この婚約破棄は運命です

朝比奈

文字の大きさ
上 下
15 / 26
二度目の人生

何度でも君に恋をする(3)

しおりを挟む

「もう私に構わないでっ·····」

   クリスティーナからその言葉を聞いた瞬間、僕は“いやだ”と思った。

   何故かは分からない。でも、僕はこの子の手を、離しちゃダメだと、思った。一度離してしまえば、もう本当に振り向いて貰えないと、思った。

   “また”無くしてしまう·····

   でも、どうすれば、なんて言えばクリスティーナが、僕を見てくれるのかが分からなかった。

「あっ·····クリスティーナ·····僕·····」

「とにかく、もう、私に近づかないでよ·····」

「でもっ·····」

「別にっ!·····私じゃなくても良いじゃない·····」

「えっ·····」

   ズキリ、心臓が何かで刺されたように傷んだ。

「私、じゃなくてもっ·····っ、!」

   そう言ったクリスティーナが、僕を見て目を丸くする。·····?  どうして、君がそんなに辛そうな顔をするの·····?

   あれ、なんで、僕·····泣いてるんだろう·····

   なんで、ここまで言われても、クリスティーナと仲良くしたいって思うんだろう·····

   なんで僕、こんなに必死になってるんだろう·····

   ああ。やめてよ、クリスティーナ。今、傷ついているのは僕の方だ。なんで君の方がそんなに·····

「クリスティーナ·····」

──僕がその顔に弱いの知ってるでしょ?

「泣かないでよ·····」

「·····泣いてないわ、·····それに、泣いてるのはフィンセントの方でしょ?」

「そう、だね·····、ごめん。·····でも」

   僕には、君が泣いているように見えたから·····

「·····なに?」

「ううん、なんでもないよ」

   僕はそう言って誤魔化して、涙を拭いた。

「ねえ、クリスティーナ·····、僕、出直してくるよ!」

「へ?」

「やっぱり、クリスティーナと友達になりたいんだ!」

「·····なんで·····」

「うっ、それは·····、分からない·····」

「えっ?」

   分からない·····分からないけど·····、きっと初めてあった時、君の涙を見た、あの時から僕は·····

   僕は·····何だろう·····

「わ、分からないって·····、なら、もう、ほっといてよ·····」

「嫌だ、ほっとけない·····」

「·····意味わからないよ」

「·····うん、僕も」

   僕がそう言って曖昧に微笑むと、クリスティーナも、少しだけ笑った。何だか、疲れているような、諦めたような感じで。

   僕は、初めて見たその笑みに、何だか胸が締め付けられた気がした。

「·····一年に一回くらいなら、いいよ·····遊んでも·····」

   少しだけ頬を染めて、クリスティーナが困ったようにそう言う。

「一年に一回·····」

(少ない·····)

「なに?」

「ううん、なんでもない。ありがとう·····」

   もっと沢山、一緒にいれるように頑張ろう·····。僕はその時、ひっそりとそう心に決めた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...