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第1章
実は、記憶喪失じゃないんです。
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「じゃあ、アイハラさんは本当に奴とはなんの関係も無いんですよね。」
そう言って確認するように私に問いかけてきたのはエトアさんだった。
「はい、勿論です!」
キャシーさんが何者かは分からないけど、少なくともレオルドさん達はキャシーさんに対していい感情を持っていないのは確かだ。
私は男の子と女の子に話しかけられた所からの事の成り行きをレオルドさん達に話した。
「リオ嬢の話が本当なら、その子供はスラムの子達かも知れませんね。」
「スラム・・・。」
良く漫画や映画で見てたからスラムの事は知っているけど本当に見たのは初めてだ。
まだあんなに小さな子供達が帰る場所もなく、お腹を空かせて毎日生きるために必死に頑張っているのだと思うと胸が痛い。
「それにしても魔術師キャシーね・・・。」
「キャシーさんって何者なんですか?」
エトアさんの呟きに、私は気になっていた事を質問してみるが、それに応えてくれたのはレオルドさんだった。
「リオ嬢は、隣国のエンテールは知ってますか?」
「いえ、知りません。」
「リオ嬢にキャシーと名乗った魔術師はエンテールの貴族ですよ。詳しい事は話せませんが、まぁ、我々第二騎士団とは色々と縁のある人なんですよ。」
「は、はぁ。」
第二騎士団の皆さんとどんな縁がある人なのかは分からないが、キャシーさんはそんなに悪い人なのだろうか。
少なくとも私にはそんなに悪い人には見えなかった。
しかし、騎士様達と渡り合える人なんてキャシーさんはとても優秀な魔術師なのだろう。
それにしても、何故、隣国の貴族がこんな所に居るのだろうか。
歩きながら話していると前を歩いていたレオルドさんが立ち止まり振り返る。
「エトア、先にダリオス団長に報告しに行ってくれるか?俺は、リオ嬢を送ってから行く。」
「分かりました。」
エトアさんはそう言って急ぎ足でダリオス団長の部屋に向かって行った。
私はレオルドさんの後ろに着いていく様にして歩いた。
「あの、リオ嬢はまだ記憶が思い出せないんですか?」
「えっ・・・。」
私の部屋の前まで着くと、レオルドさんはそう言って振り返った。
その声は心配しているような、疑っているような曖昧な物だった。
「違う、って言ったらどうしますか?」
ドキドキと心臓が嫌な音を立てる。
正直、キャシーさんの反応を見ると本当の事を言っても信じてもらえないと思うし、私になにか証明する方法があるわけじゃないから黙っていた方がいいとは思う。
でも、私は第二騎士団にお世話になっている身だ。隠さなければならない事情があるなら兎に角、あまり隠し事をするのは良くないと思う。
それに、ダリオス団長がここに居てもいいと許可してくれなければ、いや、レオルドさんがあの時私を見つけて無かったら、私は今、あのライオン見たいな動物(魔物)に食い殺されていたかもしれない、悪い人に捕まって奴隷にされていたかもしれない。
あの子達と同じようにスラムにいたかもしれない。
その事を思うと、信じては貰えないかもしれないが本当の事を話すべきだと思った。
「レオルドさん、ごめんなさい。実は、私は記憶喪失なんかじゃ無いんです。」
私はレオルドさんの見えない目を見つめるように顔を上げた。
「私は、異世界から来たんです。多分・・・」
「えっと、い、異世界から来たってどういう意味ですか?それに、多分って・・・」
私の言葉にレオルドさんは唖然としながらも話を聞いてくれた。
この世界は私がいた世界とは全く違う世界で、私は気がついたら森の中にいて、レオルドさんに出会った。
右も左も分からない状況で一人で生きていくのは無理だと思い、記憶喪失の振りをしていた事。
「あの、嘘を着いていて本当にすみませんでした。」
一通り話を終えた後、私はそう言って頭を下げた。
何も言わないレオルドさんに、不安になった私は顔を上げレオルドさんを見る。
「あの、レオルドさん?」
「っ!?あっ、えっと、す、すみません!ちょっと、考え事をしてて・・・。」
レオルドさんは慌てたようにそう言うと、コホンとわざとらしい咳払いをした後に私に聞いてきた。
「では、リ、リオ嬢は何処かのスパイという訳では無いんですよね?」
「えっ!ス、スパイですかっ?わ、私がっ!?」
思っても無かった言葉に驚きを隠せない。
今の話の流れで、何故、スパイだなんて言葉が出てくるのだろう。もしかして、キャシーさんは隣国のスパイかなにかなのだろうか。
「ち、違いますっ!スパイだなんて、そんなの、私には無理ですっ!私のこの腕と足を見てください、壁を登ったり、素早く走ったり、スパイの仕事なんて、出来るわけないじゃないですか。そんな私が、どうやって、情報を得るんですかっ!」
とりあえず誤解を解こうと私は自分の肉はついてるのに筋肉なんて全然ない手足を主張した。
しかし、私の言葉を聞いたレオルドさんはとても言いにくそうに言った。
「そ、その、色仕掛けとか・・・」
「えっ・・・」
一瞬、何を言われたか分からなかった私はマヌケな顔をして固まった。
色仕掛け、って、あれだよね?
