この婚約破棄は運命です

朝比奈

文字の大きさ
上 下
4 / 26
一度目の人生

出会いは最悪でした(3)

しおりを挟む


   いつもは感じない寝苦しさを感じ先に目を覚ましたのはフィンセントの方だった。

「⋯⋯?」

   寝起き特有のだるさを感じながらも目を開けたフィンセントの視界にまず映ったのは自分の黒髪とは違う綺麗な銀髪だった。

(なんだこれ?)

   不思議に思って自分の脇の下の方にある銀髪に手で触れてみた。そして、その後その銀髪をすくように手を動かした。

「ぅん⋯」

   フィンセントが髪の毛をすくように動かしたのが気持ちよかったのか、フィンセントのお腹の上に腕を乗せまるで抱きつくように眠っていた少女⋯⋯クリスティーナが身じろいだ。

「なッ!?」

   そしてそこでやっと今の状況を理解したフィンセントが慌てて飛び起きた。

「な、なな、なんでッ!?」

(何がどうなっているんだ!?なんで僕は知らない女の子と一緒に眠っていたんだ⋯⋯?)

   と、ここまで考えてフィンセントはだんだん昨日の記憶を思い出した。

(そうだ、彼女は確か⋯⋯クリスティーナ、だったか? )

   そしてフィンセントはとうとうクリスティーナに大量の虫を見せられたことを思い出し、顔を青ざめた。

「んんー?⋯⋯あれ?」

   フィンセントがベットの端によりクリスティーナから距離をとった時、クリスティーナが目を覚ましその視界にフィンセントをとらえた。

「ひぃっ!」

   フィンセントは昨日の虫のことを思い出し怯えていたが、クリスティーナはそれに気が付かなかったのかフィンセントに話しかけた。

「あ!お、おはよう!フィンセント君!き、昨日は⋯⋯」

「来るなっ!」

「⋯⋯へ?」

   フィンセントにちゃんと謝って、今度こそ友達になりたいと思っていたクリスティーナは強い拒絶の言葉にビックリして固まった。

「な、なんで、お前がここにいるんだよっ!出てってよっ!」

「あ⋯、フィン、セント、君⋯」

「出てけよッ!」

「ッ、!」

   ひゅっと首を絞められたわけじゃないのに喉が痛くて、投げられた言葉がクリスティーナの頭をうち何度も繰り返される。目に涙が溜まっていくのが自分でもわかった。

   そしてそんなクリスティーナを見てびっくりしたフィンセントはどうしたらいいのか分からず、結局、自分は悪くない、と言い聞かせクリスティーナに背を向けた。

   背を向けられたクリスティーナは、フィンセントに完全に“拒絶”されたと思いついに涙が線を切って溢れ出した。

「ごめんッ、ごめん、ね、フィンセント君ッ。ひっく、お願い、だからッ、ひっく、嫌いにならないで」

   クリスティーナはベットの上で、時々、嗚咽を交えながらも謝った。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


────嫌いならないで。

   そう言って泣きながら謝って来る少女にフィンセント胸を痛めた。

   結局、あの後フィンセントは動けなかった。

   目の前でなく少女になんて声をかければいいのか分からなくて。

   ただ一言“許す”って言えば良かったのかもしれない。もう怒ってないよって。僕の方こそごめんって。そう、伝えればよかったのかもしれない。

   だけどあの時の僕はやりすぎた後悔と胸を締付けるよく分からない感情とで少しパニックになってて、気がつけば父上とフォリス男爵が来て、僕は父上に、彼女はフォリス男爵が連れられて部屋を出た。

   そして今、僕は父上に彼女が昨日、僕に嫌われた事に悲しんで泣いていたことも、僕が起きたらすぐに謝るためにそばにいたことも、父上が悪ふざけで隣に寝かせたことも、全て話して聞かされた。

  父上は申し訳なさそうに僕の頭を撫でて謝ってくれたけど、僕にも悪いとこがあると叱った。

   そしてその日僕は自己嫌悪に浸った。

(なんで、無視しちゃったんだろう⋯⋯。
    なんで、ちゃんとクリスティーナの話を聞かずあんな酷いことを言っちゃったんだろう⋯⋯)

   彼女は僕に謝ろうとしてくれていたのに⋯⋯

   その日はよく眠れなかった。

   寝ようとしても、どうしても、彼女の朝焼けを閉じ込めたような、あの綺麗な瞳から零れ落ちる涙が綺麗で、それでいて、彼女を悲しませているのが僕だと思うと苦しくて、目を閉じれば鮮明に思い出せるその光景に、僕は全然、寝れなかったんだ。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

処理中です...