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一度目の人生
出会いは最悪でした(3)
しおりを挟むいつもは感じない寝苦しさを感じ先に目を覚ましたのはフィンセントの方だった。
「⋯⋯?」
寝起き特有のだるさを感じながらも目を開けたフィンセントの視界にまず映ったのは自分の黒髪とは違う綺麗な銀髪だった。
(なんだこれ?)
不思議に思って自分の脇の下の方にある銀髪に手で触れてみた。そして、その後その銀髪をすくように手を動かした。
「ぅん⋯」
フィンセントが髪の毛をすくように動かしたのが気持ちよかったのか、フィンセントのお腹の上に腕を乗せまるで抱きつくように眠っていた少女⋯⋯クリスティーナが身じろいだ。
「なッ!?」
そしてそこでやっと今の状況を理解したフィンセントが慌てて飛び起きた。
「な、なな、なんでッ!?」
(何がどうなっているんだ!?なんで僕は知らない女の子と一緒に眠っていたんだ⋯⋯?)
と、ここまで考えてフィンセントはだんだん昨日の記憶を思い出した。
(そうだ、彼女は確か⋯⋯クリスティーナ、だったか? )
そしてフィンセントはとうとうクリスティーナに大量の虫を見せられたことを思い出し、顔を青ざめた。
「んんー?⋯⋯あれ?」
フィンセントがベットの端によりクリスティーナから距離をとった時、クリスティーナが目を覚ましその視界にフィンセントをとらえた。
「ひぃっ!」
フィンセントは昨日の虫のことを思い出し怯えていたが、クリスティーナはそれに気が付かなかったのかフィンセントに話しかけた。
「あ!お、おはよう!フィンセント君!き、昨日は⋯⋯」
「来るなっ!」
「⋯⋯へ?」
フィンセントにちゃんと謝って、今度こそ友達になりたいと思っていたクリスティーナは強い拒絶の言葉にビックリして固まった。
「な、なんで、お前がここにいるんだよっ!出てってよっ!」
「あ⋯、フィン、セント、君⋯」
「出てけよッ!」
「ッ、!」
ひゅっと首を絞められたわけじゃないのに喉が痛くて、投げられた言葉がクリスティーナの頭をうち何度も繰り返される。目に涙が溜まっていくのが自分でもわかった。
そしてそんなクリスティーナを見てびっくりしたフィンセントはどうしたらいいのか分からず、結局、自分は悪くない、と言い聞かせクリスティーナに背を向けた。
背を向けられたクリスティーナは、フィンセントに完全に“拒絶”されたと思いついに涙が線を切って溢れ出した。
「ごめんッ、ごめん、ね、フィンセント君ッ。ひっく、お願い、だからッ、ひっく、嫌いにならないで」
クリスティーナはベットの上で、時々、嗚咽を交えながらも謝った。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
────嫌いならないで。
そう言って泣きながら謝って来る少女にフィンセント胸を痛めた。
結局、あの後フィンセントは動けなかった。
目の前でなく少女になんて声をかければいいのか分からなくて。
ただ一言“許す”って言えば良かったのかもしれない。もう怒ってないよって。僕の方こそごめんって。そう、伝えればよかったのかもしれない。
だけどあの時の僕はやりすぎた後悔と胸を締付けるよく分からない感情とで少しパニックになってて、気がつけば父上とフォリス男爵が来て、僕は父上に、彼女はフォリス男爵が連れられて部屋を出た。
そして今、僕は父上に彼女が昨日、僕に嫌われた事に悲しんで泣いていたことも、僕が起きたらすぐに謝るためにそばにいたことも、父上が悪ふざけで隣に寝かせたことも、全て話して聞かされた。
父上は申し訳なさそうに僕の頭を撫でて謝ってくれたけど、僕にも悪いとこがあると叱った。
そしてその日僕は自己嫌悪に浸った。
(なんで、無視しちゃったんだろう⋯⋯。
なんで、ちゃんとクリスティーナの話を聞かずあんな酷いことを言っちゃったんだろう⋯⋯)
彼女は僕に謝ろうとしてくれていたのに⋯⋯
その日はよく眠れなかった。
寝ようとしても、どうしても、彼女の朝焼けを閉じ込めたような、あの綺麗な瞳から零れ落ちる涙が綺麗で、それでいて、彼女を悲しませているのが僕だと思うと苦しくて、目を閉じれば鮮明に思い出せるその光景に、僕は全然、寝れなかったんだ。
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