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しおりを挟む私?私が誰かって事?・・・
まあ。少し考えてみればライル様の言いたいこともわかる気がした。だって、二ヶ月前、記憶を取り出してからの私は殿下への執着もソフィアへの嫌がらせもしなくなり、それなりに真面目に生きてきた。
でも・・・
「うーん? どういうことですかぁ?? リズ、ラーティル様の言っていること、難しすぎて分かんないっ」
私は反射的にぶりっ子モードに入っていた。
思えば昔から、本心を隠したい時や泣きそうになった時はわざと明るい声を出して自分に言い聞かせていた。
「大丈夫」って。
私はなんともない。
「平気」だって。
先程までキラキラして見えていたライル様の瞳も、もう熱を帯びているようには見えなかった。
「でもぉ~、リズは、リズだお?? 私は私だもんっ!! 他の誰でもない、リズベット・ダウトは私だけだよー!」
言いながら私は顔にニッコリと笑顔を貼り付ける。
嘘は言っていない。私は私なのだから。
ただ、前世の記憶が蘇り心を入れ替えただけ。
私は何も変わっていない。そう・・・そのはず。
「ラーティル様は私が何に見えてるんですかー??」
私はケラケラと笑いながらライル様に尋ねた。
「・・・分かりません。でも、俺は俺の見てきたリズベット嬢を信じたい 」
「・・・・・・」
「その、人に媚びを売るような態度の貴女と殿下達には先程まで決して見せようとしなかった、賢くも優しく微笑む事が出来る貴女。 俺は、俺の見てきたものが間違ってなかったと、それが、リズベット嬢なのだと。 」
ライル様はそこまでのことを一気に言い切ると。その綺麗な顔を少しだけ歪め、悲しそうな泣きそうな顔になり、目線を少し下げ、続けた。
「でもっ! そうしたらまた分からなくなる。 以前の貴女の殿下のへの気持ちも、ソフィアへの嫉妬も、嘘には見えなかったから。 」
ライル様の真剣な目に言葉に私は言葉を失った。
そして。もう、取り繕えないと思った。
いや、この人に対して、取り繕いたくないと思った。真剣に向き合わなければと。
だって・・・嬉しかったから・・・
早足で立ち去った私を。ほっといても別によかったのに・・・。追いかけてくれたこと。
ライル様なりに真剣に私を見てくれたこと
今こうして向き合おうとしてくれてること
歩み寄ってくれようと、私の事を理解しようとしてくれていること。
「ライル様って呼ばせてくれたら考えます」
私は少し困ったように微笑んでライル様を見た。
ーーーライル様は覚えているかしら?
前にも一度。
私はこの言葉を貴方に問いかけたことを。
本当は今すぐにでも、素直に気持ちを伝えたい。
「好きです」って。
私が思い出した不思議な夢の話も聞いて欲しい。前世。ただの文字、誰かの妄想、想像上の文脈が作り上げた貴方が私の“理想”だった。なんて、変な話だと思うけれど。
でも、それには少し勇気が足りない。
だから。後ほんの少しの勇気が欲しい。
貴方の名前を、ずっと心の中で呼んでいたその名前を私に呼ばせて欲しい。
もう、あの頃とは違うのだと。
何か確かな証拠が欲しかった。
「分かりました。・・・正直。何故そこまで俺をその名で呼びたいのかは分かりませんが・・・」
(え?本当に? いいの・・・?)
ライル様から呼び方の許可を貰えた。
その事にまた涙が目にたまる。
ーーーずっとそう呼びたかった。
ずっと心の中だけだった。
ライル様。少しは期待してもいいの・・・?
溢れ出そうになった思いを胸に一度ゆっくりと深呼吸をした。
「ありがとう」そう小さく呟いたその声はやはり震えていたけれど、すぐ近くにいたライル様には聞こえていたみたいだ。
ライル様は先程の私とはまた違った困ったような戸惑っているような表情をしていた。
私は思わずその顔にクスリと笑いを零すとライル様を見つめ言葉を紡いだ。
「ライル様、私ねーーーー」
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