私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈

文字の大きさ
上 下
21 / 45
第1章

路地裏の魔術師

しおりを挟む
井戸を離れた私は、小さな子供達の賑やかな声や、楽しそうに何かを話している町の人達の声を聞きながら、特に目的もなく町をブラブラと歩いた。

通りすがりに話しかけてくれる人が結構いてビックリしたが、コモスの町は私が前に住んでいた所と、あまり変わらない暖かな雰囲気があるような気がした。

武器の絵が描かれた看板が下がっているお店や、ゲームに出てくるような冒険者の人が目に入ると、やっぱり違う所何だな、と思い何だか自分がゲームの中に入った様な気分になる。

ちょっとした冒険をしているみたいだ。

頭の中にあの有名なゲームのオープニングソングが流そうになった所で私は誰かに服の端を引っ張られ、振り返る。

「お姉ちゃん、来て。」

そう言って私に話しかけて来たのは、10歳くらいの男の子で。

「キャシーが呼んでた。」

と言い私の服を掴んだまま引っ張っているのはラナちゃんと同い年くらいの女の子だった。

「えっと・・・、キャシーって誰?」

いきなりの事にビックリしながらも私の事を呼んでいると言う人の事を聞いてみる。

しかし、二人に行けばわかると言われ、早く早くと急かすように背中を押され、私は言われるがまま二人の後をついて行った。



二人の子供に連れてこられたのは路地裏だった。
人通りがない路地裏は先程までいた場所とは雰囲気が異なり何処か薄気味悪く冷たい所だった。

キャシーと呼ばれた女性は二人の子供に何やらお金のような者を渡すと「しばらく、向こうで待ってなさい。」と言い私の方を見た。

「初めまして、お嬢さん。いきなりごめんなさいね。」

申し訳なさそうにそう言ったのは私とそう変わらないくらいの年齢の女性で大きな水晶が置かれている所を見ると占い師か何かだろうか。

「えと、貴女は誰ですか。なぜ、私を?」

「私?私は魔術師よ。皆にはキャシーと呼ばれているわ。あの子達に貴女を連れてきてもらったのは、貴女の魔力が異常だったから、かしらね。ねぇ、貴女は何者なの?もしかして、私のお仲間かしら?」

