私、勘当寸前のぶりっ子悪役令嬢ですが、推しに恋しちゃダメですか?

朝比奈

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閑話 ボルドーの初恋 後編

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街の噴水が綺麗な広場に着き、少女はやっと足を止めた。

「もう大丈夫よ!  安心してちょうだい!!」

そう言って胸を張り、誇らしげに笑う彼女はとても可愛かった。

「ありがとうございます。あの・・・・・君の名前は・・・・・?」

「リズよ!!  えっと・・・・・リズベット、ダ、ダン・・・・・んーと、・・・・・あっ!思い出したわっ!  ダウトよ!  リズベット・ダウト。  リズでいいわ!」

「・・・・・ふふっ、ふはははっ」

自分の家名を一生懸命思い出そうとする彼女をみて気がつけば僕は声を出して笑ったいた。

「?  どうしたの?」

リズはいきなり笑いだした僕を不思議そうに見つめる。

「ううん。何でもない・・・・・僕の名前はボルドー、だよ」

「ボルドー様??  家名はないの??」

「・・・・・うん。無いや、ごめん」

家名を言うかどうか迷ったが僕は言わなかった。
両親のことは大切だし好きだけど。あの日置いていかれた記憶が僕の中に深く刻み込まれていたからだ。

いつか、家に帰れたら・・・・・。

僕には二人の兄がいる。長男は跡継ぎだから・・・・・。次男はそのスペアだから・・・・・。三男の僕は家にとって駒でしかないから・・・・・。

「どうして謝るの??」

と、そんな事を考えているとリズが僕の顔を覗き込んでいた。

「ねえ。どうして?」
「どうしてって・・・・・」
「どうしてそんな、泣きそうな顔をしているの?」

その言葉に僕は顔を上げリズを見た。

「アメジスト・・・・・」
「えっ?」
「ボルドー様の瞳の中にはアメジストが入っているのかしら・・・・・とても綺麗だわ!」

アメジスト・・・・・アメジストとはなんなのだろうか・・・・・。その時の俺にはまだ分からなかったが、リズの可愛らしい笑顔になんだか嬉しくなって曖昧に「そうかな・・・・・」と返した。

「ええ!!私もね!アメジスト、持っているのよ!!」

そう言ってリズは首元からチェーンを引っ張り出し、アメジストで出来た花の飾りを見せてくれた。

「これよ!この綺麗な紫色の石がアメジストよ!」
「これ・・・・・?」

僕は初めて見るその輝きに言葉を失った。

最初に浮かんできたのは「綺麗」という言葉だった。でも花の形をしていることもあって「可愛い」とも思った。

そしてその後不思議な気持ちが胸を埋めつくした。

(僕の瞳の中にコレがはいってるって・・・・・)

勿論。そんなはずは無いと分かっていた。
だけど、その言葉がとても嬉しくて僕は胸がとてもポカポカと暖かくなっていくのを感じた。

「でも、ボルドー様のアメジストの方がキラキラしてて素敵ね!」

リズが無邪気に笑いながらそう言った。

「そんなわけな──」

「お嬢様ーーーっ!!どこですかーーーっ!!」

「あっ!メイだわっ!!」

そんな訳ない。そう否定しようとした言葉は遮られ、リズは僕に手を振り自分のことを呼ぶ者の所へ走って行った。


「あ・・・・・」

呼び止めたくて伸ばされた手は空を切り届かない。リズは呼ばれた方へ走り去る途中。足を止め振り返り「またね!」と手を振った。

そして今度こそどこかへ消えていってしまった。

「またね・・・・・」

リズの後ろ姿を思い浮かべ僕はそう呟いた。

寂しげなその声は昼の街の賑やかな笑い声の中に溶けて消えていった。




あの後。俺は結局。師に捕まり連れ戻された。

それからこれは余談だが・・・・・僕の師はお父様の三つ下の弟・・・・・つまり僕のおじさんだった。

次は僕が兄上の3番目の子供の師になる。

その事に何も思わないと言えば嘘になるが、今ではその事はもう割り切れていた。

ただ・・・・・初恋の子の性格が随分と変わってしまった事と、その子の恋を近くで見る事は、人を殺す時とは違う意味で心が痛んだ。

人は誰しも変わり続けるもの。
俺だってあの頃とは随分と変わった。
だから仕方がない・・・・・のかもしれない。

でも・・・・・陰ながらあの子の────リズの幸せを祈るくらいはしてもいい・・・・・よな??


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