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二度目の人生
動き出すのは
しおりを挟む学校生活にも慣れ始めた放課後。 一人で寮へと向かっていると、突然後ろから話しかけられた。
「初めまして、クリスティーナ・フォリス様。」
その顔に冷ややかな笑みを浮かべ、一人の妖美な令嬢が私の前に立ちはだかる。
「私、アリシア・ラーンと申しますの。どうぞ、これから、よろしくお願いしますわ」
「よ、よろしくお願いします」
何がよろしくなのかよく分からなかったけれど、とりあえず挨拶を返す。相変わらず、笑顔は怖いままだ。
「クリスティーナ様にひとつ聞きたいことがあるのだけれど·····。フィンセント様の婚約者というのは本当ですの?」
「えっ·····」
「どうなんですの?」
「は、はい、本当です」
「そう。貴女が、ねぇ?」
アリシア様の質問に対して、私は本当のことなので素直に頷いた。けれど、その瞬間、アリシア様の顔から笑みが消え、瞳だけが鋭く冷たくなって行った。
「あ、そうだわ、クリスティーナ様? この国には、婚約破棄という便利な制度があるんですの。使ってみてはいかがかしら?」
「婚約破棄·····」
「ええ、そうよ。婚約破棄。 貴方にフィンセント様は勿体ないもの。是非、オススメするわ」
アリシア様はニコリと笑みを浮かべ、私にそれだけを言うと、踵を返した。
─────────────────────
「私にフィンセント様は勿体ない·····か」
夜、寝る前。私は、今日アリシア様に言われたことを思い出した。
「そんなの(私が一番)分かってるわよ」
でも·····
「婚約破棄·····」
その言葉が頭から離れない。
そして、アリシア様と会った時に感じた違和感。
どうしてか、フィンセント様と初めてあった時と似てる感じがした。
記憶はないけど、心がザワつくあの感じ。
でも、フィンセントに感じたものと、アリシア様に感じたものは似ているようで違った。
フィンセントの胸の中が温かくも切なく責めつけられるような感情とは違って、アリシア様に対しては·····
「私、あの子、苦手だ」
ギュッと枕を抱きしめる。
正直、アリシア様には近づきたくない。けど、何故こんなにも、不安なんだろう。
私は、何が怖いんだろうか。
そもそも、私って、なんなの·····?
─────────────────────
私はこの事を予期していたのだろうか。
私の視線の先にいるのは、フィンセント様とアリシア様。二人とも美男美女でお似合いだ。
私が漬け込む好きなんて·····ない。
ドクン、と心臓が嫌な音を立て、『婚約破棄』という言葉が頭の中を回る。
「嫌だな、婚約破棄·····わがままかもしれないけどさ」
良く分からない異世界で、誰よりも何よりも、私の事を傍で支えてくれた婚約者。幸せになって欲しいのは勿論だけど。
もし、フィンセント様が、心変わりをされたら·····どうしよう·····。
気が滅入って嫌な想像ばかりをしてしまう。
取られたくない、と、私の心が叫ぶ。
クリスティーナの事を「好きだ」と言ってくれたフィンセント様。
クリスティーナの記憶はなく、別の人の記憶を持つ私。
もしも、私がフィンセント様の気持ちに答えるとしたら·····、その時は·····
私が、フィンセント様に『私』の事を打ち明けた後
フィンセント様が私の事を知った時だ。
私は、二人にバレないよう、その場から立ち去った。
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