後半はなんの事だか分からなかったが、キャシーさんの言った魔術師という言葉に私は瞳を輝かせて聞いた。

「ま、魔術師って、魔法とか使えるんですかっ!」

「えっ。えぇ、そうよ。当たり前じゃない。魔法が使えなくて魔術師は名乗れないわよ。」

「えぇっ!す、凄い・・・。」

「はい?凄いって、何なのよ。貴女には言われたくないわ。」

「え、何でですか?」

「何でって・・・、まさか貴女、魔術師じゃ無いの?」

「はい、違いますよ。」

「えぇっ!嘘でしょっ!そんなに魔力を持ったいるのにっ?」

「えぇっ!私に魔力とかあるんですか?」

衝撃的な事実にお互い無言で見つめ合う。やがて、先に口を開いたのはキャシーさんだった。

「あるも何も、今まで見たことないくらい沢山あるわよ。ねぇ、それだけの魔力を持っていて何故、魔術師じゃ無いの?」

キャシーさんが真剣な表情で私にそう聞いてきた。

魔法があると知った今、私の話を信じてくれるんじゃないかと思った私はキャシーさんに正直に話す事にした。

「キャシーさん、私、魔法がない別の世界からきたんです。」

魔術師であるキャシーさんなら何か知っているかもしれない、そう思い私もキャシーさんの目を真剣に見つめて言った。

「別の、世界・・・?」

しかし、キャシーさんは意味が分からないと顔に出しながら私を見つめ先を促してくる。

「はい。異世界といいますか、こことは全く異なる世界から来たんです。私の世界には魔術師と言う職業は無いし、そもそも魔法なんて使える人いません。」

私は出来るだけ丁寧に、キャシーさんに伝わるように話した。だが、キャシーさんから帰ってきた言葉は、私が望まないものだった。

「・・・もしかして、私の事をからかってるのかしら?」

そう言ったキャシーさんの目は鋭く、怒っているように見えた。

まさか魔術師であるキャシーさんにそう言われるとは思ってなかった私は慌てて首を振る。

「ち、違います!からかってなんていませんっ!私は本当にっ・・・」

「リオ嬢っ!」

その時、突然聞こえたその声に振り返れば走ってこちらに向かって来るレオルドさんとエトアさんが見えた。

「レオルドさんっ!?何で此処に・・・」

「リオ嬢っ、そこから離れて下さいっ!」

レオルドさんの焦った声に私は状況が把握出来ずに固まった。

「はぁ、もう少し話したかったんだけど、相変わらず仕事が早い奴らだ。」

その時、先程とは違い低い男の人の様な声が後ろから聞こえ、ビックリして振り返りると、目の前で淡い光と共にキャシーさんの姿が突然消えた。

目の前で起こった非科学的な現象に目を丸くしているとレオルドさんに肩を掴まれた。

「リオ嬢っ!大丈夫ですかっ!」

「えっ?あぁ、はい。」

困惑しながらも私がレオルドさんにそう返すとエトアさんが悔しそうに顔を歪めながら言った。

「また逃げられましたね。あの転移魔術の速さを見るにあれは人形か何かでしょうか。」

「それは分からない。でも、この町にヤツがいる事が分かったんだ。とにかく、団長に報告するのが先だ。」

「そうですね。」

「・・・」

(あの、一体何があったんでしょうか・・・。)

レオルドさん達の会話から、レオルドさん達がキャシーさんのことを追っている事は何となく分かったけど、それ以外の事は何が何だかさっぱり分からなかった私は、質問をするタイミングを伺っていた。

すると、エトアさんは貼り付けた様な笑みで私に近づき問いかけた。

「それで、アイハラさんはこんな所で奴と何をしてたんですか?」

言われてもないのに「逃がさない」なんて言葉が聞こえた気がするのは私の気の所為だろうか。

私の今の心情を表すなら蛇に見つめられたカエルだ。
私はエトアさんから目を離すことが出来ぬまま、唾をゴクリと飲み込んだ。

あれ?もしかして私、疑われてます??
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

天使は女神を恋願う

紅子
恋愛
美醜が逆転した世界に召喚された私は、この不憫な傾国級の美青年を幸せにしてみせる!この世界でどれだけ醜いと言われていても、私にとっては麗しき天使様。手放してなるものか! 女神様の導きにより、心に深い傷を持つ男女が出会い、イチャイチャしながらお互いに心を暖めていく、という、どう頑張っても砂糖が量産されるお話し。 R15は、念のため。設定ゆるゆる、ご都合主義の自己満足な世界のため、合わない方は、読むのをお止めくださいm(__)m 20話完結済み 毎日00:00に更新予定

異世界転生〜色いろあって世界最強!?〜

野の木
恋愛
気付いたら、見知らぬ場所に。 生まれ変わった?ここって異世界!? しかも家族全員美男美女…なのになんで私だけ黒髪黒眼平凡顔の前世の姿のままなの!? えっ、絶世の美女?黒は美人の証? いやいや、この世界の人って目悪いの? 前世の記憶を持ったまま異世界転生した主人公。 しかもそこは、色により全てが決まる世界だった!?

何を言われようとこの方々と結婚致します!

おいも
恋愛
私は、ヴォルク帝国のハッシュベルト侯爵家の娘、フィオーレ・ハッシュベルトです。 ハッシュベルト侯爵家はヴォルク帝国でも大きな権力を持っていて、その現当主であるお父様にはとても可愛がられています。 そんな私にはある秘密があります。 それは、他人がかっこいいと言う男性がとても不細工に見え、醜いと言われる男性がとてもかっこよく見えるということです。 まあ、それもそのはず、私には日本という国で暮らしていた前世の記憶を持っています。 前世の美的感覚は、男性に限定して、現世とはまるで逆! もちろん、私には前世での美的感覚が受け継がれました……。 そんな私は、特に問題もなく16年生きてきたのですが、ある問題が発生しました。 16歳の誕生日会で、おばあさまから、「そろそろ結婚相手を見つけなさい。エアリアル様なんてどう?今度、お茶会を開催するときエアリアル様をお呼びするから、あなたも参加しなさい。」 え?おばあさま?エアリアル様ってこの帝国の第二王子ですよね。 そして、帝国一美しいと言われている男性ですよね? ……うん!お断りします! でもこのまんまじゃ、エアリアル様と結婚させられてしまいそうだし……よし! 自分で結婚相手を見つけることにしましょう!

なんて最悪で最高な異世界!

sorato
恋愛
多々良 初音は、突然怪物だらけの異世界で目覚めた。 状況が理解出来ないまま逃げようとした初音は、とある男に保護されーー…。 ※テスト投稿用作品です。タグはネタバレ。

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!

エトカ
恋愛
続きを書くことを断念した供養ネタ作品です。 間違えて召喚されてしまった倉見舞は、美醜逆転の世界で最強の醜男(イケメン)を救うことができるのか……。よろしくお願いします。

処理中です...