だという事だ。


『我は神獣だ。
誰と契約しようが魂の根幹は常に神の森と共にある。問題ない』


どういう原理か分からないが、大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。
なら。


「俺も、クロウと離れたくないよ」

『決まりだ。ハルカ、手を出せ』

「・・・こう?」


手のひらを上にして手を出すとクロウは頷く。


『【ハルカ・ツヅキ
我の名はクロウネル。ハルカ・ツヅキを主とし魂の契約を結ぶ。
証として心珠を預けるものとする】』


頭の中に朗々とした声が響く。


「・・・これ、」

『我を望むなら握ってくれ』


コロンと、紅く輝く球。
それは手のひらにやっと収まるくらいの大きな物。


「俺もなんか言った方がいい?」

『いいや?
契約はそなたがそれを握るとこで成る。何もいらぬよ』

「そうか」


・・・でも。
魂の契約って言ってた。
これはクロウが言うほど安易に出来るような事ではないのだと思う。
主になるという事は、命を預けられるのと同じだろう。
ならば、黙っていることなど出来ない。


「神獣クロウネル。
俺はお前の主になるけど、この森は俺にとっても大切な場所だよ。
何かあったら俺にも教えて。俺もここを守りたいから。
一緒に、大切なものを守ろう」


目を閉じ、両手で球を握る。


「っ・・!」


その瞬間、球は光り輝き、しかしその光はすぐに俺の手に吸い込まれていった。


『これで契約は成った。
ハルカよ、我の魂は常にそなたと在り、守ろう』

「・・・ありがと。
だけど、俺も守るよ。クロウネル」

『クロウでよいよ。そなたに呼ばれるのは悪くない』


ペロリと、俺の手を舐める。


「くすぐったいよ。
なあ、俺も触っていい?ずっと撫でてみたかったんだ」

『愛玩動物ではないのだが・・・まあ、ハルカならよいよ』

「やった!」


立った俺の肩までもある、大きな体躯は一見怖いけど、とても美しい獣だ。
ずっと触りたかった。
首をぎゅっとして、毛皮を撫でる。
艶やかで、思っていたよりずっと柔らかい。


「クロウ、これからずっとよろしくな」

『ああ』









それから1週間後、俺達は森を出て街を目指した。



















しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

中身おっさんの俺が異世界の双子と婚約したら色々大変なことになった件

くすのき
BL
気がつけばラシェル・フォン・セウグになっていた俺。 ある双子を庇って負傷した結果、記憶喪失になった呈でなんとか情報収集しつつ、せめてセウグ夫夫の自慢の息子を演じるよう決意を新たにしていると、何故か庇った双子が婚約者になっていた。なんとか穏便に婚約破棄を目指そうとするのだが、双子は意外と手強く色々巻き込まれたりして……。 1話1笑いならぬ1くすりを極力自らに課した異色のコメディーBLです。 作中のキャラの名前ですが、名前・●・苗字の、●の部分はちょっとした理由により兄弟であっても異なっておりますのであしからず。 イイね!やコメント頂けると執筆の励みになります。というか下さい!(直球)

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

処理中です...