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しおりを挟むしばらくの間、頭を抱えていた私は、とりあえず目の前で私のことを心配そうに見つめている下僕に話しかけることにした。
「おい、下僕⋯⋯まって、あなた、名前は?」
「ラデルクです⋯⋯」
ラデルクはそう言ってうつむいた。
おい、待て。何をそんなに怯えてるんだ。いや、私が怖いのか。うん、そうか、そうか。
とりあえず、口調を先に直した方が良さそうだ。
「そう、ラデルク⋯⋯普通の名前ね。とりあえず、もうアイツをいじめるのは止めるわ。計画は中止よ」
「えっ⋯⋯。えぇぇ!!」
ラデルクは凄く驚いている。それはもう、目をまん丸にして、まるでお手本みたいだ。
まぁ、分からなくもない。さっきまで意気揚々と計画を練っていたのにいきなりの手のひら返し。記憶を思い出してなかったら、絶対こんなことは言わなかった。
「リズベット様がぼっ、僕の事を名前で⋯⋯」
ん?どうやら、下僕は別のことに驚いていたみたいだ。何も、名前呼びくらいでそんなに驚かなくても⋯⋯と、そこまで思ってふと思い出した。
そう言えば、私は下僕の名前を今まで一度も呼んだことがなかったのかもしれない、と。いやいや、そんなわけ⋯⋯。うん、あるわ。だって、こいつの名前忘れてたくらいだもんなぁ~。
はぁ、ラデルクもなんで私なんかの言うことを聞くのか⋯⋯。あっ、私が脅したからか⋯⋯。
あー。なんか、前世を思い出したからか、記憶がごちゃ混ぜになりすぎて、気持ち悪い。
とりあえず、今日は帰るか。
「ラデルク、行くわよ。」
「は、はいっ!」
そして私は計画が書かれた紙をカバンに詰めて、部屋を出た。
▽
ここで少しだけ情報を整理しましょうか。
私は寮にある自分の部屋に戻るなり、机と向き合った。
まず、ここはあの小説の中で間違いないだろう。現に、登場人物の名前や、過去に起こった出来事が一致している。
この小説の主人公⋯⋯、つまりヒロインは、肩ぐらいの長さの茶髪に水色の瞳をもった可愛い女の子だ。
題名に歌姫とある通り、この子の歌は人々の心や怪我を癒す力を持っている。
性格はめっちゃ良い。
どれくらい良いのかって?
そりゃ、何度もいじめてくる私にも、優しく接してくれるくらいだ。でも、私からしたら、その優しさがウザかったり、自分の性格の悪さを自覚してしまうので凄く嫌いだったりする。
名前は、ティアラ・ステラージュ。
で、次にこの世界の王子様。
まぁ、男主人公だね。
つい先程まで私が大好きだった人⋯⋯。
記憶を思い出した瞬間、どうでも良くなったけど。
って、この意味が分かる?つまりね、今世での王子様への愛が前世の私のライル様への愛に負けたのよ。
おかしな話かも知れないけど、多分私は王子の事を本当の意味で愛してた訳じゃないと今は思うのよね。
いや、好きだったよ?ちゃんと好きだったけど、ライル様への愛を思い出した後だと、なんか、凄くどうでも良く思えてきちゃって⋯⋯。
まぁ、そんな王子の名前は、ナーシアス・デ・ラルド。この、ラルド王国の第一王子だ。
と、ここまで思い出したことを整理して紙にペンを走らせていると、部屋にノックの音が響いた。
誰かしら?と私は机から立ち上がり扉を開く。
そして、扉を開けた先にいた予想外の人物に私は驚くことになる。
「やぁ、元気そうだね?」
「なっ、ナーシアス様っ!?」
そこに立っていたのは、この国の王子様、つまりこの世界の男主人公⋯⋯私のことを誰よりも嫌っているはずのその人だったのだから⋯⋯。
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