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一度目の人生
君が初恋でした(1)
しおりを挟む────あれから3日がたった。
フィンセントは父親に頭を下げ、クリスティーナに会いに行きたいと言った。
フィンセントと真剣な表情に父親であるフォリス伯爵も連れて行ってあげたいと思ったが、いざ文を出してみると、クリスティーナが発熱し今はとても会える状況じゃない、と言う返事が来た。
結局その後も、仕事や外せない用事が多手続き、フィンセントとクリスティーナが再開したのは出会いから2ヶ月がたった頃だった。
その実、クリスティーナの方は、フィンセントから投げられた拒絶の言葉が軽いトラウマとなっていた。いざ父親にフィンセントが会いに来ると話を聞いても、また会える喜びよりも、また拒絶されるかもしれない、という恐怖の方が強かった。
そしてその日はやって来た。
自分の⋯⋯男爵家の馬車よりも質の良いまだ新しい馬車が家の前に止まったのが分かった。
クリスティーナは父親の後ろに隠れて、フィンセントが馬車から出てくるのを待った。
「⋯⋯クリスティーナ⋯⋯」
そう控えめに聞こえた自身の名前にクリスティーナはいつの間にか俯いていた顔をあげた。
「⋯⋯なに?」
2ヶ月ぶりに見るフィンセントの顔にあの日の言葉が蘇りクリスティーナの口から冷たい声が出た。
いやなのに。
これ以上嫌われたくないのに。
それなのに、こんな愛想の悪い態度をとってしまう自分が嫌で、これから聞く言葉が分からなくて怖かった。
「ごめんなさいッ!」
しかしクリスティーナの嫌な予想は外れ、フィンセントの口から出たのは謝罪の言葉だった。
ビックリして何も言えないクリスティーナにフィンセントは言葉を紡いだ。
「あの時、クリスティーナのことを無視してごめんッ! 酷いこと言って、傷つけて、⋯⋯本当にごめん」
フィンセントはクリスティーナに会えない間、ずっと考えていた。
それは例えば、どんな顔をして合えばいいんだろう⋯⋯とか。許してくれなかったらどうしよう⋯⋯とか。もう自分の事なんか忘れてたら? 自分がしたように無視されたら?と。
フィンセントは考えれば考えるほど暗くなっていく思考に焦り、一刻も早く素直に謝りたいとずっと思っていた。
だから、馬車をおりた直後、彼の口から出たのは心からの謝罪。
深く頭を下げ、クリスティーナからの言葉を待つ。それは酷く緊張した時間だった。
そしてやがて聞こえてきたのはクリスティーナのか細い声だった。
「⋯⋯いいの?」
(私の事を許しても、友達に慣れるって期待しても⋯⋯)
「クリスティーナ⋯⋯?」
「フィンセント君⋯⋯。私のこと、許してくれる?」
「うん、うん! もちろん。 いやそれより、謝るのは僕のほ───」
「私、怒ってないよ」
「⋯⋯本当に?」
「うん!」
「はは、良かった⋯⋯もう嫌われたかと⋯⋯」
「それは私のセリフだよ」
フィンセントとクリスティーナは二人で顔を見合わせて笑った。
────良かった。
心からそう思いながら、やっと肩の力を抜き、2人は見つめ合い、そしてやっと初めてあったとき出来なかった“よろしく”をした。
「知ってると思うけど僕の名前はフィンセント・マースリー。⋯⋯フィンって呼んでもいいよ」
「分かった!よろしくねフィン! じゃあ、私の事はティーナって呼んでね!」
「ああ。よろしく、ティーナ⋯⋯」
「うん!」
クリスティーナは初めてのお友達に嬉しくなってフィンセントの手を握った。
フィンセントの方もいきなり握られた時はびっくりしたけど嫌じゃなかったからクリスティーナの手を優しく握り返した。
クリスティーナの笑顔を見てフィンセントは自身の胸が何故かドキドキとうるさいのを感じていたが、これがなんなのかが分からず、ただこの笑顔をずっと隣で見ていたい、とそう思った。
そんな2人をやっぱりニヤニヤと見ているマースリー伯爵と苦笑いしているフォリス男爵に二人が気づいたのはその少しあとだった。
フィンセントの方から父親の視線に耐えきれなくて、クリスティーナの手を離した。
その無くなった手の温もりにクリスティーナが寂しそうな顔をしていた事に気がついた人はいなかった。また、クリスティーナ本人も無意識で自分の感情に気がついていなかった。
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