ボンキュッボンで美人なお姉さんが男を騙す時にやるヤツ・・・。
思わず、自分が誰かに色仕掛けをしている場面を想像した私は自分の痛さに想像した事を後悔した。
いやいやいや、レオルドさんてば何を言うかと思ったら、色仕掛けって・・・。
「あははっ、レオルドさん、何、言っているんですかっ。ふふっ、私なんかに、色仕掛けされて、落ちる男なんていませんよ。」
そんなの、馬鹿されるだけだよ。絶対。
色仕掛けなんて、何故そんな事を言ったのかは分からないが、そんなの私が出来るはずがない、と笑っていた私は、レオルドさんがこの時、私の事をビックリした目で見ていた事に気付かなかった。
━━━━━━━━━━━━━━━
ここまで読んで頂き有難うございます!
昨日は投稿出来なくてすみませんでした。
私が思ったよりも忙しく、これから投稿ができない日があると思いますが、完結までお付き合い頂ければ幸いです。
そう言って確認するように私に問いかけてきたのはエトアさんだった。
「はい、勿論です!」
キャシーさんが何者かは分からないけど、少なくともレオルドさん達はキャシーさんに対していい感情を持っていないのは確かだ。
私は男の子と女の子に話しかけられた所からの事の成り行きをレオルドさん達に話した。
「リオ嬢の話が本当なら、その子供はスラムの子達かも知れませんね。」
「スラム・・・。」
良く漫画や映画で見てたからスラムの事は知っているけど本当に見たのは初めてだ。
まだあんなに小さな子供達が帰る場所もなく、お腹を空かせて毎日生きるために必死に頑張っているのだと思うと胸が痛い。
「それにしても魔術師キャシーね・・・。」
「キャシーさんって何者なんですか?」
エトアさんの呟きに、私は気になっていた事を質問してみるが、それに応えてくれたのはレオルドさんだった。
「リオ嬢は、隣国のエンテールは知ってますか?」
「いえ、知りません。」
「リオ嬢にキャシーと名乗った魔術師はエンテールの貴族ですよ。詳しい事は話せませんが、まぁ、我々第二騎士団とは色々と縁のある人なんですよ。」
「は、はぁ。」
第二騎士団の皆さんとどんな縁がある人なのかは分からないが、キャシーさんはそんなに悪い人なのだろうか。
少なくとも私にはそんなに悪い人には見えなかった。
しかし、騎士様達と渡り合える人なんてキャシーさんはとても優秀な魔術師なのだろう。
それにしても、何故、隣国の貴族がこんな所に居るのだろうか。
歩きながら話していると前を歩いていたレオルドさんが立ち止まり振り返る。
「エトア、先にダリオス団長に報告しに行ってくれるか?俺は、リオ嬢を送ってから行く。」
「分かりました。」
エトアさんはそう言って急ぎ足でダリオス団長の部屋に向かって行った。
私はレオルドさんの後ろに着いていく様にして歩いた。
「あの、リオ嬢はまだ記憶が思い出せないんですか?」
「えっ・・・。」
私の部屋の前まで着くと、レオルドさんはそう言って振り返った。
その声は心配しているような、疑っているような曖昧な物だった。
「違う、って言ったらどうしますか?」
ドキドキと心臓が嫌な音を立てる。
正直、キャシーさんの反応を見ると本当の事を言っても信じてもらえないと思うし、私になにか証明する方法があるわけじゃないから黙っていた方がいいとは思う。
でも、私は第二騎士団にお世話になっている身だ。隠さなければならない事情があるなら兎に角、あまり隠し事をするのは良くないと思う。
