この婚約破棄は運命です

朝比奈

文字の大きさ
上 下
6 / 26
一度目の人生

君が初恋でした(2)

しおりを挟む


   それから二人はすぐに仲良くなった。
   いくら出会いが最悪と言っても、一度打ち解けてしまえばあっという間だった。

   それでもやっぱりたくさん喧嘩はあった。
   しかしそれもどちらからともなく謝りに来るのですぐに仲直り出来た。

   時に、互いの家に泊まって夜遅くまで部屋の中でお喋りをしたりした。

   クリスティーナは木登りや虫集めが好きで最近では釣りにもはまっていた。一方フィンセントは、騎士の家系ということもあり剣を習ってはいたが昔から本が好きでクリスティーナといる時もたまに本を読んでいた。

   互いが互いの趣味に興味を持ち、二人で釣りに出かけたり、木の木陰で一緒に本を読んだり、いつの間にか2人は一緒にいることが当たり前になってきていた。

  しかしそんな二人も成長すれば、お互い他にも付き合いが出てくる。クリスティーナはお茶会開いて友達を招待したりされたり。苦手な刺繍やダンスを踊らなければならなかったり。

   フィンセントも男同士の付き合いといつものがあり、また剣の腕を上げるために騎士団に入ったり。

「久しぶり、どう?  騎士団の方は」

「正直、キツいよ。毎日クタクタでここ数日全く本を読む時間がないんだ」

「ふーん。じゃあ、今読んだら?」

「⋯⋯今はそういう気分じゃないからいい」
(せっかくティーナといるのに、本なんて読んでられるかよ⋯⋯)

「そっか、ならいいけど⋯⋯」

   二人の間に吹く風は酷く優しいものだった。

   どれだけ忙しくても二人は隙あらば二人の時間を過ごし、忙しくて息苦しいそんな日々の疲れを取っていた。

   だけど15才から通う学園の入学で二人はまた近くにいることが出来た。時にクリスティーナが弁当を作ってあげたり、フィンセントがクリスティーナのことを学園の寮まで送ってあげたり。

「フィン?  ⋯⋯なんでここにいるの?」

「いや、送ろうと思って⋯⋯」

「え?」

「⋯⋯弁当作ってくれただろ?  その礼だよ⋯⋯」

「でもこの後、騎士団で訓練があるんじゃ」

「別にティーナを送ったくらいじゃ遅刻しない」

「⋯⋯嘘つき」
(間に合うわけないのに⋯⋯。どうせ昨日、変出者が出たって事聞いて心配してくれたんでしょ?)

   今日は騎士団で実践に近い訓練をする日で、騎士団に通っている他の学生が  “遅刻したらやばい”  と言いながら授業が終わりすぐに走っていったのを見ていた私はジト目でフィンを見ながらも、少しだけ心配してくれていたことに嬉しく思っていた。

「⋯⋯?何か言ったか?」

「ううん。なんでもない」

   二人は穏やかな、それでいて幸せな時間を過ごした。

   しかし、そんな中フィンセントに恋に落ちた令嬢がいた。自分とは違う、品のある可愛らしい女性。フィンセントも彼女と仲良くなっていった。

「フィンセント⋯⋯最近ラーン伯爵令嬢と仲良いんだね⋯⋯」

「⋯⋯?  ああ。アリシア嬢のことか」

(呼び捨てなんだ⋯⋯)

「ティーナ?」

「⋯⋯」

   笑顔で会話を交わすフィンセントとラーン伯爵令嬢。家柄も釣り合っており美男美女てお似合い。

   そんな二人を見て何故か酷く焦り、どす黒い感情を抱く自分に、この時初めてクリスティーナはやっとフィンセントに対して感じていた気持ちに気がついた。

   気がつけばクリスティーナは走り出し、彼女と話していたフィンセントを見つけ、その腕を引っ張って、また走っていた。

   どれくらい走っただろうか。気がつけば酷く息が上がっていた。突然の私の行動にびっくりした様子のフィンセントにクリスティーナは自分の気持ちを伝えた。

「⋯⋯好き。好きなの。私ッ、フィンのことが好きなッ」

   結局私は途中でフィンセントに抱きしめられて最後まで言えなかった。

「はあ。もう、先に言うなよ。せっかく人が色々準備してたってのに⋯⋯。俺も、ティーナが好きだ」

   この時、私は間違いなく幸せだった。

   言葉に表せないくらい嬉しくて、幸せで涙が溢れ出した。

   この幸せがずっと続けばいいのに。とそう思った。

──永遠なんて、変わらない幸せなんてある訳ないのに。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...