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その瞳を真っ直ぐ見れることが嬉しくて。

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シエルの目が覚めてから三日後。

わたくしはシエルの髪を切るため、読み漁った本の知識を思い出しながら、シエルに合う髪型を考えていた。

「うーん、やっぱり、こっちの方がいいかしら? いやでも、こっちも・・・。」

真っ白だったスケッチブックがどんどん埋まっていき、遂に10枚目を書き終えたとき、部屋の扉が開いた。

「ベアトリス・・・?」

その声に視線を向ければ、シエルが顔だけを出すような形でこちらを見ていた。

「シエル?どうかしたの?」
「えっ、あの、その、入ってもいい?」
「えぇ。もちろんよ。」

と、わたくしが言って微笑めば、シエルは嬉しそうにわたくしの隣に寄ってくる。

「ふふっ、シエル。部屋に入る時は、ちゃんとノックをしてからと言ったでしょう?」

わたくしはシエルが目覚めたあの日から、基本的なマナーを一つ一つ教えた。

忘れていたのかな?と思ったわたくしが、仕方がないとばかりに指摘すると、シエルはそれを否定した。

「ベアトリス、僕、ちゃんと、3回ノックしたよ?」
「えっ?」
「返事がなかったから、その後もノックしたんだけど・・・」

わたくしは自分が、ノックの音に気づかないほど考え込んでいた事に気が付き驚いた。

「そう、だったの。ごめんね、シエル。わたくし考え事をしてて気づかなかったわ。」
「ううん、平気だよ。それよりも、考え事って何?」

シエルはそう言った後、わたくしの机の上に置かれたいくつもの髪型のスケッチに目を向けた。

「ベアトリス。これ、何?」
「シエルの髪を切ろうと思って、いくつか案を考えていたのよ。」

「ほら」と言いながら、わたくしはたった今書き終えた紙をシエルに渡した。

そこでわたくしはふと気づく。

これ、シエルに切って欲しい髪型を選ばせた方が良かったのでは?と。

何故、最初からシエルの意見を聞こうとしなかったのか。自分一人であれこれ悩んでしまったのか。

シエルの事になるとついつい先走ってしまう自分に気づき少し驚く。

チラリとシエルに視線を向けてみれば、シエルはその瞳を輝かせてじっとわたくしが書いたスケッチを見ていた。

「シエル、その髪型が気に入ったの?」
「はい!とても、素敵だと思います!」

わたくしはシエルのその言葉に、ならその髪型にしようと決め、部屋を移動した。



シエルの長く伸びた黒髪を指ですくい、ハサミで切る。

勿論、シエルの髪を切るのはわたくし自身だ。
昔から、大抵の事は何でもこなせるわたくしにとってはこれくらい朝飯前というものの、今回ばかりは慎重に大切に切っていった。

髪を切り終えたシエルはとても可愛かった。

今はもう、その綺麗な赤い瞳は隠れていない。

前髪をかきわけなくも顔を合わせれば絡み合う視線に嬉しさが込み上げる。

髪を切り終えた後、シエルが満面の笑みでありがとうとわたくしにお礼をいった。

その事でついつい頬が緩んでしまったのは仕方の無い事だろう。

あぁ、でも他の髪型もして欲しいわ。
特にあれも似合うと思うのよね・・・。と、思ったわたくしがその事をシエルに言うと。

「じゃあ、次はそれにしよ?」

と笑顔で答えてくれた。

「そうね、また次があるものね。」

とわたくしもつられて笑顔になる。

そして考える。

「次は何をしようかしら?」と。

まず、シエルの執事服を仕立てて・・・。
それから、そうね、紅茶の入れ方を教えましょ。

早くシエルの入れてくれた紅茶を飲んでみたいわ。

わたくしはこれからのシエルとの日々に想いを膨らませ、その口に笑みを浮かべた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ここからは使用人視点のちょっとしたお話です。

〈アリア視点〉

「お嬢様っ!正気でございますかっ!?」

私、アリアは今、目の前の出来事を受け入れられずにいた。

マクナン公爵家に使え初めて5年がたったある日の事。

あろうことが、誘拐され無事に戻って来たお嬢様は、絶滅したと言われる獣人をその背に背負っていました。

流石にこの事に皆、驚きが隠せません。

それは使用人だけでなく旦那様も同様。

いつものすまし顔が崩れ、その顔は驚愕に満ちておりました。

お嬢様はいつもの微笑みをキープしたまま事情を説明し、獣人・・・、シエル様を客人としてくれぐれも丁寧に扱い、医者にも見せるように言いました。

そして、その後、私はお嬢様に呼び出され、マクナン公爵家に使える者達の個人情報を調べて持ってくるように言われました。

その事は別に良いのです。
元々、私は裏の人間でしたから。

ですが、その理由が私に衝撃を与えました。

ーーーーシエルを守るため。と。

今まで、何に対しても興味を示さなかったお嬢様がそうおっしゃったのです。

実はこのマクナン公爵家は使用人を雇う際にあまり今までの経歴などは注視しないのです。実力が全てものを言います。

その理由は、まぁ、簡単に言うと旦那様のお仕事にも関わっていて、ゴミを掃除するためであったりもするのですが・・・。

実際、今回お嬢様に睡眠薬を盛ったエリック・ドールも、ご実家共々、悲惨な運命を迎えることになりましたしね。

しかし、お嬢様は言います。

少しでもやましい事がある人にはこの屋敷から出ていって貰う。と。

そして、シエル様に対して、無礼な行いをした人に対しての罰などをつらつらと紙におかきになります。

全く、お嬢様は分かっているのでしょうか。

そんな事をすれば半数以上の使用人を解雇する事になり、仕事が回らなくなります。

そして、冒頭に戻るわけです。

「えぇ。わたくしは正気ですわ。」

そう応えたお嬢様の目には光がありました。

一体、何がお嬢様をここまで動かしたのか。

なんて、答えはひとつでしょうね。

私は少し興味が湧いたのでお嬢様にひとつお尋ねしました。

ーーーーシエル様を今後どうするおつもりなのか、と。

お嬢様は言いました。

わたくしの隣に立ってもらう。と。

その言葉がどんな意味を持つかなんて、聞かなくてもお嬢様の表情を見れば分かりました。

全く仕方がありませんね。

さて、お嬢様の為にも人肌脱ぐとしましょうか。

ーーーーかつて捨てたあの名に誓って。

私がこの家のゴミを処理致しましょう。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ここまで読んでくれてありがとうございます!
アリアの視点はこれからもたまに出てくると思います。アリアの前の仕事に関しましては察して下さい。
今後の更新は週二投稿にしようと思っています。
更新曜日に関しましては考え中です。(*' ')*, ,)✨ペコリ

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