それに、ダリオス団長がここに居てもいいと許可してくれなければ、いや、レオルドさんがあの時私を見つけて無かったら、私は今、あのライオン見たいな動物(魔物)に食い殺されていたかもしれない、悪い人に捕まって奴隷にされていたかもしれない。
あの子達と同じようにスラムにいたかもしれない。
その事を思うと、信じては貰えないかもしれないが本当の事を話すべきだと思った。
「レオルドさん、ごめんなさい。実は、私は記憶喪失なんかじゃ無いんです。」
私はレオルドさんの見えない目を見つめるように顔を上げた。
「私は、異世界から来たんです。多分・・・」
「えっと、い、異世界から来たってどういう意味ですか?それに、多分って・・・」
私の言葉にレオルドさんは唖然としながらも話を聞いてくれた。
この世界は私がいた世界とは全く違う世界で、私は気がついたら森の中にいて、レオルドさんに出会った。
右も左も分からない状況で一人で生きていくのは無理だと思い、記憶喪失の振りをしていた事。
「あの、嘘を着いていて本当にすみませんでした。」
一通り話を終えた後、私はそう言って頭を下げた。
何も言わないレオルドさんに、不安になった私は顔を上げレオルドさんを見る。
「あの、レオルドさん?」
「っ!?あっ、えっと、す、すみません!ちょっと、考え事をしてて・・・。」
レオルドさんは慌てたようにそう言うと、コホンとわざとらしい咳払いをした後に私に聞いてきた。
「では、リ、リオ嬢は何処かのスパイという訳では無いんですよね?」
「えっ!ス、スパイですかっ?わ、私がっ!?」
思っても無かった言葉に驚きを隠せない。
今の話の流れで、何故、スパイだなんて言葉が出てくるのだろう。もしかして、キャシーさんは隣国のスパイかなにかなのだろうか。
「ち、違いますっ!スパイだなんて、そんなの、私には無理ですっ!私のこの腕と足を見てください、壁を登ったり、素早く走ったり、スパイの仕事なんて、出来るわけないじゃないですか。そんな私が、どうやって、情報を得るんですかっ!」
とりあえず誤解を解こうと私は自分の肉はついてるのに筋肉なんて全然ない手足を主張した。
しかし、私の言葉を聞いたレオルドさんはとても言いにくそうに言った。
「そ、その、色仕掛けとか・・・」
「えっ・・・」
一瞬、何を言われたか分からなかった私はマヌケな顔をして固まった。
色仕掛け、って、あれだよね?
ボンキュッボンで美人なお姉さんが男を騙す時にやるヤツ・・・。
思わず、自分が誰かに色仕掛けをしている場面を想像した私は自分の痛さに想像した事を後悔した。
いやいやいや、レオルドさんてば何を言うかと思ったら、色仕掛けって・・・。
「あははっ、レオルドさん、何、言っているんですかっ。ふふっ、私なんかに、色仕掛けされて、落ちる男なんていませんよ。」
そんなの、馬鹿されるだけだよ。絶対。
色仕掛けなんて、何故そんな事を言ったのかは分からないが、そんなの私が出来るはずがない、と笑っていた私は、レオルドさんがこの時、私の事をビックリした目で見ていた事に気付かなかった。
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ここまで読んで頂き有難うございます!
昨日は投稿出来なくてすみませんでした。
私が思ったよりも忙しく、これから投稿ができない日があると思いますが、完結までお付き合い頂ければ幸いです。
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