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しおりを挟む「はぁぁぁ、ライル様が今日も素敵すぎて萌え死ぬ~!!」
「はぁ?何言ってんの?キモイんだけど」
ここは私の家のリビング。今日も今日とて素敵すぎるライル様に私は「はぅっ!」と変な声を上げて両手で顔をおおった。
そんな私を見て弟は顔を顰めているが、私は気にせず続けた。
「特に、ライル様が泣いている主人公を見つけた時、“今すぐにあなたのその肩を抱いて慰めることが出来たなら、どんなにいいか・・・”って言って、自分は何もせず、さりげなく王子に主人公を見つけさせて・・・、うぅ、ライル様素敵すぎるっ!」
「なんだよそれ。全然、意味わかんねぇ~し」
「全然、意味わかるよっ!だからね、あのねっ!」
ライル様の良さを全然分かってくれなさそうな弟に、私は頬を膨らませながらも語った。
もう、何度も読み返した小説。
それは「奇跡の歌姫は王子様に恋をした。」という題名の異世界×令嬢物の小説だ。
私はこの小説に出てくるラーティル・ドアリア様が大好きで、もう、次元を越えて愛してるといっても過言ではないのでは?と思うほど、とりあえず、大好きなのだ!(語彙力・・・)
そんな、ラーティル様・・・〈私はライル様と呼んでいるが〉は、主人公に対して失恋するキャラだ。
一途に主人公を思うライル様。
でも、主人公の想い人が誰かを知っているライル様は自分の想いを伝えぬまま、主人公が王子と結婚した時に隠れて涙を流す。
あぁ、もう何度読んでも面白い!最高すぎる!でも、出来るならライル様が幸せになるシーンも書いて欲しいものだ。
「姉ちゃん、そんなんじゃ、彼氏出来ねぇーぞ」
「余計なお世話よっ!私にはライル様がいるもん!」
何故だ、何故この良さが伝わらないんだ!
ライル様の事を語り尽くした私に対して弟は可哀想なものを見る目を向けてくる。
「姉ちゃん、お願いだから、それ、外では言わないでね。本当、恥ずかしいから」
なにっ!?弟よ。それはどういう意味だ!いや、そのままの意味なんだろうけど、ちょっと待てっ!話をっ!
「待って!!」
「はっ、はいっ!?」
私がそう叫ぶと、ビクッ!っと目の前の男の肩がはねた。
ん?あれ?誰?この人⋯⋯。と、まず最初に思ったのはそんな事だった。先程までリビングにいたはずの私は、気がつけば知らない小さな小部屋にいた。
「うっ⋯⋯」
ズキズキと痛む頭を右手で抑えながら、思考を巡らす。
「あっ、あのっ、リズベット様⋯⋯」
目の前の知らない男⋯⋯じゃなくて下僕が心配そうに私を見つめている。
ん?知らない男⋯⋯。
その時、今までとは比べ物にならない程の記憶が脳に流れ込んで来た。
そして私は理解した。私が誰なのかを。
わたくしの名は、リズベット・ダウト。前世の私が大好きだった小説に出てくる悪役令嬢の名前と同じだ。
なるほど、つまり私は、前世で好きだった小説の中の人物に転生したって事だよね?
いや、でも待って⋯⋯。
脳裏に浮かび上がるのは私がこれまでに犯してきた数々の悪業。
もう既に色々とやらかした後なんだが⋯⋯?
記憶とは不思議なもので、私は前世の記憶を思い出した途端、軽く死にたくなった。
ヒロインへのいじめは勿論のこと。私は裏表の激しいぶりっ子だったのだ。今もフリフリのドレスにツインテールという16歳とは思えない格好をしている。
しかも、今は小説の終盤。そろそろ私は家を追い出される。勿論、ライル様には凄く嫌われている。
いや、待って、私、本当に、何をしてたんだろう⋯⋯。
今だって、下僕〈名前は知らない〉と、ヒロインに対してする嫌がらせについて話してたところだ。
何故、わたくしはここまで必死にヒロインを虐めようとしてるのか。王子やその側近、いや、それ以外の人からもわたくしはもう嫌われている。ちなみにヒロインと王子は相思相愛。
なのに、まだ、王子を好きできるなんて。
馬鹿だ。馬鹿としか言い様が無いよぉ。
前世を思い出して突然だが、私、泣いてもいいですかね?
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